メリッサ葉エキスとは…成分効果と毒性を解説



・メリッサ葉エキス
[医薬部外品表示名]
・メリッサエキス
シソ科植物レモンバーム(学名:Melissa officinalis 和名:コウスイハッカ)の葉から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
レモンバーム(lemon balm)は、南ヨーロッパを原産とし、2000年以上前から古代ギリシア人によって蜜源植物として栽培されており、レモンバームのミントとレモンを合わせたような爽やかな芳香がミツバチを引きつけることから、ギリシア語でミツバチを意味する「メリッサ(Merissa)」とも呼ばれています(文献1:2014;文献2:2018)。
現在ではヨーロッパ大陸のほぼ全域に分布しており、北米においても東部の州の多くやカナダの各州で広範囲に野生化しています。
メリッサ葉エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
テルペノイド | モノテルペン | シトラール、シトロネラール |
タンニン | シソ科タンニン | |
フェニルプロパノイド | ロスマリン酸、クロロゲン酸、カフェ酸 |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献2:2018;文献3:2016)。
レモンバーム葉の化粧品以外の主な用途としては、ミントとレモンを合わせたような爽やかな芳香を有することから食品分野においてサラダやスープの香り付けとして用いられています(文献3:2017)。
また、メディカルハーブ分野においては心身のデリケートな状態(ストレス状態や不安な状態など)を穏やかに緩和する特徴から神経系への適用としてヒステリー、パニック、神経の緊張による不眠などに、消化器系への適用としては神経性胃炎、神経性の食欲不振、胃腸の機能障害などに用いられています(文献1:2014;文献4:2016)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、メイクアップ製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、ボディ石鹸、デオドラント製品など様々な製品に使用されています。
チロシナーゼ活性阻害およびPOMC発現抑制による色素沈着抑制作用
チロシナーゼ活性阻害およびPOMC発現抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズム、チロシナーゼおよびPOMCについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献5:2002;文献6:2016;文献7:2019)。
このメラノサイト活性化因子のひとつとしてα-MSH(α-melanocyte-stimulating hormone:メラノサイト刺激ホルモン)が知られており、α-MSHはメラノサイト増殖作用およびチロシナーゼ合成促進作用が認められていますが(文献6:2016)、α-MSHは紫外線の曝露により角化細胞で発現が増加するポリペプチド前駆体であるPOMC(Pro-opiomelanocortin:プロオピオメラノコルチン)から産生されることが明らかにされています(文献8:1994)。
また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献5:2002;文献7:2019)。
ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献5:2002;文献7:2019)。
そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献5:2002)。
正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献5:2002)。
このような背景から、チロシナーゼの活性やPOMCの発現を抑制してα-MSHの産生を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
1994年にノエビアによって報告されたメリッサ葉エキスのチロシナーゼおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、
試料 | 濃度(%) | チロシナーゼ活性阻害率(%) |
---|---|---|
メリッサ葉エキス | 1.0 | 61.2 |
メリッサ葉エキスはチロシナーゼ活性阻害作用を示した。
次に、色素沈着の気になる20名の女性被検者のうち10名に5%メリッサ葉エキスを含むクリームを、別の10名にメリッサ葉エキス未配合クリームをそれぞれ1日2回2ヶ月にわたって洗顔後の顔面に塗布してもらった。
2ヶ月後に「改善」「やや改善」「変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 被検者数 | 皮膚の色素沈着に対する評価 | ||
---|---|---|---|---|
改善 | やや改善 | 変化なし | ||
メリッサ葉エキス配合クリーム | 10 | 9 | 1 | 0 |
クリームのみ(対照) | 10 | 0 | 0 | 10 |
5%メリッサ葉エキス配合クリームは、皮膚の色素沈着に対して改善傾向を示した。
このような試験結果が明らかにされており(文献9:1994)、メリッサ葉エキスにチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。
次に、2014年に一丸ファルコスによって報告されたメリッサ葉エキスのPOMCおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、
0.5%メリッサ葉エキスは、POMCの発現を抑制することを確認した。
次に、シミ・ソバカスで悩む40名の女性被検者(30-60歳)のうち20名に5%メリッサ葉エキス配合乳液を、残りの20名に未配合乳液を1日2回(朝夕)3ヶ月にわたって顔面に塗布してもらった。
3ヶ月後にシミ・ソバカスの改善効果を「有効:シミ・ソバカスが軽減した」「やや有効:シミ・ソバカスがやや軽減した」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 被検者数 | 有効 | やや有効 | 無効 |
---|---|---|---|---|
メリッサ葉エキス配合乳液 | 20 | 1 | 15 | 4 |
乳液のみ(対照) | 20 | 0 | 4 | 16 |
5%メリッサ葉エキス配合乳液塗布群は、未配合乳液塗布群と比較してシミまたはソバカスの改善効果が確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献10:2014)、メリッサ葉エキスにPOMC発現抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
SOD様活性による抗酸化作用
SOD様活性による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における活性酸素種、活性酸素種の酸化還元反応およびSODの役割について解説します。
活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)とは、酸素(O₂)が他の物質と反応しやすい状態に変化した反応性の高い酸素種の総称であり(文献11:2002;文献12:2019)、酸素から産生される活性酸素種の発生メカニズムは、以下のように、
酸化力を有する酸素(O₂)が、比較的容易に電子を受けてスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を生成し、さらに酸化が進むと過酸化水素(H₂O₂)、ヒドロキシルラジカル(HO)を経て、最終的に水(H₂O)になるというものです(文献13:2019)。
この一連の反応を酸化還元反応と呼んでおり、正常な酸化還元反応において発生したスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)は少量であり、通常は抗酸化酵素の一種であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)により速やかに分解・消去されます(文献13:2019)。
一方で、紫外線の曝露など(∗1)によりスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を含む活性酸素種の過剰な産生が知られており(文献14:1998)、過剰に産生されたスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)による分解・消去が追いつかず、紫外線の曝露時間やスーパーオキシドの発生量によってはヒドロキシルラジカル(HO・)まで変化することが知られています。
∗1 皮膚において活性酸素種が発生する最大の要因は紫外線ですが、他にも排気ガスなどの環境汚染物質、タバコの副流煙などの有害化学物質なども外的要因となります。
発生したヒドロキシルラジカル(HO)は、酸化ストレス障害として過酸化脂質の発生、コラーゲン分解酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現増加によるコラーゲン減少、DNA障害や細胞死などを引き起こし、中長期的にこれらの酸化ストレス障害を繰り返すことで光老化を促進します(文献13:2019;文献15:1996;文献16:2013)。
このような背景から、紫外線の曝露時および曝露後にスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)の活性を増強することは、皮膚の酸化ストレス障害を抑制し、ひいては光老化、炎症および色素沈着などの抑制において非常に重要なアプローチのひとつであると考えられます。
2006年に一丸ファルコスによって報告されたメリッサ葉エキスのスーパーオキシドおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、
メリッサ葉エキスは、優れたスーパーオキシド消去作用を示すことが確認された。
次に、20名の被検者のうち10名に5%メリッサ葉エキス配合乳液を、別の10名に対照として未配合乳液を、それぞれ顔面に1日1回3ヶ月間連続使用してもらった。
3ヶ月後に「有効:肌のツヤ・ハリが増し、乾燥肌・肌荒れが改善された」「やや有効:肌のツヤ・ハリがやや増し、乾燥肌・肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 被検者数 | 皮膚感触に対する評価(人数) | ||
---|---|---|---|---|
有効 | やや有効 | 無効 | ||
メリッサ葉エキス配合乳液 | 10 | 5 | 4 | 1 |
乳液のみ(対照) | 10 | 0 | 2 | 8 |
5%メリッサ葉エキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して乾燥肌を改善し、肌にツヤ・ハリを付与することが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献17:2006)、メリッサ葉エキスにSOD様活性による抗酸化作用が認められています。
複合植物エキスとしてのメリッサ葉エキス
メリッサ葉エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、メリッサ葉エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | GIGAWHITE |
---|---|
構成成分 | ゼニアオイ花/葉/茎エキス、セイヨウハッカ葉エキス、セイヨウサクラソウ花エキス、ハゴロモグサ花/葉/茎エキス、ベロニカオフィシナリス花/葉/茎エキス、メリッサ葉エキス、セイヨウノコギリソウ花/葉/茎エキス、BG、水、グリセリン、エタノール |
特徴 | 肌ブライトニング目的で設計された7種類の混合植物抽出液 |
メリッサ葉エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した背部に乾燥固形分濃度1%メリッサ葉エキス水溶液0.03mLを塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に乾燥固形分濃度2%メリッサ葉エキス水溶液0.03mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
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メリッサ葉エキスは美白成分、抗酸化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- レベッカ ジョンソン, 他(2014)「レモンバーム」メディカルハーブ事典,35-37.
- ジャパンハーブソサエティー(2018)「レモンバーム」ハーブのすべてがわかる事典,216.
- 杉田 浩一, 他(2017)「レモンバーム」新版 日本食品大事典,849.
- 林 真一郎(2016)「レモンバーム(メリッサ)」メディカルハーブの事典 改定新版,194-195.
- 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
- 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
- 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
- X. Bertagna(1994)「Proopiomelanocortin-derived peptides」Endocrinology & Metabolism Clinics of North America(23)(3),467-485.
- 株式会社ノエビア(1994)「美白化粧料」特開平06-199647.
- 一丸ファルコス株式会社(2014)「プロオピオメラノコルチン発現抑制剤」特開2014-114241.
- 朝田 康夫(2002)「活性酸素とは何か」美容皮膚科学事典,153-154.
- 河野 雅弘, 他(2019)「活性酸素種とは」抗酸化の科学,XⅢ-XⅣ.
- 小澤 俊彦(2019)「活性酸素種および活性窒素種の発生系」抗酸化の科学,123-138.
- 荒金 久美(1998)「光と皮膚」ファルマシア(34)(1),30-33.
- 花田 勝美(1996)「活性酸素・フリーラジカルは皮膚でどのようにつくられるか」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,15-35.
- 小林 枝里, 他(2013)「表皮の酸化ストレスとその防御機構」Fragrance Journal(41)(2),16-21.
- 一丸ファルコス株式会社(2006)「活性酸素消去剤」特開2006-117612.