セイヨウノコギリソウエキスとは…成分効果と毒性を解説

色素沈着抑制 抗酸化
セイヨウノコギリソウエキス
[化粧品成分表示名称]
・セイヨウノコギリソウエキス

[医薬部外品表示名称]
・セイヨウノコギリソウエキス

キク科植物コモンヤロー(学名:Achillea millefolium 和名:セイヨウノコギリソウ)の全草からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

コモンヤロー(common yarrow)はヨーロッパを原産とし、ヨーロッパでは古くから修道院や家庭で観賞用および薬草として栽培され、傷の治療、婦人病などの民間療法として利用されてきた歴史が、北米の先住民であるチェロキー族はヤローの煎剤や浸剤を風邪や胃腸の症状に用いてきた歴史があり、現在はヨーロッパ、アジア、北米を中心に自生・栽培されています(文献1:2011;文献2:2018;文献3:2016)

セイヨウノコギリソウエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
テルペノイド モノテルペン α-ピネン、ボルネオール など
セスキテルペン カマズレン
精油 アキリシン
アルカロイド アキレイン
フラボノイド フラボン アピゲニン、ルテオリン
タンニン 詳細不明

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献3:2016;文献4:2012)

コモンヤローの化粧品以外の主な用途としては、食品分野においてわずかなアニス風味をともなう繊細な草のような風味を有することからハーブティーとして、また葉はサラダに用いられています。

メディカルハーブ分野においては、ドイツでは鎮痙、利胆、収れん、抗菌作用が認められていることから胃・腸・胆系の機能障害による食欲不振や消化不良に対してトニックとして、生理痛など心身相関的な骨盤周囲の痙攣や自律神経系の緊張状態に座浴として用いられています(文献3:2016)

また、英国では発汗、消炎、止血、通経作用が記載されていることから風邪や胃腸の不調に内服として、治りにくい傷や皮膚の炎症へは外用剤として用いられています(文献3:2016)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、トリートメント製品、ボディソープ製品、ボディ石鹸など様々な製品に汎用されています。

チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用

チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献5:2002;文献6:2016;文献7:2019)

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献5:2002;文献7:2019)

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献5:2002;文献7:2019)

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献5:2002)

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献5:2002)

このような背景から、チロシナーゼの活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

1996年にノエビアによって報告されたセイヨウノコギリソウエキスのチロシナーゼおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、

in vitro試験においてマウス由来メラノーマ細胞系に、終濃度500μg/mLとなるように1%セイヨウノコギリソウエキス(50%エタノール抽出)水溶液を添加し、3日間培養後に吸光度を測定しチロシナーゼ活性阻害率を算出したところ、以下の表のように、

試料 濃度(μg/mL) チロシナーゼ活性阻害率(%)
セイヨウノコギリソウエキス 500 45.9

セイヨウノコギリソウエキスはチロシナーゼ活性阻害作用を示した。

次に、色素沈着の気になる40人の女性被検者(30-40歳)のうち20人に2%セイヨウノコギリソウエキス(50%エタノール抽出)を含む乳液を、別の20人にセイヨウノコギリソウエキスの代わりに同濃度のアスコルビン酸を含む乳液をそれぞれ1日2回(朝晩)2ヶ月にわたって洗顔後の顔面に塗布してもらった。

2ヶ月後に「改善」「やや改善」「変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 皮膚の色素沈着に対する評価
改善 やや改善 変化なし
セイヨウノコギリソウエキス配合乳液 20 10 10 0
アスコルビン酸配合乳液(対照) 20 0 5 15

2%セイヨウノコギリソウエキス配合乳液は、皮膚の色素沈着に対して改善傾向を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献8:1996)、セイヨウノコギリソウエキスにチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。

SOD様活性による抗酸化作用

SOD様活性による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における活性酸素種、活性酸素種の酸化還元反応およびSODの役割について解説します。

活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)とは、酸素(O₂)が他の物質と反応しやすい状態に変化した反応性の高い酸素種の総称であり(文献9:2002;文献10:2019)、酸素から産生される活性酸素種の発生メカニズムは、以下のように、

酸素から産生される活性酸素発生メカニズム

酸化力を有する酸素(O₂)が、比較的容易に電子を受けてスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を生成し、さらに酸化が進むと過酸化水素(H₂O₂)、ヒドロキシルラジカル(HO)を経て、最終的に水(H₂O)になるというものです(文献11:2019)

この一連の反応を酸化還元反応と呼んでおり、正常な酸化還元反応において発生したスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)は少量であり、通常は抗酸化酵素の一種であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)により速やかに分解・消去されます(文献11:2019)

一方で、紫外線の曝露など(∗1)によりスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を含む活性酸素種の過剰な産生が知られており(文献12:1998)、過剰に産生されたスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)による分解・消去が追いつかず、紫外線の曝露時間やスーパーオキシドの発生量によってはヒドロキシルラジカル(HO・)まで変化することが知られています。

∗1 皮膚において活性酸素種が発生する最大の要因は紫外線ですが、他にも排気ガスなどの環境汚染物質、タバコの副流煙などの有害化学物質なども外的要因となります。

発生したヒドロキシルラジカル(HO)は、酸化ストレス障害として過酸化脂質の発生、コラーゲン分解酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現増加によるコラーゲン減少、DNA障害や細胞死などを引き起こし、中長期的にこれらの酸化ストレス障害を繰り返すことで光老化を促進します(文献11:2019;文献13:1996;文献14:2013)

このような背景から、紫外線の曝露時および曝露後にスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)の活性を増強することは、皮膚の酸化ストレス障害を抑制し、ひいては光老化、炎症および色素沈着などの抑制において非常に重要なアプローチのひとつであると考えられます。

2006年に一丸ファルコスによって報告されたセイヨウノコギリソウエキスのスーパーオキシドおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験において96ウェルプレートの各ウェルに各濃度のセイヨウノコギリソウエキスと純水を20μLずつ加え、SOD Assay Kit-WSTに基づいた処理工程を実施した後に吸光度を測定し、活性酸素消去率(スーパーオキシド消去率)を算出したところ、以下のグラフのように、

セイヨウノコギリソウエキスのスーパーオキシド消去作用

セイヨウノコギリソウエキスは、スーパーオキシド消去作用を示すことが確認された。

次に、20人の被検者のうち10人に5%セイヨウノコギリソウエキス配合乳液を、別の10人に対照として未配合乳液を、それぞれ顔面に1日1回3ヶ月間連続使用してもらった。

3ヶ月後に「有効:肌のツヤ・ハリが増し、乾燥肌・肌荒れが改善された」「やや有効:肌のツヤ・ハリがやや増し、乾燥肌・肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 皮膚感触に対する評価(人数)
有効 やや有効 無効
セイヨウノコギリソウエキス配合乳液 10 3 5 2
乳液のみ(対照) 10 0 2 8

5%セイヨウノコギリソウエキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して乾燥肌を改善し、肌にツヤ・ハリを付与することが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献15:2006)、セイヨウノコギリソウエキスにSOD様活性による抗酸化作用が認められています。

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

セイヨウノコギリソウエキスの配合製品数と配合量の比較調査結果(2016年)

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セイヨウノコギリソウエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

セイヨウノコギリソウエキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚刺激性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献16:2001;文献17:2016)によると、

  • [ヒト試験] 20人の被検者に0.5%セイヨウノコギリソウエキスを含むシャンプー製剤を単一閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0.0-8.0のスケールで評価したところ、PIIは0.25であり、対照製剤との比較において有意な皮膚刺激の差は観察されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1991)
  • [ヒト試験] 20人の被検者に0.1%セイヨウノコギリソウエキスを含むフェイスクリームおよび未配合フェイスクリーム(ともにpH4.45)を4日間連続で閉塞使用してもらい、各使用後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0.0-8.0のスケールで評価し4日間の平均値を算出したところ、PIIは0.39および0.24であり、どちらも許容範囲内であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1991)
  • [ヒト試験] 25人の被検者に0.1%セイヨウノコギリソウエキスを含むフェイスクリーム0.1gを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(Ivy Laboratories,1991)
  • [ヒト試験] 107人の被検者に0.00045%セイヨウノコギリソウエキスを含む保湿剤0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において9人の被検者に一過性のほとんど知覚できない紅斑または軽度-中程度の乾燥が認められたが、これらは臨床的に有意な反応ではないと判断され、この試験製剤は刺激剤でも感作剤でもないと結論付けられた(RTCS Inc,2006)
  • [ヒト試験] 108人の被検者に0.001133%セイヨウノコギリソウエキスを含むボディスプラッシュ製品を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この製品は皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Clinical Research Laboratories Inc,2009)
  • [ヒト試験] 53人の被検者に0.04%セイヨウノコギリソウエキスを含むボディスローションを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、この製品は皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Anonymou,2007)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

– 皮膚炎を有する場合 –

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献17:2016)によると、

  • [ヒト試験] アトピー性皮膚炎を有した9人の患者に1%セイヨウノコギリソウエキスを含むワセリンをFinn Chamberパッチ適用し、2および3日目に試験部位を評価したところ、いずれの患者も陽性反応はみられなかった(M. ovanovic et al,2004)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚炎や敏感肌を有する場合において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献17:2016)によると、

  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に0.00045%セイヨウノコギリソウエキスの混合物含む製品を処理したところ、眼刺激性の可能性を有していないことが判明した(Institute for In Vitro Sciences Inc,2006)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

セイヨウノコギリソウエキスは美白成分、抗酸化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:美白成分 抗酸化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 鈴木 洋(2011)「ヤロー」カラー版健康食品・サプリメントの事典,190.
  2. ジャパンハーブソサエティー(2018)「ヤロー」ハーブのすべてがわかる事典,201.
  3. 林 真一郎(2016)「ヤロー」メディカルハーブの事典 改定新版,178-179.
  4. 鈴木 一成(2012)「セイヨウノコギリソウエキス」化粧品成分用語事典2012,296.
  5. 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  6. 日光ケミカルズ(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  7. 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
  8. 株式会社ノエビア(1996)「チロシナーゼ生合成阻害剤及びこれを配合して成る美白剤」特開平08-104646.
  9. 朝田 康夫(2002)「活性酸素とは何か」美容皮膚科学事典,153-154.
  10. 河野 雅弘, 他(2019)「活性酸素種とは」抗酸化の科学,XⅢ-XⅣ.
  11. 小澤 俊彦(2019)「活性酸素種および活性窒素種の発生系」抗酸化の科学,123-138.
  12. 荒金 久美(1998)「光と皮膚」ファルマシア(34)(1),30-33.
  13. 花田 勝美(1996)「活性酸素・フリーラジカルは皮膚でどのようにつくられるか」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,15-35.
  14. 小林 枝里, 他(2013)「表皮の酸化ストレスとその防御機構」Fragrance Journal(41)(2),16-21.
  15. 一丸ファルコス株式会社(2006)「活性酸素消去剤」特開2006-117612.
  16. Cosmetic Ingredient Review(2001)「Final Report on the Safety Assessment of Yarrow (Achillea Millefolium) Extract」International Journal of Toxicology(20)(2),79-84.
  17. Cosmetic Ingredient Review(2016)「Safety Assessment of Achillea millefolium as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(35)(Supplement3),5S-15S.

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