リノール酸とは…成分効果と毒性を解説

美白 エモリエント成分 抗菌成分
リノール酸
[化粧品成分表示名称]
・リノール酸

[医薬部外品表示名称]
・リノール酸

サフラワー油またはヒマワリ種子油などの植物油から抽出して得られる、化学構造的に炭素数:二重結合数がC18:2で構成された高級脂肪酸(不飽和脂肪酸)です。

高級脂肪酸とは、化学構造的に炭素数12以上の脂肪酸のことをいい、炭素数が多いとそれだけ炭素鎖が長くなるため、長鎖脂肪酸とも呼ばれます。

また直鎖で炭素鎖が長いほど(炭素数が大きいほど)融点(∗1)が高くなりますが、リノール酸は2つの二重結合があり、直鎖ではなく二重結合部を起点に曲がったような化学構造になるため、融点は直鎖より低く、-5℃です(文献2:2016)

∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。

高級脂肪酸は、以下の表のように大きく2種類に分類され、

  飽和脂肪酸 不飽和脂肪酸
化学結合 すべて単結合(飽和結合) 二重結合や三重結合を含む(不飽和結合)
含有油脂 動物性油脂に多い 植物性油脂に多い
常温での状態 固体(脂) 液体(油)
融点 高い 低い
酸化安定性 高い 比較的低い

化学構造的に二重結合(不飽和結合)の数が多いほど酸化安定性が低くなりますが、リノール酸は化学構造的に二重結合(不飽和結合)を2つ有する不飽和脂肪酸であり、一般的に酸化安定性の低い(酸化しやすい)脂肪酸です(文献3:1997)

またリノール酸、リノレン酸、アラキドン酸は、動物発達上重要な物質な必須脂肪酸であり、これらはまとめてビタミンFとも呼ばれています(文献4:1997)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品など様々な製品に使用されます(文献2:2016;文献5:1990;文献8:1993)

メラニン生合成抑制およびチロシナーゼ活性抑制による色素沈着抑制作用

メラニン生合成抑制およびチロシナーゼ活性抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムとチロシナーゼについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

紫外線におけるメラニン生合成までのプロセス

紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。

メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。

このような背景からメラニンの生合成およびチロシナーゼ活性を抑制することは色素沈着防止という点で重要であると考えられます。

1993年にサンスターによって報告されたリノール酸のメラのジェネシス抑制検証によると、

6.25-25μMのリノール酸を含むB16メラノーマ細胞を培養し、1mMのドーパ液を加え、メラニン量およびドーパオキシダーゼを指標としてチロシナーゼ活性を算出したところ、以下のグラフのように、

B16メラノーマ細胞におけるリノール酸のメラニン量およびチロシナーゼ活性への影響

リノール酸は、B16メラノーマ細胞のメラニン量およびチロシナーゼ活性を濃度依存的に減少させることがわかった。

ただし、濃度依存的ではあるものの、チロシナーゼ活性の低下率はメラニン量の減少率に比較し、顕著ではなかった。

なお細胞増殖に影響は認められなかった。

次に500μMのdbcAMPと2ng/mLのbFGFを含む培養ヒト正常メラノサイトに6.25-25μMのリノール酸を添加し、6日間培養したところ、以下のグラフのように、

ヒト正常メラノサイトにおけるリノール酸のメラニン量およびチロシナーゼ活性への影響

リノール酸は、ヒト正常メラノサイトにおいて、濃度依存的なメラニン量およびチロシナーゼ活性の減少が認められた。

なお細胞増殖に影響は認められなかった。

またモルモットの背部にUVBを照射することで形成された色素沈着部位に1%リノール酸エタノール溶液を4週間累積塗布し、この期間に色彩色差計で色素沈着部位の明度(L値)を計測したところ、以下のグラフのように、

モルモットにおけるリノール酸添加による色素沈着部位の明度への影響

リノール酸の添加から約10日で、塗布した時点より顕著な明度の増加が示された。

このような検証結果が明らかにされており(文献8:1993)、リノール酸にメラニン生合成抑制およびチロシナーゼ活性抑制による色素沈着抑制作用が認められています。

皮膚柔軟によるエモリエント作用

皮膚柔軟によるエモリエント作用に関しては、肌と親和性が高く、角層からの水分蒸散を防止し、肌を柔軟にする作用を有しています(文献5:1990)

黄色ブドウ球菌増殖抑制による抗菌作用

黄色ブドウ球菌増殖抑制による抗菌作用に関しては、まず前提知識として皮膚常在菌について解説します。

一般に、健常なヒト皮膚上には皮膚常在菌と呼ばれる多種の微生物が常在して微生物叢を形成し、健康な状態においてはそれが病原性微生物の侵入を排除する生体バリアとしても機能しており、皮膚の恒常性を保つ一因となっています。

皮膚常在菌には、主に、

  • アクネ菌(Propionibacterium acnes)
  • 表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)
  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)

などが大半を占め、表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌は拮抗関係にあり、黄色ブドウ球菌に対して表皮ブドウ球菌の優位性を高めることが健康な皮膚をつくるための重要な要因のひとつであると考えられています(文献10:2001)

これら常在菌は、皮膚上でバリア機能として働いている一方で、皮脂分泌の亢進により皮脂貯留が起こることで増殖し、それにともなって増殖したアクネ菌や表皮ブドウ球菌に存在するリパーゼも増加することにより、皮脂成分であるトリグリセリドが分解され、遊離脂肪酸が増加し、炎症を引き起こすといわれています。

またアトピー性皮膚炎発症の原因のひとつに黄色ブドウ球菌の異常増殖が関係していることが報告されています(文献11:2015)

1996年に昭和薬科大学微生物学研究室 によって報告された脂肪酸および植物油脂における黄色ブドウ球菌の増殖抑制検証によると、

アトピー性皮膚炎患部からは高率に黄色ブドウ球菌が分離され、増悪因子であると考えられている。

精製ツバキ油にはアトピー性皮膚炎のスキンケアに用いられた際に有用であった例が報告されているが、その効果も主に乾燥性皮膚を改善するスキンケア効果の間接的なものと思われている。

しかし、精製ツバキ油のアトピー性皮膚炎に対する効果はスキンケア効果だけでなく、トリグリセリドとして含まれるオレイン酸の黄色ブドウ球菌の増殖抑制作用による可能性もあるのではないかと考え、局方ツバキ油、精製ツバキ油およびオリーブ油などの植物油脂による黄色ブドウ球菌の増殖抑制作用について検討し、脂肪酸のリノール酸およびオレイン酸、化粧品基剤のスクワランミネラルオイルについて比較した。

各種細菌の発育支持能に優れた培地(BHI)に各試料80μg/mLを添加し、均一に混ぜた後に培養した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus FDA 209 P)を1.0×10⁷CFU/mLになるように接種した。

試料を含まない培地における増殖と比較し、それぞれの試料が増殖に与える最小濃度を求めたところ、以下の表のように(∗1)(∗2)

∗1 NI(Not inhibitory at the concentrations tested)とは、試験した濃度では増殖抑制効果は認められないという意味です。

∗2 ID50(median infective dose:50%感染量)とは、細菌やウイルスなどの定量法の一つで、多数の動物や培養組織に、感染性の微生物を含む検体を接種した場合に、全体の50%に感染させると推定される微生物等の量を表す数値です。

試料 試料が増殖に与える最小濃度(μg/mL) ID50(μg/mL)
リノール酸 1.25 1.6
オレイン酸 5 6.0
局方ツバキ油 2.5 3.5
精製ツバキ油 10 35
オリーブ油 20 ≧100
スクワラン NI NI
ミネラルオイル NI NI

リノール酸は、優れた黄色ブドウ球菌の増殖抑制効果が示された。

このような検証結果が明らかにされており(文献9:1996)、リノール酸に黄色ブドウ球菌増殖抑制による抗菌作用が認められています。

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2016年-2018年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

リノール酸の配合製品数と配合量の調査結果(2016年-2018年)

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リノール酸の安全性(刺激性・アレルギー)について

リノール酸の現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):弱-中程度。ただしヒトでの感作症例なし

これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、安全性は現時点では問題ないと考えられますが、同時に注意が必要であるとも考えられます。

複数の皮膚感作性試験で皮膚感作物質であると結論付けられていますが、化粧品だけでなく食用油での使用実績も長いなかでヒトでの感作症例がなく、その点では問題ないとも考えられますが、現段階では試験結果と実際のヒト感作の相違が解決されておらず、さらなる研究が必要とされています。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

サンスターの試験データ(文献8:1993)によると、

  • [動物試験] モルモットの背部に1%リノール酸エタノール溶液を4週間にわたって累積塗布したところ、試験期間中に紅斑などの皮膚炎症症状は認められなかった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、累積皮膚刺激性なしと報告されているため、皮膚刺激はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:2018)によると、

  • [in vitro試験] 皮膚感作性試験代替法であるDPRA(Direct Peptide Reactivity Assay:ペプチド結合性試験)において、合成システインペプチドおよび合成リシンペプチドと99%リノール酸を混合・反応させ、ペプチドの減少率から皮膚感作性を判定(反応率の平均が6.38%以上で陽性)したところ、23.1%(中程度の反応)を示し、陽性と判定した(Yamashita K,et al,2015)
  • [動物試験] LLNA:DAE(誘発相を含み、境界線陽性化学物質を識別する局所リンパ節試験)において、試験群マウスの右耳に99%リノール酸溶液の10%濃度を1,2および3日目に塗布し、10日目に両耳に塗布、またコントロール群には10日目のみ左耳に99%リノール酸溶液の10%濃度を塗布した。どちらも12日目にリンパ節を摘出し、リンパ節重量を測定したところ、リノール酸は弱感作物質だと結論付けられた(Yamashita K,et al,2015)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して弱-中程度の皮膚感作性ありと報告されているため、皮膚感作性が起こる可能性があると考えられます。

このように現在採用されている複数の皮膚感作試験においては皮膚感作性が示されていますが、いっぽうでリノール酸は化粧品だけでなく食用油としても10年以上にわたって用いられてきた中で、ヒトにおける皮膚感作症例がないという事実があります。

記載した2つの皮膚感作試験データにおける陽性判定と、ヒトにおける皮膚感作症例がないという事実は、理論的に納得しにくいと考えられるため、明らかになっている事実を整理します。

記載した皮膚感作試験のひとつであるDPRA(ペプチド結合性試験)は、感作の最初のステップであるハプテン結合を模した試験であり、化学物質の感作性の発現には重要な試験と認識されています。

DPRAの結果に対するヒトに対する陽性予測率は92%と報告されており(文献7:2008)、これはDPRAで陽性と判定された場合、その92%がヒトにおいても感作性を示すことが予測されるという意味ですが、この試験においてリノール酸は陽性と予測されています。

もうひとつの感作性試験であるLLNA:DAEは、感作誘導段階のリンパ節の増殖を感作性の有無と強度の指標にしており、またこのリンパ節の増殖には、非特異的なリンパ節の増殖と感作性物質特異的な増殖の2つが混在していますが、LLNA:DAEでは感作性物質特異的な増殖を識別することができ、この試験においてもリノール酸は陽性と判定されています。

これらの2つの試験ともに陽性判定であるという事実は、リノール酸が感作性物質であることを強く示唆する結果であると考えられます。

また、この結果が脂肪酸類を含む化合物に共通したメカニズムによるものなのかを確認するために、同じ脂肪酸類の中でDPRAで陽性判定であるリノレン酸とマレイン酸を組み合わせた交差感作性試験や、ヒトでのアレルギー報告があるウンデシレン酸と炎症性サイトカインIL-1αを誘導するオレイン酸を組み合わせた交差感作性試験の結果では、相互に惹起反応は認められず、それぞれの感作反応は、不飽和脂肪酸を含む化合物共通のメカニズムによるものではなく、それぞれの物質に特異的な反応であることが確認されています(文献6:2016)

これらの事実・試験結果から、リノール酸は感作性物質であると結論付けられており、一方でヒトでの症例がみつけられなかったことに関しては、さらなる研究が必要であると報告されています(文献6:2016)

∗∗∗

リノール酸は美白成分、エモリエント成分、抗菌成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:美白成分 エモリエント成分 抗菌成分

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文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2018)「Safety Assessment of Fatty Acids & Fatty Acid Salts as Used in Cosmetics」Tentative Report for Public Comment.
  2. 日光ケミカルズ(2016)「脂肪酸および有機酸」パーソナルケアハンドブック,546.
  3. 広田 博(1997)「脂肪酸の組成と分類」化粧品用油脂の科学,60-64.
  4. 広田 博(1997)「不飽和脂肪酸」化粧品用油脂の科学,68-70.
  5. 田村 健夫, 他(1990)「高級脂肪酸」香粧品科学 理論と実際 第4版,112-116.
  6. 山下 邦彦(2016)「惹起相を含む皮膚感作性試験 LLNA:DAE 法の開発」, <https://ynu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=7668&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1> 2019年1月26日アクセス.
  7. Ulrich.P, et al(2008)「Utilixation of Irritation Data in Local Lymph Node Assay」Marzulli and Maibacha’s Dermatoxicology<7th Edition>,707-712.
  8. 安藤 秀哉, 他(1993)「リノール酸のメラノジェネシスに対する抑制効果」日本化粧品技術者会誌(27)(3),415-423.
  9. 新井 武利, 他(1996)「脂肪酸, 精製ツバキ油およびオリーブ油の黄色ブドウ球菌に対する増殖抑制作用について」日本化学療法学会雑誌(44)(10),786-791.
  10. 石坂 要, 他(2001)「健常人より分離した皮膚常在菌について」日本化粧品技術者会誌(35)(1),34-41.
  11. Kobayashi T, et al(2015)「Dysbiosis and Staphylococcus aureus Colonization Drives Inflammation in Atopic Dermatitis.」Immunity(42)(4),756-766.

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