アスコルビルグルコシドとは…成分効果と毒性を解説




・アスコルビルグルコシド
[医薬部外品表示名称]
・L-アスコルビン酸2-グルコシド
[慣用名]
・アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸2グルコシド、AA2G、安定型ビタミンC誘導体、持続型ビタミンC誘導体、
1994年に医薬部外品美白有効成分として承認された、アスコルビン酸(ビタミンC)にグルコースを縮合させて生成される水溶性ビタミンC誘導体です(文献1:1995)。
安定型ビタミンC誘導体と呼ばれていることからも推察されるように、非常に安定性が高いのが特徴で、アスコルビン酸では不安定である熱や酸化に対しても極めて安定です(文献2:1991)。
また一方で、アスコルビルグルコシドの作用は、アスコルビルグルコシドが皮膚内でα-グルコシダーゼやエステラーゼによりアスコルビン酸とグルコースに加水分解されることによるアスコルビン酸の作用であり(文献6:2003;文献7:2017)、皮膚内でのアスコルビン酸への分解は徐々になされ、長時間継続することから、持続型ビタミンC誘導体とも呼ばれています(文献2:1991;文献3:1992)。
ただし、2004年に昭和電工によって公開されたビタミンC誘導体の皮膚浸透性および皮内アスコルビン酸量の比較検証によると、
アスコルビルグルコシドを添加して培養した細胞は、他のビタミンC誘導体に比べて、いずれの測定時間においてもアスコルビン酸濃度は低かった。
アスコルビルグルコシドのアスコルビン酸濃度が低く、しかも遅効的であるのは、ヒト表皮角化細胞内に分解活性を有するα-グルコシダーゼの活性が低いためと思われる。
次にボランティアより提供を受けたヒト皮膚バイオプシー小片を用いて、表皮側に各ビタミンC誘導体0.5%を投与し、4時間経過した時点で皮膚片を取り出し、表皮および真皮中のアスコルビン酸濃度を測定した。
用いた皮膚片によって皮膚透過量にかなりの差異がみられたが、いずれの試験においても以下のグラフのように、
アスコルビルグルコシドは他のビタミンC誘導体と比較して皮内アスコルビン酸濃度が低かった。
このような検証結果が明らかにされており(文献9:2004)、アスコルビルグルコシドは表皮内に分解活性を有する酵素の活性が低く、分解されにくいために、表皮におけるアスコルビン酸量が低いことが示されています。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、薬用美白化粧品、美白化粧品、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、洗顔料&洗顔石鹸、シート&マスク製品などに使用されています。
メラニン還元による色素沈着抑制作用
メラニン還元による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸の一種であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。
この一連のプロセスによって黒化メラニンが生合成されますが、アスコルビン酸(ビタミンC)には、以下のように、
- ドーパキノンをドーパに還元 [色素沈着抑制作用]
- 黒化メラニンを淡色メラニンに還元 [メラニン淡色化作用]
黒化メラニンになる前に還元して黒化メラニンを防止する作用と、黒化メラニンそのものを還元して色素を薄くする作用があります。
1992年に林原生物化学研究所によって公開された技術情報によると、
色黒、シミ、そばかすに悩む被検者10人を1群とし、各濃度のアスコルビルグルコシド配合化粧製剤を1日2回(朝夕)2ヶ月間にわたって連用してもらい、その美白効果を検証した。
判定基準は、著効:色素沈着がほとんど目立たなくなった、有効:色素沈着が非常に薄くなった、やや有効:色素沈着がやや薄くなった、無効:変化なしの4段階とし、有効以上の割合が80%以上の場合を◎、60%以上80%未満の場合を○、40%以上60%未満の場合を△、40%未満の場合を☓としたところ、以下の表のように、
製剤の種類 | アスコルビルグルコシド濃度(%) | 判定 |
---|---|---|
乳液 | 1.0 | ○ |
乳液 | 3.0 | ◎ |
クリーム | 1.0 | ◎ |
クリーム | – | △ |
化粧水 | 0.5 | ◎ |
化粧水 | – | ☓ |
パック | 5.0 | ○ |
アスコルビルグルコシドには、有意な色素沈着の淡色化が認められた。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:1992)、アスコルビルグルコシドにメラニン還元による色素沈着抑制作用が認められています。
次に1997年に岡山大学薬学部によって公開された紫外線におけるアスコルビン酸の効果検証によると、
15人の被検者(男性11人、女性4人)の右上腕内側部の2箇所に対照クリームおよび2%アスコルビルグルコシド配合クリームを1日3回6日間連用してもらった。
また紫外線は、UVAおよびUVBを同時に1日1回(最小紅斑紫外線量(MED)を合計3回)照射し、紫外線照射後9日目の皮膚黒化度を比較したところ、以下の表のように、
アスコルビルグルコシド配合クリームの効果判定 | 色素沈着予防人数 |
---|---|
有効 | 9 |
やや有効 | 2 |
無効 | 1 |
やや悪化 | 2 |
悪化 | 1 |
アスコルビルグルコシド配合クリームはやや有効以上が11人(73%)であり、有意な色素沈着抑制効果が示された。
このように記載されており(文献8:1997)、アスコルビルグルコシドに紫外線照射における色素沈着抑制作用が認められています。
紫外線照射における抗炎症作用
紫外線照射における抗炎症作用に関しては、1997年に岡山大学薬学部によって公開された紫外線におけるアスコルビン酸の効果検証によると、
15人の被検者(男性11人、女性4人)の右上腕内側部の2箇所に対照クリームおよび2%アスコルビルグルコシド配合クリームを1日3回6日間連用してもらった。
また紫外線は、UVAおよびUVBを同時に1日1回(最小紅斑紫外線量(MED)を合計3回)照射し、紫外線照射3回目の直前に紅斑判定を行ったところ、以下の表のように、
アスコルビルグルコシド配合クリームの効果判定 | 紅斑予防人数 |
---|---|
有効 | 10 |
やや有効 | 2 |
無効 | 1 |
やや悪化 | 1 |
悪化 | 1 |
アスコルビルグルコシド配合クリームはやや有効以上が12人(80%)であり、有意な紅斑抑制効果が示された。
このように記載されており(文献8:1997)、アスコルビルグルコシドに紫外線照射における抗炎症作用が認められています。
コラーゲン産生増強による抗老化作用
コラーゲン産生増強による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるコラーゲンの役割を解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
コラーゲンは、真皮において線維芽細胞から合成され、水分を多量に保持したヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのムコ多糖類(グリコサミノグルカン)を維持・保護・支持し、内部にたっぷりと水分を抱えながら皮膚のハリを支える膠質状の性質を持つ枠組みとして規則的に配列しています(文献5:2002)。
ただし、加齢や過剰な紫外線によってコラーゲンの産生量が低減することで、その働きが衰えてくることが知られており、コラーゲン産生を促進することはハリのある若々しい肌を維持するために重要であると考えられています。
2003年に林原生物化学研究所によって公開された技術情報によると、詳細な実験結果は省略されていますが、
アスコルビルグルコシドは、ヒトを含む動物がが経皮的に投与された場合、生体内にアスコルビン酸として吸収され、コラーゲン産生作用を示すことが確認された。
またアスコルビルグルコシドのコラーゲン産生作用は、生体内に吸収されたL-アスコルビン酸が線維芽細胞に作用し、線維芽細胞のコラーゲン産生を増強する効果のことである。
このように記載されており(文献4:2003)、アスコルビルグルコシドにコラーゲン産生増強による抗老化作用が認められています。
またローヤルゼリーにアスコルビン酸のコラーゲン産生の増強効果を促進することが報告されており、これらを併用することでコラーゲン産生の相乗効果が認められています(文献4:2003)。
アスコルビルグルコシドの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医薬部外品有効成分
- L-アスコルビン酸とα-グルコシル糖化合物などとを経口摂取することにより生体内で生成および代謝される物質
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
岡山大学薬学部、林原生物化学研究所、加美乃素本舗および資生堂の共同研究(文献3:1992)によると、
- 無刺激
- 感作性はまったく認められない
と記載されています。
L-アスコルビン酸とα-グルコシル糖化合物を経口摂取することにより、生体内で生成および代謝される物質であり、研究報告をみるかぎり、皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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アスコルビルグルコシドは美白成分、抗炎症成分、抗老化成分にカテゴライズされています。
それぞれの成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- 株式会社資生堂(1995)技術資料.
- 山本 格, 他(1991)「α—グリコシル—L—アスコルビン酸とその製造方法並びに用途」特開平03-139288.
- 山本 格, 他(1992)「皮膚外用剤」特開平04-182412.
- 宮田 聡美, 他(2003)「コラーゲン産生増強剤の製造方法とその用途」特開2003-171290.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.
- 山本 格(2003)「ビタミンCの分子修飾とその特性に関する研究」ビタミン(77)(4),210-211.
- 藤堂 浩明(2017)「動物皮膚を介した薬物の皮膚透過性について」Drug Delivery System(32)(5),411-417.
- 宮井 恵里子, 他(1997)「ビタミンCの色素沈着抑制作用」Fragrance Journal(25)(3),55-61.
- 加藤詠子, 他(2004)「第ニ世代プロビタミンC」Fragrance Journal(32)(2),55-60.
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