タチジャコウソウ花/葉/茎エキスとは…成分効果と毒性を解説

色素沈着抑制 抗酸化
タチジャコウソウ花/葉/茎エキス
[化粧品成分表示名称]
・タチジャコウソウ花/葉/茎エキス

[医薬部外品表示名称]
・タイムエキス(2)

シソ科植物コモンタイム(∗1)(学名:Thymus vulgaris 和名:タチジャコウソウ)の地上部からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

∗1 シソ科イブキジャコウソウ属(Thymus)は220種を超えますが、これらの植物は「タイム(thyme)」 と総称されており、日本ではコモンタイム(タチジャコウソウ)を一般に「タイム」と呼ぶことが多いです。

コモンタイム(common thyme)は、ヨーロッパ南部を原産とし、1548年には英国の庭園で、1806年前後には米国の庭園で栽培され、現在の市場においては主にヨーロッパ東部および西部で栽培されたものが流通しています(文献1:2014)

タチジャコウソウ花/葉/茎エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
テルペノイド モノテルペン チモール、カルバクロール、α-ピネン
フラボノイド フラボン アピゲニン、ルテオリン

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献2:2013;文献3:2016;文献4:2018)

コモンタイムの化粧品以外の主な用途としては、爽やかさとほろ苦さを兼ねた芳香を有することから食品分野においてソースやケチャップの原料として、また肉料理やブイヤベースに香辛料として用いられています(文献5:2017)

また、メディカルハーブ分野においては鎮痙作用や鎮咳・去痰作用が知られていることから気管支炎、喘息、百日咳など呼吸器系疾患や食あたり、吐き気、消化不良による口臭など消化器系疾患に内服やハーブティーとして用いられます(文献1:2014;文献3:2016)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、シャンプー製品、トリートメント製品、洗顔料、ボディソープ製品、メイクアップ化粧品、化粧下地製品などに使用されています。

チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用

チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献6:2002;文献7:2016;文献8:2019)

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献6:2002;文献8:2019)

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献6:2002;文献8:2019)

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献6:2002)

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献6:2002)

このような背景から、チロシナーゼの活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

1994年にノエビアによって報告されたタイムエキスのチロシナーゼおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、

in vitro試験においてチロシンを溶解した基質溶液0.5mLに、1%タイムエキス(50%エタノール抽出)水溶液2mL、リン酸緩衝液(pH6.8)2mL、およびチロシナーゼ溶液0.5mLを混合し、37℃で1時間培養した後に吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率を算出したところ、以下の表のように、

試料 濃度(%) チロシナーゼ活性阻害率(%)
タイムエキス 1.0 49.0

タイムエキスはチロシナーゼ活性阻害作用を示した。

次に、色素沈着の気になる20人の女性被検者のうち10人に1%タイムエキスを含む乳液を、別の10人にタイムエキス未配合乳液をそれぞれ1日2回2ヶ月にわたって洗顔後の顔面に塗布してもらった。

2ヶ月後に「改善」「やや改善」「変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 皮膚の色素沈着に対する評価
改善 やや改善 変化なし
タイムエキス配合乳液 10 7 3 0
乳液のみ(対照) 10 0 1 9

1%タイムエキス配合乳液は、皮膚の色素沈着に対して改善傾向を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献9:1994)、タチジャコウソウ花/葉/茎エキスにチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。

SOD様活性による抗酸化作用

SOD様活性による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における活性酸素種、活性酸素種の酸化還元反応およびSODの役割について解説します。

活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)とは、酸素(O₂)が他の物質と反応しやすい状態に変化した反応性の高い酸素種の総称であり(文献10:2002;文献11:2019)、酸素から産生される活性酸素種の発生メカニズムは、以下のように、

酸素から産生される活性酸素発生メカニズム

酸化力を有する酸素(O₂)が、比較的容易に電子を受けてスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を生成し、さらに酸化が進むと過酸化水素(H₂O₂)、ヒドロキシルラジカル(HO)を経て、最終的に水(H₂O)になるというものです(文献12:2019)

この一連の反応を酸化還元反応と呼んでおり、正常な酸化還元反応において発生したスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)は少量であり、通常は抗酸化酵素の一種であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)により速やかに分解・消去されます(文献12:2019)

一方で、紫外線の曝露など(∗2)によりスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を含む活性酸素種の過剰な産生が知られており(文献13:1998)、過剰に産生されたスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)による分解・消去が追いつかず、紫外線の曝露時間やスーパーオキシドの発生量によってはヒドロキシルラジカル(HO・)まで変化することが知られています。

∗2 皮膚において活性酸素種が発生する最大の要因は紫外線ですが、他にも排気ガスなどの環境汚染物質、タバコの副流煙などの有害化学物質なども外的要因となります。

発生したヒドロキシルラジカル(HO)は、酸化ストレス障害として過酸化脂質の発生、コラーゲン分解酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現増加によるコラーゲン減少、DNA障害や細胞死などを引き起こし、中長期的にこれらの酸化ストレス障害を繰り返すことで光老化を促進します(文献12:2019;文献14:1996;文献15:2013)

このような背景から、紫外線の曝露時および曝露後にスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)の活性を増強することは、皮膚の酸化ストレス障害を抑制し、ひいては光老化、炎症および色素沈着などの抑制において非常に重要なアプローチのひとつであると考えられます。

2006年に一丸ファルコスによって報告されたタチジャコウソウ花/葉/茎エキスのスーパーオキシドおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験において96ウェルプレートの各ウェルに各濃度のタチジャコウソウ花/葉/茎エキスと純水を20μLずつ加え、SOD Assay Kit-WSTに基づいた処理工程を実施した後に吸光度を測定し、活性酸素消去率(スーパーオキシド消去率)を算出したところ、以下のグラフのように、

タチジャコウソウ花/葉/茎エキスのスーパーオキシド消去作用

タチジャコウソウ花/葉/茎エキスは、優れたスーパーオキシド消去作用を示すことが確認された。

次に、20人の被検者のうち10人に5%タチジャコウソウ花/葉/茎エキス配合乳液を、別の10人に対照として未配合乳液を、それぞれ顔面に1日1回3ヶ月間連続使用してもらった。

3ヶ月後に「有効:肌のツヤ・ハリが増し、乾燥肌・肌荒れが改善された」「やや有効:肌のツヤ・ハリがやや増し、乾燥肌・肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 皮膚感触に対する評価(人数)
有効 やや有効 無効
タチジャコウソウ花/葉/茎エキス配合乳液 10 4 5 1
乳液のみ(対照) 10 0 2 8

5%タチジャコウソウ花/葉/茎エキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して乾燥肌を改善し、肌にツヤ・ハリを付与することが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献16:2006)、タチジャコウソウ花/葉/茎エキスにSOD様活性による抗酸化作用が認められています。

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タチジャコウソウ花/葉/茎エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

タチジャコウソウ花/葉/茎エキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献17:2002)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に乾燥固形分濃度0.5%タチジャコウソウ花/葉/茎エキス水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後にDraize法の判定基準に基づいて一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に乾燥固形分濃度0.5%タチジャコウソウ花/葉/茎エキス水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日にDraize法の判定基準に基づいて皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2006に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

タチジャコウソウ花/葉/茎エキスは美白成分、抗酸化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:美白成分 抗酸化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. レベッカ ジョンソン, 他(2014)「タイム」メディカルハーブ事典,95-97.
  2. 御影 雅幸(2013)「タイム」伝統医薬学・生薬学,129.
  3. 林 真一郎(2016)「タイム」メディカルハーブの事典 改定新版,90-91.
  4. ジャパンハーブソサエティー(2018)「タイム」ハーブのすべてがわかる事典,126-127.
  5. 杉田 浩一, 他(2017)「タイム」新版 日本食品大事典,456-457.
  6. 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  7. 日光ケミカルズ(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  8. 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
  9. 株式会社ノエビア(1994)「美白化粧料」特開平06-199647.
  10. 朝田 康夫(2002)「活性酸素とは何か」美容皮膚科学事典,153-154.
  11. 河野 雅弘, 他(2019)「活性酸素種とは」抗酸化の科学,XⅢ-XⅣ.
  12. 小澤 俊彦(2019)「活性酸素種および活性窒素種の発生系」抗酸化の科学,123-138.
  13. 荒金 久美(1998)「光と皮膚」ファルマシア(34)(1),30-33.
  14. 花田 勝美(1996)「活性酸素・フリーラジカルは皮膚でどのようにつくられるか」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,15-35.
  15. 小林 枝里, 他(2013)「表皮の酸化ストレスとその防御機構」Fragrance Journal(41)(2),16-21.
  16. 一丸ファルコス株式会社(2006)「活性酸素消去剤」特開2006-117612.
  17. 一丸ファルコス株式会社(2002)「エラスターゼ活性阻害剤及び化粧料組成物」特開2002-205950.

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