ジメチルシリル化シリカの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ジメチルシリル化シリカ |
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医薬部外品表示名 | シリル化処理無水ケイ酸 |
INCI名 | Silica Dimethyl Silylate |
配合目的 | 増粘、増量・希釈・賦形 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
シリカをジメチルシリル化処理し疎水性としたものです[1a]。
1.2. 性状
ジメチルシリル化シリカの性状は、
状態 | 白色の真球状微粉末 |
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2. 化粧品としての配合目的
- 非水系増粘
- 増量・希釈・賦形
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、コンシーラー製品、ネイル製品、スキンケア製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 非水系増粘
非水系増粘に関しては、ジメチルシリル化シリカはシリカをジメチルシリル化処理し疎水性とした微粉末であり、少量で油性成分を増粘させ、その液性はチキソトロピー性(∗1)を示すことから[3b][4a][5a]、油性基剤の粘度を調整する目的でメイクアップ製品、化粧下地製品、コンシーラー製品、ネイル製品、スキンケア製品などに汎用されています。
∗1 チキソトロピー性とは、混ぜたり振ったり、力を加えることで粘度が下がり、また時間の経過とともに元の粘度に戻る現象をいいます。よく例に出されるのはペンキで、ペンキは塗る前によくかき混ぜることで粘度が下がり、はけなどで塗りやすくなります。そしてペンキは塗られた直後に粘度が上がり(元に戻り)、垂れずに乾燥します。
2.2. 増量・希釈・賦形
増量・希釈・賦形に関しては、まず前提知識としてパウダー化粧品における着色剤の役割について解説します。
パウダー化粧品において着色剤は、美肌に見せるために肌の色を好ましい色に調整し、肌のムラやくすみ、シミなどの欠点を隠す役割を担っていますが、着色顔料だけでは肌の色は好みどおりでかつ肌の欠点も隠れたとしても人工的で不自然な仕上がりになり、とても美肌とはよべない状態となり、また肌への伸びや滑り性も悪いものとなってしまうことが知られています[6a]。
そこで、着色剤の色を薄め、かつ塗りやすく均一で適切な仕上がりにするために体質顔料を混合することが、パウダー化粧品には不可欠となっています[6b]。
ジメチルシリル化シリカは、疎水性の真球状シリカ粒子であり、パウダー製品の増量剤や賦形剤として主にメイクアップ製品に汎用されています[1b][4b][5b]。
3. 混合原料としての配合目的
ジメチルシリル化シリカは混合原料が開発されており、ジメチルシリル化シリカと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | ACX-806C |
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構成成分 | (アクリレーツ/アクリル酸エチルヘキシル)クロスポリマー、ジメチルシリル化シリカ |
特徴 | やわらかい触感を付与する架橋型ポリアクリル酸エステルの真球状軟質微粒子 |
4. 配合製品数および配合量範囲
シリル化処理無水ケイ酸は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
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薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 上限なし |
育毛剤 | 上限なし |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 上限なし |
薬用口唇類 | 10 |
薬用歯みがき類 | 10 |
浴用剤 | 上限なし |
実際の化粧品における配合製品数および配合量に関しては、海外の2010-2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、
- [ヒト試験] 45名の被検者に7.5,15および30%ジメチルシリル化シリカを含むスクワランを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も試験期間を通じて皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Anonymous,1993)
- [ヒト試験] 107名の被検者に2%ジメチルシリル化シリカを含むアイライナーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も試験期間を通じて皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(TKL Research,2010)
- [ヒト試験] 100名の被検者に7%ジメチルシリル化シリカを含むリップスティックを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も試験期間を通じて皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Consumer Product Testing Co,2008)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2c]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギに25%ジメチルシリル化シリカ0.5mLを点眼し、点眼1,24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、1匹のウサギで結膜発赤およびまぶたのわずかな膨張が、残りの5匹は結膜にわずかな赤みがみられた。これらの眼刺激反応は1,3および7日後にすべて正常にもどり、全観察期間における角膜と虹彩の刺激指数は0であったため、この試験物質は非刺激であると結論づけられた(Huntingdon Life Sciences Ltd,1999)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼にジメチルシリル化シリカ0.1mLを点眼し、3匹の眼は生理食塩水ですすぎ、残りの3匹の眼はすすがず、点眼1,24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、いずれの観察時間においても刺激の兆候はなかった(Cabot Corporation,2010)
- [動物試験] 8匹のウサギの片眼にジメチルシリル化シリカ0.1mLを点眼し、3匹の眼は生理食塩水ですすぎ、残りの5匹の眼はすすがず、点眼1,24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、いずれの観察時間においても刺激の兆候はなかった(Degussa AG,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ジメチルシリル化シリカ」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,510.
- ⌃abcL.C. Becker, et al(2013)「Safety Assessment of Silylates and Surface-Modified Siloxysilicates」International Journal of Toxicology(32)(3_suppl),5S-24S. DOI:10.1177/1091581813486299.
- ⌃ab旭化成ワッカーシリコーン株式会社(2015)「HDKシリーズ」Product Information.
- ⌃abWacker Chemie AG(2022)「HDK H18」Technical Data Sheet.
- ⌃abWacker Chemie AG(2020)「HDK H20,H30」Technical Data Sheet.
- ⌃ab柴田 雅史(2021)「無色の光の美しさと感触調整 – 体質顔料」美しさをつくる色材工学,180-199.