デキストリンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | デキストリン |
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医薬部外品表示名 | デキストリン |
INCI名 | Dextrin |
配合目的 | 増粘、感触改良、結合、賦形 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
デンプン(starch)を部分加水分解して得られるデンプンとマルトースの中間生成物であり、以下の化学式で表されるグルコースの重合体混合物(多糖)(∗1)かつ植物系水溶性高分子です[1a][2]。
∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことをいいます。デキストリンはグルコースを単量体とし、マルトースからそれ以上の長さの鎖長をもつ重合体です。
1.2. デンプン加水分解物の種類と物性
デンプンの加水分解物はDE(Dextrose Equivalent)の値(∗2)によって、
∗2 デンプンは完全に加水分解(糖化)するとすべてグルコース(ブドウ糖)となりますが、DE(Dextrose Equivalent)とは、デンプンを加水分解して得られた物質のブドウ糖の含有割合のことをいいます。デンプンのDE値は0であり、グルコースのDE値は100となり、デンプンの加水分解度合いによって中間生成物が命名されています。
デンプン加水分解物 | DE値 | 分子量 | 溶解性 | 粘度 | 粘着性 |
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デンプン | 0 | 大 ↓ 小 |
低 ↑ 高 |
高 ↓ 低 |
高 ↓ 低 |
デキストリン | 10以下 | ||||
マルトデキストリン | 10-20 | ||||
粉あめ | 20-35 | ||||
グルコース | 100 |
このように分類されており、加水分解度合いが高まるにつれて粘度や粘着性は下がり、一方で溶解性は高くなることが知られています[3]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
デキストリンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 食品に粘りを付与したり均一な液をつくるのに適した性質をもつことから増粘や分散目的で菓子類、ソースなどをはじめ様々な食品に用いられています[4]。 |
医薬品 | 吸着、結合、粘着、粘稠、賦形、分散、崩壊目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、歯科外用および口中用剤などに用いられています[5a]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性増粘
- 粘着性による感触改良
- 結合
- 賦形
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、ボディ石鹸、アウトバストリートメント製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性増粘
親水性増粘に関しては、デキストリンは水には溶けにくいですが熱水で溶け、接着力をともなう粘性を示すことから、粘度調整や粘度あるいは製品の乳化安定性を保つ目的で様々な製品に使用されています[1b][6a][7a]。
2.2. 粘着性による感触改良
粘着性による感触改良に関しては、デキストリンは水に溶けて粘性および粘着性を示すことから、皮膚への吸着性・密着性を高める目的やコクのある感触をだす目的で使用されています[7b][8]。
2.3. 結合
結合に関しては、デキストリンは粉体原料同士を皿状容器に圧縮成型するとき、粉体原料同士のくっつきをよくしたり、使用時に粉が周囲に飛び散るのを防ぐ目的で主にパウダー系メイクアップ製品などに用いられます[1c][7c]。
2.4. 賦形
賦形に関しては、デキストリンは医薬品の有効成分量および濃度を均一にしたり、有効成分だけでは分量が少なくそのままだと容量や重量が足りない場合に分量を増やす増量剤として用いられており[5b]、化粧品においても同様の目的で粉末原料やパウダー系製品などに使用されています[1d][6b][7d]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2013-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9]によると、
- [ヒト試験] 54名の被検者(男性8名、女性46名)に0.4%デキストリンを含む洗顔料0.1gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において1名の被検者に一過性のほとんど知覚できない紅斑がみられたが、チャレンジ期間において皮膚反応は観察されず、臨床的に重要な皮膚刺激およびアレルギー性接触皮膚炎の兆候はなかった(Essex Testing Clinic Inc,2005)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃abcd日本化粧品工業連合会(2013)「デキストリン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,655.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「デキストリン」化学大辞典,1476.
- ⌃佐々木 朋子(2018)「多糖類としての難消化デキストリンの特徴」,2021年9月29日アクセス.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「デキストリン」食品添加物事典 新訂第二版,448.
- ⌃ab日本医薬品添加剤協会(2021)「デキストリン」医薬品添加物事典2021,401-402.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「高分子」パーソナルケアハンドブックⅠ,106-134.
- ⌃abcd鈴木 一成(2012)「デキストリン」化粧品成分用語事典2012,599.
- ⌃宇山 侊男, 他(2020)「デキストリン」化粧品成分ガイド 第7版,48.
- ⌃W.F. Bergfeld, et al(2015)「Safety Assessment of Polysaccharide Gums as Used in Cosmetics(∗4)」, 2021年9月29日アクセス.
∗4 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。