トラネキサム酸とは…成分効果と毒性を解説

美白 抗炎症成分
トラネキサム酸
[医薬部外品表示名称]
・トラネキサム酸

[慣用名]
・t-AMCHA、m-トラネキサム酸、ホワイトトラネキサム酸

2002年に医薬部外品美白有効成分に承認された(∗1)、水溶性のt-シクロアミノ酸誘導体(∗2)です。

∗1 トラネキサム酸は、薬用化粧品(医薬部外品)として配合が承認されていますが、化粧品としては承認されていないため、化粧品には配合できない成分です。

∗2 化学構造的には、4-アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸にはトランス体とシス体の2種の立体異性体がありますが、1963年に4-アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸のトランス体であることが立証されています(文献8:1964)

2002年当初は資生堂によってt-AMCHA(ティーアムチャ)とも呼ばれていましたが、現在はm-トラネキサム酸と呼ばれており、「m」はメラニンを意味します(∗3)

∗3 m-トラネキサム酸は資生堂独自の呼称であり、m-トラネキサム酸とトラネキサム酸はまったく同じ成分です。

また、2018年にはロート製薬によってホワイトトラネキサム酸と呼ばれる成分が配合されていますが、メーカーによって呼称を変えているだけで同じトラネキサム酸です。

トラネキサム酸は1960年代に国内で開発され、抗プラスミン活性を示すプロテアーゼ阻害薬として、線溶亢進が関与すると考えられる異常出血や出血傾向に対する適応があるだけでなく、皮疹に伴う咽頭痛や口内炎などにも適応があり、幅広い領域で治療に用いられています(文献5:2013)

また、1979年にトラネキサム酸の内服が肝斑に有用であると発表された後(文献6:1979)、次々と肝斑に対する有用性が報告され、現在でもトラネキサム酸の内服療法は肝斑の治療法として汎用されています(文献7:2008)

薬用化粧品(医薬部外品)に配合される場合は、

これらの目的で、主に美白を訴求するスキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア化粧品、洗顔料&洗顔石鹸、シート&マスク製品などに使用されます。

プロスタグランジンおよびプラスミン生成抑制による色素沈着抑制作用

プロスタグランジンおよびプラスミン生成抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズム、プロスタグランジンおよびプラスミンについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

紫外線におけるメラニン生合成までのプロセス

紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。

プロスタグランジンは、炎症性物質かつ情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)のひとつであり、メラノサイトに存在するレセプターに直接届いてメラニン生成の誘発にも関与します。

プラスミンは、ビタミン不足、疲労、ストレスまたは外的刺激(紫外線、洗浄剤、乾燥)などで生成される炎症誘発物質(セリンプロテアーゼという酵素の一種)であり、以下の炎症メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

炎症の仕組み

プラスミンは、以下のような様々なサイトカインおよび情報伝達物質などの活性化・産生促進が報告されており、

  • キニン、カリクレインの遊離
  • ホスホリパーゼA₂の活性化
  • アラキドン酸の遊離
  • ロイコトリエンの生成促進
  • POMCからMSHのプロセッシング
  • bFGFの遊離
  • TGF-βの活性化
  • IL-1α、β、TNFαのmRNAの増加
  • NF-κB、AP-1の活性化
  • MCP-1mRNAの増加
  • プレプロエンドセリン-1のmRNAの増加
  • HGF/SCFの活性化

これらがメラノサイトを刺激することでメラニンを過剰に生成させていると考えられています(文献9:2005)

このような背景から、プロスタグランジンおよびプラスミンの生成を抑制し、各種炎症性サイトカインの活性化抑制およびメラノサイトへの情報伝達を抑制することは、メラニン生合成の抑制および色素沈着抑制において重要であると考えられます。

2006年に資生堂によって報告されたトラネキサム酸の色素沈着への影響検証によると、

顔面にシミがある成人女性30人(33-58歳、平均44.1歳)にトラネキサム酸配合美容液(濃度不明)を朝晩2回、3ヶ月間連用してもらい、開始前に対象として合計103個のシミを選択して、熟練した判定者がシミの濃さと大きさを肉眼と写真を用いて10段階(0:なし-9:濃い・大きい)に判定し、平均判定値を算出した。

3ヶ月後に同様の評価を行い、個人の開始時の平均判定値から3ヶ月後の平均判定値を引いた改善スコアを求め、改善スコアを以下の5段階に分類したところ、シミの濃さおよびシミの大きさにおいて以下の表のように、

  • かなり改善:2.5以上
  • 改善:1.5 – 2.5
  • やや改善:0.5 – 1.5
  • 不変:-0.5 – 0.5
  • 悪化:-0.5以下
シミの濃さ(%/30人)
かなり改善 改善 やや改善 不変 悪化
0% 11% 78% 11% 0%
シミの大きさ(%/30人)
かなり改善 改善 やや改善 不変 悪化
0% 5% 45% 50% 0%

トラネキサム酸は、シミに有用であることがわかった。

このような検証結果が明らかになっており(文献10:2006)、トラネキサム酸にプロスタグランジンおよびプラスミン生成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。

また、トラネキサム酸のプロスタグランジンの生成抑制メカニズムは、プロスタグランジンの生成に関わる酵素の活性化を抑え、メラノサイトにメラニン生成を指令する情報伝達を止めることで、メラニンの生合成を抑制することであることが報告されています(文献3:1998)

トラネキサム酸とチオクト酸の併用で色素沈着抑制作用の相乗効果が得られることが報告されています(文献2:2006)

肝斑改善による色素沈着抑制作用

肝斑改善による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識として肝斑(かんぱん)について解説します。

肝斑はシミ(色素増加症)の一種であり、以下のイラストのように、

肝斑の症状

臨床的には境界が明瞭な淡褐色斑であり、顔面とくに額、頬、頬骨部、口周囲に左右対称に認められるのが特徴で、ほとんどの場合30-40歳代の女性に発症すると報告されている後天性斑状色素増加症です。(文献6:1979)

発症する原因として、肝斑患者の20%-50%の症例で妊娠が憎悪因子となっており、経口避妊薬による憎悪も報告されているほか、紫外線照射を発症の誘引とする肝斑患者が30%-50%を占めます(文献7:2008)

1989年に資生堂によって公開されたトラネキサム酸の色素沈着への影響検証によると、

顔面に色素沈着を有する50人の被検者の半分(25人)に2.5%トラネキサム酸配合製剤を、残りの25人には比較としてトラネキサム酸未配合製剤を1日に2-3回顔面に使用してもらい、3ヶ月連用後に医師により肉眼で色素沈着淡色化効果の判定を行ったところ、以下の表のように、

試料 改善度 症例
肝斑 雀卵斑 老人性
色素斑
その他 合計
トラネキサム酸
配合製剤
かなり改善 5 4 2 0 11人
やや改善 2 3 2 1 8人
不変 1 1 3 1 6人
悪化 0 0 0 0 0人
人数合計 8 8 7 2 25人
トラネキサム酸
未配合製剤
かなり改善 0 0 0 0 0人
やや改善 2 1 1 0 4人
不変 6 7 6 2 21人
悪化 0 0 0 0 0人
人数合計 8 8 7 2 25人

2.5%トラネキサム酸配合製剤は、「やや改善」以上が76%を占め、優れた効果を有することがわかった。

また、色素沈着の中でもとくに肝斑および雀卵斑に高い効果を有していた。

このような検証結果が明らかになっており(文献1:1989)、トラネキサム酸に肝斑改善による色素沈着抑制作用が認められています。

プラスミン生成抑制による抗炎症作用

プラスミン生成抑制による抗炎症作用に関しては、まず前提知識としてプラスミンについて解説します。

プロスタグランジンおよびプラスミン生成抑制による色素沈着抑制作用でも解説していますが、プラスミンは、ビタミン不足、疲労、ストレスまたは外的刺激(紫外線、洗浄剤、乾燥)などで生成される炎症誘発物質(セリンプロテアーゼという酵素の一種)であり、以下の炎症メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

炎症の仕組み

プラスミンは、以下のような様々なサイトカインおよび情報伝達物質などの活性化・産生促進が報告されており(文献9:2005)

  • キニン、カリクレインの遊離
  • ホスホリパーゼA₂の活性化
  • アラキドン酸の遊離
  • ロイコトリエンの生成促進
  • POMCからMSHのプロセッシング
  • bFGFの遊離
  • TGF-βの活性化
  • IL-1α、β、TNFαのmRNAの増加
  • NF-κB、AP-1の活性化
  • MCP-1mRNAの増加
  • プレプロエンドセリン-1のmRNAの増加
  • HGF/SCFの活性化

プラスミンが増え続け、これら炎症性サイトカインの活性化、活性ペプチドの遊離、サイトカインの発現促進に関与することで、炎症性物質であるヒスタミンやプロスタグランジンなどを誘発し、角化異常を引き起こすと肌荒れやニキビができやすくなることが知られています。

このような背景から、プラスミンの生成を抑制することは肌荒れ改善および防止にとって重要であると考えられます。

1995年に資生堂によって報告されたトラネキサム酸のプラスミンに対する影響検証によると、

肌荒れとプラスミンの前駆体であるプラスミノーゲン活性化系との関連を詳細に検討するために、抗プラスミン作用の強度がすでに明らかになっている以下の各種プラスミン阻害剤の実験的な肌荒れに対する作用を評価したところ、以下のグラフのように、

  • TLCK(トシルリジンクロロメチルケトン):トリプシン型セリンプロテアーゼに対する非特異的な阻害剤
  • t-AMCHA(トラネキサム酸):プラスミン活性化系の特異的な阻害剤
  • TPCK(トシルフェニルアラニンクロロメチルケトン):キモトリプシン型セリンプロテアーゼ阻害剤
  • EDTA(エデト酸トリエタノールアミン):金属プロテアーゼ阻害剤
  • N-エチルマレイミド:チオールプロテアーゼ阻害剤

 各プロテアーゼ阻害剤の肌荒れに対する作用

TLCKおよびt-AMCHAは優れた有効性を示した。

一方で、TPCK、EDYAおよびN-エチルマレイミドは肌荒れの抑制を示さなかった。

これらの結果から、トリプシン型セリンプロテアーゼ阻害剤が極めて有効であり、とくにプラスミノーゲン活性化系に関与するプラスミノーゲンアクチベータ、プラスミンを特異的に阻害することがよく知られているt-AMCHAが優れた有効性を示すことを見出した。

また、肌荒れの発生にプロテアーゼ、とくにプラスミノーゲン活性化系がきわめて重要な役割を果たしていることが強く示唆された。

このような検証結果が明らかになっており(文献4:1995)、トラネキサム酸にプラスミン生成抑制による抗炎症作用が認められています。

トラネキサム酸のプラスミン生成抑制のメカニズムは、トラネキサム酸がプラスミンの前駆体であるプラスミノーゲンおよびプラスミンのリジン結合部位に結合して、その機能を抑制することに基づいています(文献7:2008)

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トラネキサム酸の安全性(刺激性・アレルギー)について

トラネキサム酸の現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 医薬部外品有効成分
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性について

資生堂の安全性データ(文献1:1989;文献2:2006)によると、

  • [ヒト試験] 色素沈着症状を有する10人の女性被検者に0.1%トラネキサム酸配合美容液を1日2回3ヶ月にわたって使用してもらい皮膚反応を評価したところ、試験期間中に皮膚刺激反応および皮膚感作反応を示した被検者は存在しなかった(2006)
  • [ヒト試験] 色素沈着症状を有する25人の被検者に2.5%トラネキサム酸配合製剤を1日2-3回3ヶ月にわたって連用してもらい、医師によって皮膚反応(副作用)を評価したところ、試験期間中に副作用は観察されなかった(1989)
  • [動物試験] 20匹のモルモットを用いて10匹を感作誘導用、残りの10匹は誘発時の対照用として2箇所に10%トラネキサム酸水溶液を対象にマキシマイゼーションテスト(軽い炎症を起こさせた後、感作誘導のため試料を24時間閉塞パッチし、21日後に24時間閉塞パッチ)を実施し、皮膚反応を評価したところ、すべてのモルモットにおいてまったく感作反応は認められなかった(1989)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

トラネキサム酸は美白成分、抗炎症成分にカテゴライズされています。

それぞれの成分一覧は以下からお読みください。

参考:美白成分 抗炎症成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 東 萬彦, 他(1989)「抗色素沈着外用剤 」特開平01-093519.
  2. 小野 隆之, 他(2006)「美白剤、美白用皮膚外用剤および美白方法」特開2006-265140.
  3. K Maeda, et al(1998)「Topical trans-4-aminomethylcyclohexanecarboxylic acid prevents ultraviolet radiation-induced pigmentation.」Journal of Photochemistry and Photobiology B: Biology(47)(2-3),136-141.
  4. 北村 謙始, 他(1995)「肌荒れの発生機序と有効成分の開発に関する研究」日本化粧品技術者会誌(29)(2),133-145.
  5. 會田 悦久, 他(2013)「出血性疾患に対してトラネキサム酸を使用後に静脈血栓塞栓症を発症した2症例」心臓(45)(7),872-873.
  6. 二條 貞子(1979)「トラネキサム酸による肝斑の治療」基礎と臨床(13)(9),3129-3131.
  7. 真船 英一(2008)「トラネキサム酸と肝斑」ファルマシア(44)(5),437-442.
  8. S Okamoto, et al(1964)「an active stereo-isomer (trans-form) of amcha and its antifibrinolytic (anti-plasminic) action in vitro and in vivo」The Keio Journal of Medicine(13)(4),177-185.
  9. 前田 憲寿, 他(2005)「老人性色素斑発症メカニズムと美白剤の有効性」Fragrance Journal(33)(5),21-29.
  10. 前田 憲寿(2006)「m-トラネキサム酸の美白効果」皮膚の抗老化最前線,247-256.

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