アセロラ果実エキスとは…成分効果と毒性を解説


・アセロラ果実エキス
キントラノオ科植物アセロラ(学名:Malpighia punicifolia = Malpighia emarginata = Malpighia glabra 英名:acerola)の果実から水、エタノール、BG、グリセリンまたはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
アセロラは西インド諸島を原産とし、昭和40年代(1965-1975年)にビタミンCを多く含むことが注目され、急速に加工原料としての栽培が進み、現在は北米の熱帯地方、ハワイなどで栽培されています(文献1:2017)。
日本においては、主に沖縄県や鹿児島県で少量栽培されています(文献1:2017)。
アセロラ果実エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
糖質 | 単糖 | フルクトース、グルコース |
有機酸 | リンゴ酸 | |
ビタミン | アスコルビン酸 | |
フラボノイド | アントシアニン |
これらの成分で構成されていることが報告されており(文献2:2006;文献3:2008)、他の果実と比較してもアスコルビン酸(ビタミンC)の含有量が高いのが特徴です。
アセロラ果実の化粧品以外の主な用途としては、食品分野において加工食品として果汁を絞って果実飲料にするほか、ジャム、ゼリー、キャンディなどに用いられます(文献1:2017)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、日焼け止め製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品など様々な製品に使用されています。
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献4:2002;文献5:2016;文献6:2019)。
また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献4:2002;文献6:2019)。
ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献4:2002;文献6:2019)。
そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献4:2002)。
正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献4:2002)。
このような背景から、チロシナーゼの活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチであると考えられています。
2000年にコーセーおよびニチレイによって報告されたアセロラ果実エキスのチロシナーゼおよびヒト皮膚色素沈着における影響検証によると、
アセロラ果実エキスは、単独でもチロシナーゼ活性阻害作用を示したが、他のチロシナーゼ活性阻害剤と併用した場合に相乗効果を示すことを確認した。
次に、90名の女性被検者(27-54歳)のうち15名を1グループとし、それぞれ1.0%アセロラ果実エキス(水抽出)、3.0%リン酸アスコルビルMg(チロシナーゼ活性阻害剤)、0.3%グリチルリチン酸2K(抗炎症剤)を単独または併用したクリームを1日2回(朝晩)3ヶ月にわたって洗顔後に塗布してもらい、対照として残りの15名にすべて未配合クリームを同様に使用してもらった。
3ヶ月後に「有効:肌のくすみが目立たなくなった」「やや有効:肌のくすみがやや目立たなくなった」「無効:使用前と変化なし」の基準で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 肌のくすみ改善効果(人数) | ||
---|---|---|---|
有効 | やや有効 | 無効 | |
アセロラ果実エキス配合クリーム | 3 | 9 | 3 |
リン酸アスコルビルMg配合クリーム | 2 | 8 | 5 |
グリチルリチン酸2K配合クリーム | 0 | 3 | 12 |
アセロラ果実エキス + リン酸アスコルビルMg配合クリーム | 9 | 5 | 1 |
アセロラ果実エキス + グリチルリチン酸2K配合クリーム | 7 | 6 | 2 |
クリームのみ(対照) | 0 | 1 | 14 |
1.0%アセロラ果実エキス配合クリームの塗布は、未配合クリームと比較して肌のくすみを改善することがわかった。
また、アセロラ果実エキスに他のチロシナーゼ活性阻害剤であるリン酸アスコルビルMgを併用することで相乗的に効果を発揮することが確認された。
さらに、アセロラ果実エキスと単独では肌のくすみの改善効果を示さない抗炎症剤であるグリチルリチン酸2Kを併用することで相乗的に効果を発揮することが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献7:2000)、アセロラ果実エキスにチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。
また、アセロラ果実エキスは、他のチロシナーゼ活性阻害剤であるリン酸アスコルビルMgや抗炎症剤であるグリチルリチン酸2Kを併用することで色素沈着抑制作用の相乗効果が得られることが明らかにされています(文献7:2000)。
アセロラ果実エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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アセロラ果実エキスは美白成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:美白成分
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参考文献:
- 杉田 浩一, 他(2017)「アセロラ」新版 日本食品大事典,23.
- T. Mezadri, et al(2006)「The Acerola fruit: composition, productive characteristics and economic importance」Archivos Latinoamericanos de Nutrición(56)(2),101-109.
- T. Hanamura, et al(2008)「Changes of the composition in acerola (Malpighia emarginata DC.) fruit in relation to cultivar, growing region and maturity」Journal of the Science of Food and Agriculture(88)(10),1813-1820.
- 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
- 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
- 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
- 株式会社コーセー, 株式会社ニチレイ(2000)「美白用皮膚外用剤」特開2000-212032.