カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸とは…成分効果と毒性を解説




・カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸
[慣用名]
・GO-VC、グリセリルオクチルアスコルビン酸
2012年に化粧品市場に上市されたアスコルビン酸(ビタミンC)に保湿性の高い水溶性成分であるグリセリンおよび炭素数8の油溶性成分(一価アルコール:脂肪族アルコール)であるオクタノールを結合させた両親媒性ビタミンC誘導体(∗1)です。
∗1 両親媒性とは親水性と親油性の両方の性質を有した性質のことです。
これまでビタミンC誘導体は、化学構造的にビタミンCの2,3,5,6位の水酸基のいずれかもしくは複数にリン酸や脂質などの成分を付加することで高い安定性を実現してきており、また結合する成分によって油溶性や両親媒性の性質も獲得することが可能であるため、皮膚浸透性の向上も実現してきましたが、その一方でまれに皮膚に対してつっぱり感を与えたり、乾燥を亢進(∗2)されたりしてしまうことが課題となっていました。
∗2 亢進(こうしん)とは、度合いが高まること、たかぶり進むことです。
カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸は、ビタミンCに保湿性の高いグリセリンを付加することで、高い安定性および皮膚浸透性を保持しつつ、乾燥の亢進や皮膚のつっぱり感などの課題を解決するために開発されたビタミンC誘導体です(文献1:2015)。
安定性に関しては、30日後で90%以上、90日後で80%以上の残存量が報告されており、アスコルビン酸と比較して安定性が非常に高いと考えられます(文献2:-)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、美白化粧品、スキンケア化粧品に使用されています。
メラニン産生抑制による色素沈着抑制作用
メラニン産生抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
この一連のプロセスによって黒化メラニンが生合成されますが、アスコルビン酸(ビタミンC)には、以下のように、
- ドーパキノンをドーパに還元 [色素沈着抑制作用]
- 黒化メラニンを淡色メラニンに還元 [メラニン淡色化作用]
黒化メラニンになる前に還元して黒化メラニンを防止する作用と、黒化メラニンそのものを還元して色素を薄くする作用があります。
このような背景からメラニンの還元(淡色化)は色素沈着防止という点で重要であると考えられます。
2015年にアイティーオー、おさめスキンクリニック、かおるクリニックおよびクリニックモリによって報告されたカプリリル2-グリセリルアスコルビン酸のメラニン産生抑制検証によると、
カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸は、濃度依存的にメラニン産生を抑制し、アルブチンよりも低濃度で効果を発揮した。
このような検証結果が明らかにされており(文献1:2015;文献2:-)、カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸にメラニン合成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
アクネ菌増殖抑制による抗菌作用
アクネ菌増殖抑制による抗菌作用に関しては、まず前提知識として皮膚常在菌、アクネ菌(Propionibacterium acnes)およびオクタノールについて解説します。
一般に、健常なヒト皮膚上には皮膚常在菌と呼ばれる多種の微生物が常在して微生物叢を形成し、健康な状態においてはそれが病原性微生物の侵入を排除する生体バリアとしても機能しており、皮膚の恒常性を保つ一因となっています。
皮膚常在菌には、主に、
- アクネ菌(Propionibacterium acnes)
- 表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
などが大半を占め、それぞれがバランスしながら皮膚上でバリア機能として働いています。
皮膚常在菌のひとつであるアクネ菌は、ニキビの発症にも関与しており、皮脂を栄養分として増殖するため、皮脂の溜まった毛穴では過剰に増殖し、その結果、皮脂を遊離脂肪酸に変化させるリパーゼが大量に分泌され、最終的に炎症が生じます。
このような背景から、アクネ菌の増殖を抑制することは、ニキビの予防または改善のために重要であると考えられます。
また、化学構造的にカプリリル2-グリセリルアスコルビン酸に結合しているオクタノールは、抗菌活性を有していることが知られており(文献3:1979)、黄色ブドウ球菌およびアクネ菌の増殖を抑制する作用も確認されています。
2015年にアイティーオー、おさめスキンクリニック、かおるクリニックおよびクリニックモリによって報告されたカプリリル2-グリセリルアスコルビン酸のニキビおよび赤みに対する影響によると、
6人の被検者(23-38歳)に0.1%カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸配合ジェル製剤を1日2回1-4ヶ月にわたって朝晩洗顔後に全顔に塗布し、赤みの数と面積を評価したところ、以下のグラフのように、
カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸は、顕著なニキビと赤みの改善が見られた。
このような検証結果が明らかにされており(文献1:2015)、カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸にアクネ菌増殖抑制による抗菌作用が認められています。
線維芽細胞増殖およびコラーゲン合成促進による抗老化作用
線維芽細胞増殖およびコラーゲン合成促進による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるコラーゲンの役割と線維芽細胞について解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
コラーゲンは、真皮において線維芽細胞から合成され、水分を多量に保持したヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのムコ多糖類(グリコサミノグルカン)を維持・保護・支持し、内部にたっぷりと水分を抱えながら皮膚のハリを支える膠質状の性質を持つ枠組みとして規則的に配列しています(文献4:2002)。
ただし、加齢や過剰な紫外線によって線維芽細胞数が減少することで、コラーゲン量も減少していくことが知られており、線維芽細胞の増殖を促進することはハリのある若々しい肌を維持するために重要であると考えられています。
2015年にアイティーオー、おさめスキンクリニック、かおるクリニックおよびクリニックモリによって報告されたカプリリル2-グリセリルアスコルビン酸の線維芽細胞およびコラーゲンへの影響検証によると、
カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸は、すべての濃度で細胞増殖率の有意な増加が確認された。
次に正常ヒト線維芽細胞を25および50μmol/Lのカプリリル2-グリセリルアスコルビン酸で24時間培養し、Ⅰ型コラーゲン量を測定したところ、以下のグラフのように、
カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸は、50μmol/Lにて有意な増加が確認された。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:2008)、カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸に線維芽細胞増殖およびコラーゲン合成促進による抗老化作用が認められています。
カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 皮膚刺激性:20%以下濃度においてほとんどなし
- 眼刺激性:0.5%以下濃度においてほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):20%以下濃度においてほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
開発元のアイ・ティー・オーの安全性データ(文献2:-)によると、
- [ヒト試験] 被検者(人数不明)に20%カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作などの皮膚反応はなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、20%以下濃度において皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
開発元のアイ・ティー・オーの安全性データ(文献2:-)によると、
- [in vitro試験] 畜牛の眼球から摘出した角膜を用いて、角膜表面に0.5%カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸水溶液を処理した後、角膜の濁度ならびに透過性の変化量を定量的に測定したところ(BCOP法)、刺激性なしと予測された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、0.5%以下濃度において眼刺激性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸は美白成分、抗菌作用、抗老化成分にカテゴライズされています。
それぞれの成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- 永田 武, 他(2015)「新規両親媒性ビタミンC誘導体GO-VCの臨床効果」Fragrance Journal(43)(9),39-44.
- 株式会社アイ・ティー・オー(-)「GO-VC」技術資料.
- 加藤 信行(1979)「アルコ-ル類の抗菌作用」甲南女子大学研究紀要(15),189-198.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.
スポンサーリンク