パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naとは…成分効果と毒性を解説

美白成分 抗酸化成分 抗老化成分 抗シワ成分
パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na
[化粧品成分表示名称]
・パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na

[慣用名]
・APPS、アプレシエ

リン酸型ビタミンC誘導体に、パルミチン酸を付加することで、親油性を兼ね備えた両親媒性ビタミンC誘導体(∗1)です。

∗1 両親媒性とは、親水性と親油性の両方を有していることであり、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naの場合は水溶性のリン酸型ビタミンC誘導体に親油性のパルミチン酸を付加することで親水性と親油性の両方の特徴を有しています。

水溶性ビタミンC誘導体は油溶性ビタミンCに比べて皮膚浸透性が劣りますが、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naは高級脂肪酸であるパルミチン酸を付加することで親油性も兼ね備え、皮膚浸透性を向上させたビタミンC誘導体です。

2004年に昭和電工によって公開された水溶性ビタミンC誘導体の皮膚浸透性および皮内アスコルビン酸量の比較検証によると、

ヒト表皮角化細胞を用いて、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na、アスコルビルリン酸Naアスコルビルグルコシドそれぞれ100μMを含む培地に交換し、3,6および18時間培養後に細胞を回収して洗浄し、細胞内のアスコルビン酸濃度を測定したところ、以下のグラフのように、

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naの細胞内アスコルビン酸濃度への影響

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naを添加して培養した細胞は、他のビタミンC水溶性誘導体に比べて、いずれの測定時間においても2-3倍のアスコルビン酸濃度であった。

これは、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naが疎水化を目的とした修飾により細胞膜との親和性が増し、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naが効率的に取り込まれアスコルビン酸濃度が増したものと推察される。

またアスコルビルグルコシドのアスコルビン酸濃度が低く、しかも遅効的であるのは、ヒト表皮角化細胞内に分解活性を有するα-グルコシダーゼの活性が低いためと思われる。

次にボランティアより提供を受けたヒト皮膚バイオプシー小片を用いて、表皮側に各ビタミンC誘導体0.5%を投与し、4時間経過した時点で皮膚片を取り出し、表皮および真皮中のアスコルビン酸濃度を測定した。

用いた皮膚片によって皮膚透過量にかなりの差異がみられたが、いずれの試験においても以下のグラフのように、

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naの皮内アスコルビン酸濃度への影響

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naは他のビタミンC誘導体を投与した皮膚に比べて顕著に高い皮膚内アスコルビン酸量を示した。

アスコルビルリン酸Naが真皮内のアスコルビン酸量をほとんど増加させないのに対して、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naは真皮アスコルビン酸量の増加を実現していることにより、当初の設計目的を達成していると考えられる。

このような検証結果が明らかにされており(文献1:2004)、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naは他の水溶性ビタミンC誘導体と比較して優れた皮内アスコルビン酸量の向上が認められています。

このように、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naは他のビタミンC誘導体と比較して皮膚浸透性および皮内アスコルビン酸量は優れているのですが、一方で処方された製品内で徐々に加水分解されたり、低温時は水への溶解性が低下し、高温時は変色や変臭が起きたり、低温時および高温時の両方において沈殿物の析出が促進されるため、長期安定性を保つことが困難であることも知られています(文献3:2008)

こういった背景からパルミチン酸アスコルビルリン酸3Naが処方された製品の中には、製品そのものにあらかじめ配合されているものではなく、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naの粉末を同梱し、使用直前に製品と粉末を混ぜて使用するタイプのものも汎用されています。

ただし、粉末の同梱の場合でも、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na粉末そのものは冷所保管が必要であり、長期保存には向かないという欠点があります(文献3:2008)

実際に同梱されたパルミチン酸アスコルビルリン酸3Na粉末を溶液に混ぜる場合は、使用時にその都度混ぜるのが確かな効果が期待できる方法ですが、複数の販売メーカーに問い合わせたところ、あらかじめ精製水および所有している化粧品に混ぜておいても目安として1ヶ月以内であればAPPSの効果が期待できると回答がありました(試験データはなく、厳密には徐々に分解されるので早めの使い切り推奨)。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、美白化粧品、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、日焼け止め製品、ヘアケア製品、ネイル製品などに使用されています(文献1:2017)

チロシナーゼ活性阻害およびメラニン産生抑制による色素沈着抑制作用

チロシナーゼ活性阻害およびメラニン産生抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

紫外線におけるメラニン生合成までのプロセス

紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。

メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。

この一連のプロセスによって黒化メラニンが生合成されますが、アスコルビン酸(ビタミンC)には、以下のように、

  • ドーパキノンをドーパに還元 [色素沈着抑制作用]
  • 黒化メラニンを淡色メラニンに還元 [メラニン淡色化作用]

黒化メラニンになる前に還元して黒化メラニンを防止する作用と、黒化メラニンそのものを還元して色素を薄くする作用があります。

このような背景からチロシナーゼ活性を抑制・阻害およびメラニンの還元(淡色化)は色素沈着防止という点で重要であると考えられます。

2004年に昭和電工によって公開されたパルミチン酸アスコルビルリン酸3Naのチロシナーゼ活性阻害検証によると、

B16マウスメラノーマおよびヒトメラノーマ細胞由来酵素抽出液にパルミチン酸アスコルビルリン酸3Naを0.1,0.25および0.5mM添加し、ドーパを基質として反応させたところ、以下のグラフのように、

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naのチロシナーゼ活性阻害効果

各チロシナーゼは濃度依存的に活性阻害を示した。

アスコルビン酸にチロシナーゼ活性阻害があることはすでに知られており、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naと皮内で変換されて生じるアスコルビン酸によってこの効果が十分期待できる結果であると考えられた。

このような検証結果が明らかにされており(文献1:2004)、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naには濃度依存的なチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。

次に、2015年に昭和電工によって公開されたパルミチン酸アスコルビルリン酸3Naのメラニン産生抑制検証によると、

ケラチノサイトとメラノサイトを共培養した3次元培養皮膚モデルに1%パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naおよび1%コウジ酸を投与し、2週間培養後に生成したメラニンを定量したところ、以下のグラフのように、

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naのメラニン産生抑制効果

1%パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naは、無添加と比較して明らかに淡色化しており、メラニン量は無添加の約70%にとどまった。

このような検証結果が明らかにされており(文献4:2015)、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naにはメラニン産生抑制による色素沈着抑制作用が認められています。

ヒドロキシラジカル消去能による抗酸化作用

ヒドロキシラジカル消去能による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として生体内における活性酸素の構造について解説します。

生体内における活性酸素は以下のように、

酸素(O₂) → スーパーオキシド(O₂⁻) → 過酸化水素(H₂O₂) → ヒドロキシラジカル(・OH)

最初に酸素と反応(電子を取り込む)して、まず活性酸素のスーパーオキシドを発生させ、発生したスーパーオキシドは活性酸素分解酵素であるSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)によって水に分解されますが、その過程で活性酸素である過酸化水素が発生します。

発生した過酸化水素は、過酸化水素分解酵素であるカタラーゼによって、また抗酸化物質であるグルタチオンを用いてグルタチオンペルオキシターゼによって水に分解されますが、それでも処理できない場合は、ヒドロキシラジカルを発生させます。

生体にはヒドロキシラジカルを分解する酵素がないため、ヒドロキシラジカルを発生させる前に活性酸素を分解するのが重要ですが、ヒドロキシラジカルが発生した場合にはヒドロキシラジカルを消去する抗酸化成分の経口摂取または外用が重要であると考えられます。

2004年に昭和電工によって公開された水溶性ビタミンC誘導体のヒドロキシラジカル消去能の比較検証によると、

ヒト皮膚再構築モデルの角層側に3%の各種ビタミンC誘導体を投与し、37℃で2時間保持し、紫外線UVBおよびUVA照射下でヒドロキシラジカル除去効果を測定したところ、以下のグラフのように、

ヒト皮膚再構築モデルにおけるビタミンC誘導体のヒドロキシラジカル消去効果

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naは、リン酸アスコルビルMgおよびアスコルビルリン酸Naと同等の顕著なヒドロキシラジカル除去能が認められた。

このような検証結果が明らかにされており(文献1:2004)、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naにはヒドロキシラジカル消去能による抗酸化作用が認められています。

コラーゲン合成促進による抗老化作用

コラーゲン合成促進による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるコラーゲンの役割を解説します。

以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、

皮膚の構造と皮膚の主要成分図

コラーゲンは、真皮において線維芽細胞から合成され、水分を多量に保持したヒアルロン酸コンドロイチン硫酸などのムコ多糖類(グリコサミノグルカン)を維持・保護・支持し、内部にたっぷりと水分を抱えながら皮膚のハリを支える膠質状の性質を持つ枠組みとして規則的に配列しています(文献2:2002)

ただし、加齢や過剰な紫外線によってコラーゲンの産生量が低減することで、その働きが衰えてくることが知られており、コラーゲン産生を促進することはハリのある若々しい肌を維持するために重要であると考えられています。

2004年に昭和電工によって公開された水溶性ビタミンC誘導体のコラーゲン合成促進効果の比較検証によると、

ヒト線維芽細胞を培養し、アスコルビルリン酸Na、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naおよび明日kロウビルグルコシドを1,3および10μM含む培地に交換し、さらに3日間培養を継続し、Ⅰ型コラーゲンを定量したところ、以下のグラフのように、

ヒト線維芽細胞におけるビタミンC誘導体のコラーゲン合成促進効果

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naおよびアスコルビルリン酸Naを投与した場合、濃度依存的にⅠ型コラーゲンが増加し、とくにパルミチン酸アスコルビルリン酸3Naでは顕著な効果が示された。

この結果は真皮は真皮に存在する細胞内のアスコルビン酸がコラーゲン合成促進につながるというメカニズムを実証している結果であると考えられる。

このような検証結果が明らかにされており(文献1:2004)、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naにコラーゲン合成促進による抗老化作用が認められています。

抗シワ作用

抗シワ作用に関しては、2015年に昭和電工によって報告されたパルミチン酸アスコルビルリン酸3Naの抗シワ検証によると、

21人の健康な女性被検者(31-45歳)に1日2回、洗顔後に1%パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na配合美容液を半顔の目尻を中心に8週間塗布し、もう一方の半顔は無塗布とし、使用前、4週間後および8週間後に目視によるシワグレードのスコア化および画像解析をおこなったところ、以下のグラフのように、

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naのシワへの影響

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naのシワへの影響

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naを塗布した部位でのシワの改善が認められた。

また同時に角層水分量の増加も認められたこともあり、1%パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na配合製品には乾燥によるシワを目立たなくする効果を有していることが示唆された。

このような検証結果が明らかにされており(文献4:2015)、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naに抗シワ作用が認められています。

スポンサーリンク

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naの安全性(刺激性・アレルギー)について

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naの現時点での安全性は、

  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

開発元の昭和電工の安全性報告(文献1:2004)によると、

  • 高い安全性を有した化合物である

と記載されています。

安全性の報告をみるかぎり、皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Naは美白成分、抗酸化成分、抗老化成分にカテゴライズされています。

それぞれの成分一覧は以下からお読みください。

参考:美白成分 抗酸化成分 抗老化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 加藤 詠子, 他(2004)「第ニ世代プロビタミンC」Fragrance Journal(32)(2),55-60.
  2. 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.
  3. 櫃田 廣子, 他(2008)「L-アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸凍結乾燥製剤及び化粧料」特開2008-106035.
  4. 加藤 詠子, 他(2015)「親油性を付与した水溶性ビタミンC誘導体:パルミチン酸アスコルビルリン酸(APPS)」Fragrance Journal(43)(9),51-55.

スポンサーリンク

TOPへ