ジェランガムの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ジェランガム |
---|---|
医薬部外品表示名 | ジェランガム |
INCI名 | Gellan Gum |
配合目的 | 増粘 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ブドウ糖を基質としてスフィンゴモナス属菌Sphingomonas elodea(∗1)の純粋培養によって得られる産生粘質物であり、以下の化学式で表されるグルコース2分子、L-ラムノースとグルクロン酸各1分子が直鎖状に結合した四糖構造(∗2)の繰り返し単位で構成された複合多糖かつ微生物系水溶性高分子です[1a][2a]。
∗1 ジェランガムは以前はシュードモナス属菌「Pseudomonas elodea」の純粋培養によって得られると記載されていましたが、1990年代にスフィンゴモナス属菌がシュードモナス属菌から分枝されたことから、現在ではスフィンゴモナス属菌「Sphingomonas elodea」と命名されています[3]。
∗2 ジェランガムの四糖構造は以下の化学式の左からD-グルコース → D-グルクロン酸 → D-グルコース → L-ラムノースとなっています。ただし、グルコースの中にはグリセリルおよび/またはアセチルエステル化されたものが含まれます。
1.2. 分布
ジェランガムは、自然界においてスフィンゴモナス属菌Sphingomonas elodeaの発酵産物として存在しています[4]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
ジェランガムの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 増粘安定やゲル化目的で各種ゼリー、ジャム、デザート類に用いられています[5]。 |
医薬品 | 点眼後に涙液中のナトリウムイオンによって速やかにゲル化することから、眼球上で薬物の滞留性を向上させる目的の医薬品添加剤として眼科用剤などに用いられています[6][7]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性増粘およびゲル化
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性増粘およびゲル化
親水性増粘およびゲル化に関しては、ジェランガムはカンテンに似た固くて脆いゲルを形成することから、粘度を調整し粘度あるいは製品の安定性を保つ目的で様々な製品に使用されています[1b][2b]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2011-2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
食品添加物の既存添加物リストおよび医薬品添加物規格2018に収載されており、15年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に0.2または0.3%ジェランガム溶液50μLを適用し、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Y. Liu et al,2010)
- [動物試験] ウサギの片眼に0.8%ジェランガム溶液を適用し、眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(S. Ramaiah et al,2007)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ジェランガム」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,467.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「高分子」パーソナルケアハンドブックⅠ,106-134.
- ⌃N.B. Vartak, et al(1995)「Glucose metabolism in ‘Sphingomonas elodea’: pathway engineering via construction of a glucose-6-phosphate dehydrogenase insertion mutant」Microbiology(141)(9),2339-2350. DOI:10.1099/13500872-141-9-2339.
- ⌃D. Shungu, et al(1983)「GELRITE as an Agar Substitute in Bacteriological Media」Applied and Environmental Microbiology(46)(4),840-845. DOI:10.1128/aem.46.4.840-845.1983.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「ジェランガム」食品添加物事典 新訂第二版,163.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ジェランガム」医薬品添加物事典2021,272.
- ⌃田坂 文孝(2007)「刺激応答性ポリマーの点眼剤への応用」高分子(56)(9),766. DOI:10.1295/kobunshi.56.766.
- ⌃M.M. Fiume, et al, et al(2016)「Safety Assessment of Microbial Polysaccharide Gums as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(35)(1_Suppl),5S-49S. DOI:10.1177/1091581816651606.