フェルラ酸とは…成分効果と毒性を解説



・フェルラ酸
[医薬部外品表示名称]
・フェルラ酸
植物の細胞壁の主要な構成成分であるリグニン生合成経路の中間体であり、主にイネ科植物アジアイネ(学名:Oryza sativa 英名:Rice)の糠(果皮・種皮・胚芽)に含まれるγ-オリザノールを加水分解して得られる疎水性のケイ皮酸誘導体です。
フェルラ酸の物性は、
分子量 | 極大吸収波長(nm) |
---|---|
194 | 322 |
このように記載されています(文献1:2006)。
極大吸収波長とは、最も吸収する紫外線波のことであり、フェルラ酸は322に極大吸収波長を有し、また322という数値はUVA波長領域(320-400nm)ですが、総合的な吸収波長領域を考慮した場合、UVB吸収領域が主であるため、UVB吸収剤に分類されています。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、米をコンセプトにした製品、日焼け止め製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア化粧品、洗顔料、ヘアケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品などに使用されています。
フェルラ酸は、ポジティブリストに収載されている紫外線吸収剤では唯一の天然植物由来成分であり、植物系、合成成分不使用、肌にやさしいといったコンセプト・プロモーションの製品に使用されます。
UVB吸収による紫外線防御作用
UVB吸収による紫外線防御作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UV:Ultra Violet)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
太陽による照射は、以下の図のように、
波長により、赤外線、可視光線および紫外線に分類されており、可視光線よりも波長の短いものが紫外線です。
また紫外線は、波長の長いものから
- UVA(長波長紫外線):320-400nm
- UVB(中波長紫外線):280-320nm
- UVC(短波長紫外線):100-280nm
このように大別され、波長が短いほど有害作用が強いという性質がありますが、以下の図のように、
UVCはオゾン層を通過する際に散乱・吸収されるため地上には到達せず、UVBはオゾン層により大部分が吸収された残りが地上に到達、UVAはオゾン層による吸収をあまり受けずに地表に到達することから、ヒトに影響があるのはUVBおよびUVAになります。
UVAおよびUVBのヒト皮膚への影響の違いは、以下の表のように(∗1)、
∗1 ( )内の反応は大量の紫外線を浴びた場合に起こる反応です。
UVA | UVB | |
---|---|---|
紫外線角層透過率 | 大 | 小 |
日焼けの現象 | サンタン (皮膚色が浅黒く変化) |
サンバーン (炎症を起こし、皮膚色が赤くなりヒリヒリした状態) |
急性皮膚刺激反応 | 即時型黒化(紅斑) 遅延型黒化(紅斑) UVBの反応を増強 (表皮肥厚、落屑) |
遅延型紅斑(炎症、水疱) 遅延型黒化 表皮肥厚、落屑 (DNA損傷) |
慢性皮膚刺激反応 | 真皮マトリックスの変性 | 真皮マトリックスの変性 |
日焼け現象発症時間 | 2-3日後 | 即時的 (1時間以内に赤みを帯び始める) |
性質がまったく異なっています(文献3:2002;文献4:2002;文献5:1997)。
国内の紫外線量の目安としては、2016年に茨城県つくば局によって公開されている紫外線量観測データによると、以下の表のように、
2月-10月の期間中とくに4月-9月の期間は、UVAおよびUVBの両方増加する傾向にあるため(文献6:2016)、UVAおよびUVB両方の紫外線防御が必要であると考えられます。
2009年にフランスのリモージュ大学生物物理学研究所によって報告されたフェルラ酸の紫外線吸収波長領域データによると、以下の表のように、
UVBの長波長領域(UVBのUVAよりの波長)からUVAの短波長領域(UVAのUVBよりの波長)への吸収作用が明らかにされており(文献2:2009)、フェルラ酸にUVB吸収による紫外線防御作用が認められています。
実際的なUVB吸収効果は、3%濃度を含むO/W(水中油型)エマルションで、代表的なUVB吸収剤であるメトキシケイヒ酸エチルヘキシルと比較したところ、SPF値はフェルラ酸 = 6.44、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル = 7.09であることから(文献7:2002)、フェルラ酸は天然成分でありながら、実用的なUVB吸収能を有していると考えられます。
フェルラ酸はフェノキシラジカルを触媒し、その結果としてフリーラジカル生成反応を止める抗酸化作用を有しており、フェルラ酸の紫外線吸収メカニズムは、紫外線によって引き起こされる酸化反応をこの抗酸化作用によって抑制するというものです(文献7:2002)。
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムとチロシナーゼについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合し、チロシンが酸化することでドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。
このような背景から、チロシンとチロシナーゼの結合を阻害し、メラニンの変換を防止・抑制することは、色素沈着防止という点で重要であると考えられます。
フェルラ酸は、化学構造がチロシンと類似しているため、チロシンと拮抗する(チロシンの代わりにチロシナーゼと結合する)ことでチロシンとチロシナーゼの結合を阻害することが報告されており(文献8:1980)、色素沈着抑制作用が認められています。
フェルラ酸は配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 10 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 10 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 配合不可 |
フェルラ酸の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
ポジティブリストに収載されており、また食品にも使用されていることから、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
∗∗∗
フェルラ酸は紫外線防御成分、美白成分にカテゴライズされています。
それぞれの成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
参考文献:
- 日光ケミカルズ(2006)「紫外線防御剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,445-459.
- E. Anouar, et al(2009)「New aspects of the antioxidant properties of phenolic acids: a combined theoretical and experimental approach.」Physical Chemistry Chemical Physics(35)(11),7659-7668.
- 朝田 康夫(2002)「紫外線の種類と作用は」美容皮膚科学事典,191-192.
- 朝田 康夫(2002)「サンタン、サンバーンとは」美容皮膚科学事典,192-195.
- 須加 基昭(1997)「紫外線防御スキンケア製品の開発」日本化粧品技術者会誌(31)(1),3-13.
- 国立環境研究所 有害紫外線モニタリングネットワーク(2016)「茨城県つくば局における紫外線量(UV-A,UV-B)月別値」, <http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/uv/uv_sitedata/graph01.html> 2019年6月15日アクセス.
- 築野 卓夫, 他(2002)「フェルラ酸の紫外線吸収剤としての化粧品への応用」Fragrance Journal(30)(7),68-71.
- 井端 泰夫(1980)「オリザノールの作用機構と化粧品への配合効果についての考察」Fragrance Journal(8)(6),92-97.