コウジ酸とは…成分効果と毒性を解説



・コウジ酸
[医薬部外品表示名称]
・コウジ酸
1988年に医薬部外品美白有効成分として承認された(文献3:2005)、味噌、醤油、酒などに色や風味を与えるコウジカビ(Aspergillus oryzae)の培養液から抽出・精製して得られるγ-ピロン化合物です(文献4:1978)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、主に美白およびエイジングケアを訴求するスキンケア化粧品に使用されます。
チロシナーゼおよびTRP-2活性阻害による色素沈着抑制作用
チロシナーゼおよびTRP-2活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズム、チロシナーゼおよびTRP-2について解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合し、チロシンが酸化することでドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。
次に、メラノサイト内でのドーパキノンからユーメラニンまでの変化をより詳細に解説します。
ドーパキノンまで変化が進むと、さらに以下の図のように段階が詳細に分かれており、
ドーパクロムは、酵素を介さず自動酸化するDHI(5,6-dihydroxyindole)と、TRP-2(Tyrosinase related protein-2:ドーパクロムトートメラーゼ)という活性酵素を介して変換されるDHICA(5,6-dihydroxyindole-2-carboxylic acid)に分かれますが、これら2つの経路への分岐はTRP-2によって制御されており、DHIとDHICAの構成比によってユーメラニンの性質が決まるとされています(文献8:1998)。
このような背景からチロシナーゼおよびTRP-2の活性を抑制することは、色素沈着防止という点で重要であると考えられます。
1994年に三嶋皮膚科学研究所、神戸海星病院研究所、神戸大学医学部皮膚科学教室 および三省製薬株式会社生物薬理研究室によって報告されたチロシナーゼに対するコウジ酸への影響検証によると、
B16細胞から分離した分画のチロシナーゼ活性は、添加コウジ酸の濃度に依存的に抑制された。
次に、健常な77人(男性31人、女性46人)のボランティアの右腕内側2箇所に紫外線ランプ(0.88J/c㎡)を1日1回3日間連続で照射した。
各照射部位の1箇所に1%コウジ酸配合クリームを、他方にコウジ酸未配合クリームをそれぞれ1日3回(朝・夕・夜)塗布し、色素沈着度を肉眼的に5段階(0:なし、1:軽微、2:軽度、3:中程度、4:高度)で1週間ごとに評価し、また両塗布部位の色素沈着度を比較した差を4段階(1:著明な差、2:明らかな差、3:わずかな差、4:不変)で判定した。
その結果、コウジ酸クリームの有効率は男性90.3%、女性75.5%で明らかな色素沈着抑制作用を示した。
さらに、臨床試験として1985-1988年の間に神戸大学附属病院皮膚科を受診し、コウジ酸クリームを2ヶ月以上外用した103人ならびに1992-1993年の間に神戸海星病院皮膚科を受診し、コウジ酸クリームを2ヶ月以上外用した111人の色素異常症の患者に、1%および2.5%コウジ酸配合クリームを1日2回(朝・就寝前)、まず左側のみ単純塗布してもらい、効果を自覚的ならびに他覚的に認めた時点で両側に塗布してもらった。
1ヶ月に1回の割合で来院してもらい、その際に初診時と比較して色素沈着の改善度を観察し、5段階(著効、有効、やや有効、無効、悪化)に分けて医師が判定したところ、204人のうち著効11.8%、有効33.8%、やや有効28.4%で合計74.0%に何らかの改善が認められ、悪化は認められなかった。
効果発現はまでの期間は、改善のみられた症例の90%以上で4ヶ月いないに効果が生じ、1%濃度群と2.5%濃度群で濃度による差はみられなかった。
疾患別に有効度の高いものから順次列挙すると、肝斑、炎症後色素沈着、日光性および老人性黒子、雀卵斑となった。
副作用は、軽微な発赤・掻痒が合計8人(3.9%)にみられ、これらの患者は中途中止した。
症状の軽快後に2人の患者にパッチテストを実施したが、陰性であった。
このような検証結果が明らかになっており(文献7:1994)、コウジ酸にチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。
また、コウジ酸のチロシナーゼ活性阻害のメカニズムは、チロシナーゼに存在する銅イオンに結合し、不活性化するキレート作用によるものであることが確認されています(文献6:1988)。
1998年にコーセーによって報告されたTRP-2に対するコウジ酸への影響検証によると、
コウジ酸濃度 (μg/mL) |
細胞数 (×10⁶) |
DHICA産生量 (×10⁴ area) |
TRP-2阻害率 (%) |
---|---|---|---|
0 | 3.0 ± 0.4 | 8.6 ± 2.9 | – |
50 | 2.8 ± 0.4 | 7.9 ± 2.8 | 7.7 ± 2.0 |
100 | 2.7 ± 0.8 | 7.2 ± 3.0 | 18.4 ± 6.4 |
200 | 2.5 ± 0.7 | 6.7 ± 2.4 | 21.9 ± 3.1 |
コウジ酸は、50-200μg/mLの添加濃度においてわずかな細胞増殖の抑制は認められたものの、7.7%-21.9%のTRP-2活性抑制効果を示した。
このような検証結果が明らかになっており(文献8:1998)、コウジ酸にTRP-2活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。
TRP-2は、チロシナーゼと同様にその構造中に銅イオンを持ち、糖鎖の修飾を受けて成熟していくことが示唆されており(文献10:1995)、コウジ酸のTRP-2活性阻害のメカニズムは、チロシナーゼと同じくTRP-2の銅イオンを不活性化するキレート作用を発現していると考えられています(文献8:1998)。
また、甘草フラボノイドは、チロシナーゼおよびTRP-2生合成過程における糖鎖修飾の阻害による抑制効果を有しており、コウジ酸と甘草フラボノイドを併用することで、異なるメラニン生合成抑制作用メカニズムによる相加効果を発揮することが報告されています(文献8:1998)。
AGEs産生抑制による抗老化作用
AGEs産生抑制による抗老化作用に関しては、まず前提知識としてAGEsについて解説します。
以下の真皮におけるタンパク質の変性メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
AGEs(Advanced Glycation End Products:糖化最終生成物)とは、タンパク質と糖の反応(糖化反応)により生成される最終産物であり、糖化反応によってAGEsが生成されると、皮膚色の黄疸化(∗1)やコラーゲンの硬化による皮膚の弾力低下などが起こる原因となります。
∗1 皮膚・体の組織が黄色になる症状のことで、一般的には「黄ぐすみ」とも呼ばれています。
生体では加齢に伴って蓄積されることが知られていますが、他にもとくにコラーゲンなどの生体における代謝回転の遅いタンパク質に蓄積が認められること、日光を浴びた部位にとくに多く存在することが報告されており、肌を老化へ導く重要な因子のひとつと考えられています。
このような背景があり、またAGEsを分解する酵素などが知られていないことから、AGEsの産生を抑制・防止することは抗老化にとって重要であると考えられています。
2013年に三省製薬によって公開された技術情報によると、
コウジ酸には、AGEs産生抑制作用がある程度は認められるものの、単独使用では黄ぐすみの効果を期待するのに3.0%以上の高配合が必須であり、安全性や製剤への着色を考慮した場合に、コウジ酸単独使用では十分なAGEs産生抑制作用を発揮させることは難しい。
そこで、コウジ酸の吸収性を高める作用、コウジ酸との併用によって実用的なAGEs産生抑制効果が得られることおよびコウジ酸の着色抑制効果がある成分を探索した。
陽性対照として0.2mMアミノグアニジンを用いて、各濃度のコウジ酸と各濃度のハマナス花エキス、ユキノシタエキスおよびオリーブ葉エキスを併用し、AGEs産生抑制効果を測定したところ、以下の表のように、
主成分 | 主成分濃度 (%) |
併用成分濃度(%) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ハマナス花エキス | ユキノシタエキス | オリーブ葉エキス | ||||||||
0 | 0.05 | 0.1 | 0 | 0.05 | 0.1 | 0 | 0.05 | 0.1 | ||
0.2mMアミノグアニジン | 49.6 | 55.6 | 61.2 | 49.6 | 52.5 | 55.9 | 49.6 | 47.3 | 45.0 | |
コウジ酸 | 0 | – | 13.6 | 45.9 | – | 6.8 | 27.5 | – | 8.4 | 33.0 |
0.001 | 0.3 | 19.0 | 53.1 | 0.3 | 6.6 | 28.0 | 0.3 | 5.9 | 29.3 | |
0.002 | 27.3 | 50.1 | 78.1 | 27.3 | 29.6 | 36.5 | 27.3 | 22.2 | 24.7 | |
0.003 | 39.8 | 65.8 | 93.7 | 39.8 | 40.1 | 42.1 | 39.8 | 36.1 | 38.3 | |
0.004 | 46.2 | 74.2 | 96.3 | 46.2 | 47.7 | 48.1 | 46.2 | 40.5 | 42.8 | |
0.005 | 55.9 | 83.6 | 98.6 | 55.9 | 43.3 | 49.3 | 55.9 | 41.1 | 40.6 |
コウジ酸とハマナス花エキスを併用することでAGEs産生抑制作用の相乗効果が認められた。
また別の試験により、ハマナス花エキスにはコウジ酸の吸収を促進する作用およびコウジ酸の経時的着色を抑制する作用が認められた。
このような検証結果が明らかになっており(文献9:2013)、コウジ酸とハマナス花エキスを併用することで実用的なAGEs産生抑制作用が認められています。
ただし、コウジ酸単独では実用的なAGEs産生抑制作用は認められていないため、AGEs産生抑制目的の場合は、成分一覧でコウジ酸とハマナス花エキスが一緒に記載されている必要があります。
コウジ酸の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医薬部外品有効成分
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし-まれに起こる可能性あり
- 皮膚感作性(接触皮膚炎を有する場合かつ接触皮膚炎の原因がコウジ酸によるものでない場合):ほとんどなし
- 光毒性・光感作性:1%以下濃度においてほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2010)によると、
- [ヒト試験] 54人の被検者に1%コウジ酸を含むクリーム製品を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチで実施したところ、いずれの期間においても皮膚反応は観察されなかった(Consumer Product Testing Co,2006)
- [ヒト試験] 218人の被検者に2%コウジ酸を含む製剤0.2mgを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を半閉塞パッチで実施したところ、誘導期間において11回の最小限または偽陽性反応および4回の明瞭な紅斑反応が観察された。48時間で最小または偽陽性反応は1つだけしか観察されなかったが、それも72時間で消失した。2%コウジ酸を含む製剤に感作の兆候はなかったと結論づけられた
- [ヒト試験] 肝斑の治療においてコウジ酸は通常1%濃度の調製物を1日2回の頻度で2ヶ月間にわたって使用されますが、この治療の副作用として接触性アレルギーがあると記載されている(Prignano F, et al,2007)
Scientific Committee on Consumer Productsの安全性データ(文献2:2008)によると、
- [ヒト試験] 1%までのコウジ酸配合フェイスケアおよびハンドケア製品は安全である
河合皮膚医学研究所の安全性データ(文献1:2010)によると、
- [ヒト試験] 接触皮膚炎の疑いのある220人の患者においてコウジ酸配合スキンケア製品を使用していた8人のうち5人はコウジ酸に陽性反応を示した。またコウジ酸配合製品を使用していない残りの212人にコウジ酸を対象としたパッチテストを実施したところ、例外なく陰性であった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性はありませんが、まれに接触性皮膚感作性が報告されているため、皮膚刺激性はほとんどありませんが、まれに接触性皮膚感作が起こる可能性があると考えられます。
– 皮膚炎を有する場合 –
河合皮膚医学研究所の安全性データ(文献1:2010)によると、
- [ヒト試験] 1992年10月から1993年9月までの1年間で化粧品関連の接触性皮膚炎の疑いがあると診断された220人の女性患者のうち8人は少なくとも1種類以上のコウジ酸配合スキンケア製品を1種類またはそれ以上使用しており、そのうち5人は1%コウジ酸に皮膚反応を示し、残りの3人はコウジ酸に陰性であった。また以前にコウジ酸配合スキンケア製品を使用したことがない残りの212人の患者においてコウジ酸を対象としたパッチテストの結果は例外なく陰性であった。コウジ酸に感作性の高い5人の患者はコウジ酸配合化粧品を使用して1-12ヶ月以内に顔面皮膚炎を発症した。コウジ酸は、それを含有する製品を使用している患者において、比較的高い接触感作性が確認されたため、感作性が高いと考えられています
と記載されています。
試験データをみるかぎり、コウジ酸配合製品を使用している8人のうち5人(約63%)にコウジ酸による陽性反応が報告されていますが、この結果はそもそもコウジ酸が原因で接触感作を発症している可能性が高く、また接触性皮膚炎の疑いがあり、かつコウジ酸配合製品を使用していない212人の患者では例外なく陰性と報告されていることから、接触皮膚炎を有する場合かつ接触皮膚炎の原因がコウジ酸によるものでない場合において、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2010)によると、
- [動物試験] 5匹のウサギの片眼に3%コウジ酸水溶液0.05mLを点眼し、眼はすすがず、点眼30分および1,6,24,48および72時間後および7日後に眼を検査したところ、30分後で1匹のウサギにわずかな発赤が観察されたが、ほかはいずれの時間でも影響は観察されなかった。この試験の正確さを判断するために同じ試験物質を4匹のウサギに同様の試験を実施したところ、2匹のウサギに一過性の軽度の充血が観察されたが、ほかの影響は観察されなかった。別の補足的試験において9匹のウサギに3%コウジ酸溶液で同様の試験を実施したところ、72時間までの検査で特異な反応または炎症反応は観察されなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、3%濃度以下において共通して眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
光毒性および光感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2010)によると、
- [動物試験] 10匹のモルモットの背中側胸部皮膚2箇所に5%コウジ酸水溶液0.5mLを1つは閉塞適用し、もう片方は解放適用し、15cmの距離で30分間UVライトを照射した後にパッチを除去し、両方の部位を評価するという手順を5日間連続で毎日繰り返したところ、閉塞パッチ部位では皮膚反応は観察されなかったが、解放パッチ部位で1,2および3日目に3匹のモルモットでそれぞれ独立したわずかな紅斑が観察された。コウジ酸はモルモットにおける紫外線照射後にわずかな皮膚反応を引き起こす可能性があると結論付けられた(Elliott P H,1978)
- [動物試験] 10匹の剃毛したモルモットの背頸部に5%コウジ酸を含むアルコール0.2mLを5日間連続で適用し、背部中部に対照としてアルコール0.2mLを毎日適用した。各適用後に15cmの距離でUVライトを15分間照射した。10日間の休息期間の後に頚部領域に1%コウジ酸を含むアルコールをチャレンジ適用し、部位を15分間UVライトで照射し、1,24,48および72時間で紅斑の有無を観察したところ、1および2回目の誘導期間の照射では皮膚反応は観察されなかったが、3,4および5回目の照射で10匹のうち8匹に軽度の紅斑が観察された。チャレンジ期間では皮膚反応は観察されなかったため、この試験ではコウジ酸が遅延接触性光感作性を誘発しなかったと結論づけた(Elliott P H,1978)
- [動物試験] 10匹のモルモット3グループの背中側胸部に1%コウジ酸を含むクリーム0.25gと3%コウジ酸を含むクリーム0.25gおよび陽性対照として白色ワセリンを含むアントラセン軟膏を適用し、部位の半分に10cmの距離でブラックライトを38分間照射し、照射24時間後に反応を評価した。この手順を5日間毎日繰り返したところ、1%および3%コウジ酸を含むクリームは照射後に皮膚反応は観察されなかったため、コウジ酸は光毒性ではないと結論づけられた(Sato K, et al,1982)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、5%濃度において共通してわずかな光感作性が報告されていますが、1%濃度において皮膚反応なしと報告されているため、1%以下濃度において光感作性および光毒性ほとんどないと考えられます。
ただし、ヒトでの臨床結果ではないため、さらなる検証の必要があると考えられます。
安全性についての補足
コウジ酸は、1988年に医薬部外品有効成分として承認されてから、がんや遺伝毒性などの健康被害が発生した症例報告はなく、認められた配合量の範囲で使用する限りにおいて、安全であると考えられていました。
しかし、2002年に食品添加物としてマウスで肝細胞腫瘍の発生が認められことをきっかけに、ラットでも肝発がん性の可能性が示唆され、かつ遺伝毒性についての試験結果が錯綜し、遺伝毒性を有する可能性は低いながらも否定できないことから追加試験が行われ、コウジ酸と発がん性および遺伝毒性との関係が明らかになるまでの間、コウジ酸の製造および使用が中止されました。
厚生労働省によって公開された追加試験内容および安全性データによると、
– 遺伝毒性について –
in vitro試験では枯草菌DNA傷害性、サルモネラ菌突然変異原性、染色体異常誘発性、小核誘発性が一部の試験でみられ、遺伝毒性も認められた。
しかし、その活性は弱く、高用量でのみ認められた。
in vivo試験では、肝臓を用いた小核試験においてはマウスで陽性であったが、ラットでは陰性、骨髄および末梢血を用いた小核試験ではラットで陽性の報告があるが、マウスでは陰性の結果であった。
また、認められた陽性結果は、いずれも高用量で認められるものであった。
トランスジェニクマウスを用いた28日間混餌投与による導入遺伝子突然変異試験で、 DNA酸化的傷害の指標が上昇したとの報告があるが、同一個体から採取した肝細胞における遺伝子突然変異誘発性は認められていない。
皮膚への影響については、3%コウジ酸の皮膚塗布によるマウス皮膚小核試験では、光照射の有無に関わらず陰性であった。
また、コウジ酸の DNA付加体形成試験では、マウスおよびラットともに肝臓においてDNA付加体Aの形成は、試験された条件下においては認められていない。
– 発がん性について –
発がん性については、マウスの20ヶ月反復投与試験において、甲状腺・下垂体ホルモンのネガティブフィー ドバックを介したと考えられる甲状腺腫瘍のほか、肝腫瘍の増加が認められている。
また、雄ラットの55週間反復投与試験において、甲状腺腫瘍とともに、肝細胞障害及び前がん病変の増加が認められた。
マウスにおいても、ラットにおいても肝臓への影響は高い用量(1-3%混餌投与)でみられた知見である。
今回報告された混餌投与によるラット肝イニシエーション試験では、高用量2%において弱いイニシエーション作用を示唆する結果が認められたが、試験デザイン等の問題も指摘され、コウジ酸の肝イニシエーション作用を明確に証明するものではないと考えられる。
また、今回報告されたマウス中期2段階発がん試験で肝イニシエーション活性は認められず、3%コウジ酸を含むクリームをマウス背中に塗布して行った皮膚2段階発がん試験では、イニシエーション活性もプロモーション活性も認められなかった。
– 経皮吸収等について –
コウジ酸を1%含むクリームを健常人の女性6人の顔面に1日500mg塗布したヒト経皮吸収試験では、血漿中濃度(定量限界1ng/mL)は塗布後3-6時間で最高値を示し、6人の被験者で最高血漿中濃度の平均値は1.54ng/mLであり、コウジ酸の皮膚から体内 1.54 ng/mL (血中)への吸収はほとんどないものと考えられる。
また、ヒトにおける10年以上の使用経験から影響はないものと考えられ、これまで健康被害の報告もない。
このような検証結果が明らかになっており(文献3:2005)、3%以下濃度コウジ酸において発がん性リスクは極めて小さいと考えられ、またコウジ酸が生体にとって問題になるような遺伝毒性を示す可能性は少ないと考えられます。
さらに1%濃度コウジ酸の皮膚から体内への吸収はほとんどないと考えられ、これまでに健康被害の報告もないことから、化粧品および医薬部外品配合量および通常使用下において安全性に懸念はないものと考えられ、現在ではコウジ酸の製造および販売は再開され、コウジ酸配合製品も通常通り販売されています。
∗∗∗
コウジ酸は美白成分、抗老化成分にカテゴライズされています。
それぞれの成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2010)「Final Report of the Safety Assessment of Kojic Acid as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(29)(6),244S-273S.
- Scientific Committee on Consumer Products(2008)「KOJIC ACID」OPINION ON.
- “厚生労働省”(2005)「コウジ酸を含有する医薬部外品について」, <https://cosmetic-ingredients.org/ref/2005_koji-acid.pdf> 2018年5月10日アクセス.
- M Nakagawa, et al(1995)「Contact allergy to kojic acid in skin care products.」Contact Dermatitis(32)(1),9-13.
- 猿野 琳次郎, 他(1978)「メラニン生成抑制用軟膏剤」特開昭53-018739.
- Y Mishima, et al(1988)「Induction of melanogenesis suppression: cellular pharmacology and mode of differential action.」Pigment Cell Research(1)(6),367-374.
- 三島 豊, 他(1994)「コウジ酸のメラニン生成抑制作用と各種色素沈着症に対する治療効果」皮膚(36)(2),134-150.
- 星野 拓, 他(1998)「メラニン生成に対するコウジ酸及び油溶性甘草エキスの併用効果」日本化粧品技術者会誌(32)(2),153-159.
- 中井 大助(2013)「AGEs産生抑制剤」特開2013-173712.
- 柴原 茂樹, 他(1995)「チロシナーゼファミリー遺伝子のクローニングと転写調節」Fragrance Journal 臨時増刊号(14),31-37.
スポンサーリンク