バニリルブチルとは…成分効果と毒性を解説

温感
バニリルブチル
[化粧品成分表示名称]
・バニリルブチル

化学構造的にバニリルアルコールとn-ブチル基(-CH2CH2CH2CH3をエーテル結合した分子量210.27のバニリルブチルエーテルです(文献1:2020)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、ボディ&ハンドケア製品、リップ化粧品、頭皮ケア製品、入浴剤などに使用されています。

TRPV1活性化による温感付与効果

TRPV1活性化による温感付与効果に関しては、まず前提知識として自由神経終末、温度感受性TRP(Transient Receptor Potential)チャネルおよびTRPV1について解説します。

皮膚には、体温を維持するために環境温を感受する温度受容器官が備わっており、温度受容器として働いているのが、表皮顆粒層に分布するケラチノサイト(角化細胞)および真皮から表皮に分布する自由神経終末です(文献2:2012;文献3:2013)

皮膚の温度受容器官

ケラチノサイトおよび自由神経終末では、温度感受性TRPチャネルと呼ばれる陽イオンチャネル受容体が細胞膜に存在しており、これらが温度受容の一端を担っていると考えられています(文献2:2012;文献3:2013)

温度感受性TRPチャネルとは、温度だけでなく多くの化学的・物理的刺激を感受する刺激受容体であり、以下の図をみるとわかりやすいと思いますが、

温度感受性TRPチャネル

活性化温度域、発現部位などにより9つのチャネルが存在し、主に28℃以下の冷たい温度領域および43℃以上の熱い温度領域で活性化する温度感受性TRPチャネルは自由神経終末で発現、30-40℃の温かい温度領域で活性化する温度感受性TRPチャネルはケラチノサイトで発現すると報告されています(文献3:2013)

TRPV1は、主に自由神経終末に存在し、43℃以上の熱刺激やトウガラシの主成分であるカプサイシン(capsaicin)によって活性化する(∗1)熱刺激受容体(カプサイシン受容体)ですが(文献3:2013;文献4:2004)、43℃は生体に痛みを引き起こす温度閾値(∗2)と考えられており、カプサイシンが熱感だけでなくヒリヒリとした痛み刺激も活性化したり、また酸刺激(プロトン)でも活性化することから、TRPV1は熱刺激だけでなく痛み刺激の受容体でもあると考えられています(文献3:2013)

∗1 トウガラシを食べると、口の中に灼けつくような熱さを感じるのは、TRPV1の活性化によるものです。

∗2 閾値とは、境界となる値のことであり、ここでは生体に痛みを引き起こす最低温度は43℃であるという意味です。

カプサイシンはその構造にバニリル基を有しており、カプサイシンを皮膚に接触させるとこのバニリル基にTRPV1が応答し(文献4:2004)、活性化温度閾値が上昇することによって常温に近い温度で熱感が引き起こされますが、この温感はバニリル基によってTRPV1が活性化したことによって引き起こされた感覚であり、実際に温度が上昇するわけではありません。

バニリルブチルもバニリル基を有していることから、皮膚に接触させると温感・熱感が付与されることが明らかにされており(文献5:2013)、ボディマッサージ製品、ハンドケア製品、リップ化粧品などに使用されています。

バニリルブチルの温感付与効果は即効型ではなく、塗布2分あたりから温感が上昇し10分あたりをピークとしてゆるやかに下降しながら温感を保持する持続型であり(文献7:2019)、速効型であるトウガラシ果実エキスと併用している場合は、即効性と持続性を兼ね備えた処方である可能性が考えられます。

また、1,2-アルカンジオールは、カリウムチャネルの一種であるTREK-1に作用することで温感強度を調整するため、バニリルブチルとカプリリルグリコール(1,2-オクタンジオール)1,2-ヘキサンジオールなどの1,2-アルカンジオールを併用することで、灼熱感や刺激感が低減することが報告されていることから(文献6:2018;文献7:2019)、これらが併用されている場合は刺激感を低減させたほどよい温感を実現する設計であると考えられます。

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バニリルブチルの安全性(刺激性・アレルギー)について

バニリルブチルの現時点での安全性は、

  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

Symriseの安全性試験データ(文献7:2019)によると、

  • [ヒト試験] 17人の被検者の前腕に0.4%バリニルブチルを含むクリームを塗布し、塗布30秒および2,5,10,15および20分後の皮膚刺激感(灼熱感、チクチク刺すような刺激、紅斑)を評価したところ、5分後に1人、10分後に3人、15分後に5人および20分後に4人がいずれかの皮膚刺激感を報告した
  • [ヒト試験] 17人の被検者の前腕に0.4%バリニルブチルおよび1,2-アルカンジオールを含むクリームを塗布し、塗布30秒および2,5,10,15および20分後の皮膚刺激感(灼熱感、チクチク刺すような刺激、紅斑)を評価したところ、5分後に1人、10分後に2人、15分後に2人および20分後に3人がいずれかの皮膚刺激感を報告した
  • [ヒト試験] 156人の被検者の肩または背中に0.4%バリニルブチルおよび1,2-アルカンジオールを含むボディバームを塗布し、塗布30分後まで皮膚刺激感(灼熱感、チクチク刺すような刺激、紅斑)を評価したところ、6人の被検者がいずれかの皮膚刺激感を報告した
  • [ヒト試験] 80人の被検者の肩または背中に0.32%バリニルブチルおよび1,2-アルカンジオールを含むボディバームを塗布し、塗布30分後まで皮膚刺激感(灼熱感、チクチク刺すような刺激、紅斑)を評価したところ、4人の被検者がいずれかの皮膚刺激感を報告した

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して一部の被検者に皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-個人差のある皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

また、皮膚刺激感はバニリルブチル単体より、バニリルブチルと1,2-アルカンジオール併用系のほうが有意に少ないことが明らかにされています。

バニリルブチルは適度であれば快適な温感および刺激感を付与する一方で、多すぎると灼熱感やヒリヒリ感といった不快刺激を感じることが知られており、また感受性の違いや温感や刺激感の感じ方の違いに個人差があることが考えられます。

そのため、製品によっては意図して適度な刺激感を付与したり、あるいは低減したり様々な処方で使用されています。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

バニリルブチルは温冷感成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:温冷感成分

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文献一覧:

  1. “Pubchem”(2020)「Vanillyl butyl ether」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Vanillyl-butyl-ether> 2020年8月2日アクセス.
  2. 富永 真琴(2012)「刺激感受性:温度感受性TRPチャネルの生理機能」日本香粧品学会誌(36)(4),296-302.
  3. 富永 真琴(2013)「温度感受性TRPチャネル」Science of Kampo Medicine(37)(3),164-175.
  4. 富永 真琴(2004)「温度受容の分子機構」日本薬理学雑誌(124)(4),219-227.
  5. Ling-Chiao Chen, et al(2013)「Vanillyl Butyl Ether to Topically Induce Blood Cell Flux, Warming Sensation」Cosmetics & Toiletries(125),36-39.
  6. 岩瀬コスファ株式会社(2018)「防腐剤フリーのニーズに適した補助剤を提案」C & T(1),42-43.
  7. Symrise(2019)「Thermolat」Technical Data Sheet.

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