セルロースガムの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | セルロースガム |
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医薬部外品表示名 | カルボキシメチルセルロースナトリウム |
部外品表示簡略名 | カルボキシメチルセルロースNa、CMC・Na |
INCI名 | Cellulose Gum |
配合目的 | 増粘、起泡補助 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるセルロースのグルコース骨格の2,3,6位のヒドロキシ基(-OH)がランダムでカルボキシメチル基(-CH2-COOH)に置換されたカルボキシメチルエーテル(セルロース誘導体)のナトリウム塩です[1a][2a][3]。
1.2. 物性
セルロースは、親水性であるヒドロキシ基(-OH)を多くもっていますが、ヒドロキシ基同士で強固な分子内・分子間水素結合を形成するため結晶性が発現し、セルロース分子間に水が入り込めないことから水や一般的な有機溶媒に溶解しないことが知られています[4]。
セルロースガムは、水に溶けないセルロースのヒドロキシ基(-OH)を部分的にカルボキシメチル基(-CH2-COOH)で置換することにより水素結合を消失させて、水に溶けやすくした弱アニオン性の水溶性セルロースエーテルのナトリウム塩です[2b][5]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
セルロースガムの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 増粘剤や安定剤として冷菓、調味料、飲料、漬物などに用いられています[6]。 |
医薬品 | 硬化便を物理的に軟便化するため膨張性下剤として用いられています[7]。また安定・安定化、滑沢、基剤、結合、懸濁・懸濁化、コーティング、糖衣、乳化、粘着・粘着増強、粘稠・粘稠化、賦形、分散、崩壊・崩壊補助、溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、耳鼻科用剤、歯科外用剤および口中用剤などに用いられています[8]。 |
これらの用途が報告されています(∗1)。
∗1 医薬品添加物においてカルボキシメチルセルロースナトリウムは「カルメロースナトリウム(Carmellose Sodium)」として区別されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性増粘
- 泡持続性増強
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、ボディ&ハンドケア製品、スキンケア製品、マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、ボディソープ製品、ヘアカラー製品、ヘアスタイリング製品、ネイル製品、オーラルケア製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性増粘
親水性増粘に関しては、セルロースガムは水に溶けて粘性溶液となり、またその液性は吸湿性およびチキソトロピー性(∗2)を示すといった特徴をもつことから[2c]、粘度を調整し粘度あるいは製品の乳化安定性を保つ目的で様々な製品に使用されています[1b]。
∗2 チキソトロピー性とは、混ぜたり振ったり、力を加えることで粘度が下がり、また時間の経過とともに元の粘度に戻る現象をいいます。よく例に出されるのはペンキで、ペンキは塗る前によくかき混ぜることで粘度が下がり、はけなどで塗りやすくなります。そしてペンキは塗られた直後に粘度が上がり(元に戻り)、垂れずに乾燥します。
2.2. 泡持続性増強
泡持続性増強に関しては、セルロースガムは気泡膜を強化し、気泡の持続性を調整する目的で洗浄系製品、ジェービング製品、入浴剤などに使用されています[9]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2009年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10a]によると、
- [ヒト試験] 200名の被検者に100%セルロースガムを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、試験期間を通じてこの試験物質は皮膚刺激および皮膚感作反応を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1952)
- [ヒト試験] 15名の被検者に3%セルロースガムを含むリンクルスムージングクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、平均皮膚激スコアは最大4のうち0.17であり、対照との間に有意差は観察されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [ヒト試験] 86名の被検者に1.1%セルロースガムを含む化粧水を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において3名の被検者にほとんど知覚できない紅斑が観察されたが、チャレンジ期間において皮膚反応は観察されず、この試験物質は非刺激剤および非感作剤であると結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [ヒト試験] 97名の被検者に1%セルロースガムを含むペーストマスクを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において1名の被検者で軽度の皮膚刺激が観察されたが、チャレンジ期間において皮膚反応はなく、この製品は非刺激剤および非感作剤であると結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 17名の被検者に0.5%セルロースガムを含むアイライナーを対象に21日間連続使用試験を実施し、累積刺激性スコアを0-630のスケールで評価したところ、累積刺激スコアは2.1であり、この試験物質は実質的に累積刺激性なしと結論づけられた(Concorde Laboratories,1982)
- [ヒト試験] 209名の被検者に0.5%セルロースガムを含むアイライナーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において皮膚反応は観察されず、チャレンジ期間においては2名の被検者に軽度の皮膚反応が観察されたが、臨床的に意味のある皮膚反応とはみなされず、この製品は非刺激剤および非感作剤であると結論付けられた(International Research Services,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼にセルロースガム0.1mgを含む水溶液を点眼し、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、すべての眼は3日目には眼刺激スコア0であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1974)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に3%セルロースガムを含むリンクルスムージング製剤を点眼し、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、1日目の平均眼刺激スコアは0であり、この製剤は非刺激剤であると結論づけられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に1.1%セルロースガムを含む化粧水を点眼し、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、1日目の平均眼刺激スコアは1、2日目のスコアは0であり、この試験物質は最小限の眼刺激剤であると結論づけられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に0.5%セルロースガムを含むリキッドアイライナーを適用し、3匹は洗眼し、6匹は洗眼せず、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、洗眼の有無にかかわらず眼刺激は観察されず、この試験物質は非刺激剤であると結論付けられた(Food and Drug Research Laboratories,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 光毒性(光刺激性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10c]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの剃毛した背中2箇所に0.5%セルロースガムを含むアイライナーを閉塞パッチ適用し、2時間後に1つのパッチを除去した後にUVランプを照射し、照射部位をアルミニウムオイルで再密閉して覆った。すべてのパッチを48時間後に除去し、49,72および96時間で皮膚刺激性を評価したところ、非照射部位の平均刺激スコアは最大8のうち0.22で、照射部位の平均刺激スコアは最大8のうち0.39であり、両者とも最小限の皮膚刺激とみなされた。この製品はウサギの皮膚に最小限の皮膚刺激剤ではあるが、照射部位と非照射部位の間に有意差はなく、この製品は光刺激剤はないと結論づけられた(Food and Drug Research Laboratories,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して光刺激なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激)はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「セルロースガム」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,620.
- ⌃abc渡辺 鋼市郎(1984)「カルボキシメチルセルロース」新増補 水溶性高分子,43-58.
- ⌃磯貝 明(2001)「水可用性のセルロース誘導体」セルロースの材料科学,51-52.
- ⌃山根 千弘・岡島 邦彦(2003)「溶解と成型」セルロースの科学,67-80.
- ⌃千田 壽一(1985)「カルボキシメチルセルロース」有機合成化学協会誌(43)(4),382-383. DOI:10.5059/yukigoseikyokaishi.43.382.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「カルボキシメチルセルロースナトリウム」食品添加物事典 新訂第二版,84-85.
- ⌃浦部 晶夫, 他(2021)「カルメロースナトリウム」今日の治療薬2021:解説と便覧,807.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「カルメロースナトリウム」医薬品添加物事典2021,147-148.
- ⌃田中 宗男・熊谷 重則(1990)「美を演出する高分子(化粧品)」高分子(39)(11),802-805. DOI:10.1295/kobunshi.39.802.
- ⌃abcR.L. Elder(1986)「Final Report on the Safety Assessment of Hydroxyethylcellulose, Hydroxypropylcellulose, Methylcellulose, Hydroxypropyl Methylcellulose, and Cellulose Gum」Journal of the American College of Toxicology(5)(3),1-59. DOI:10.3109/10915818609141925.