キサンタンガムの基本情報・配合目的・安全性
∗1 まったく異なる分子量が報告されるのは、高分子間の会合現象によるものだと考えられています。会合現象とは同一の物質の分子が複数個結合して単一分子のようになる現象のことです。
化粧品表示名 | キサンタンガム |
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医薬部外品表示名 | キサンタンガム |
INCI名 | Xanthan Gum |
配合目的 | 増粘 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
炭水化物をキサントモナス属菌(学名:Xanthomonas campestris)で醗酵して得られる産生粘質物であり、以下の化学式で表される2個のグルコースを主鎖とし、側鎖に1個のグルクロン酸と2個のマンノースが結合した構造の繰り返し単位で構成された鎖状多糖かつ微生物系水溶性高分子です[1a][2]。
1.2. 分布
キサンタンガムは、自然界においてキサントモナス属菌(学名:Xanthomonas campestris)が自らを熱や乾燥などから保護するために産生する保護膜として存在しています[3a]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
キサンタンガムの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 増粘安定目的でマヨネーズやドレッシングなどの調味料に、ゲル化目的でゼリーなどに用いられています[4][5a]。 |
医薬品 | 安定・安定化、基剤、懸濁・懸濁化、粘着増強、粘稠・粘稠化目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤などに用いられています[6]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性増粘
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、クレンジング製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品、頭皮ケア製品、ボディソープ製品、まつげ美容液など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性増粘
親水性増粘に関しては、キサンタンガムは他の天然系増粘剤と比較して相対的に幅広いpH域で増粘安定性が高く、高濃度の塩類との相溶性が高く、また温度依存性がほとんどなく、高いシュードプラスチック性(∗2)を示すといった特徴から、粘度を調整し粘度あるいは製品の安定性を保つ目的で様々な製品に汎用されています[1b][7][8]。
∗2 シュードプラスチック性とは、加える力を強くすることで粘度が低下する特性のことで、たとえばシュードプラスチック性を有するマヨネーズは、保管している状態(力が加わっていない状態)では液が動かず、チューブを押す(力を加える)と粘度が低下して液が絞り出されます。また口に入れると咀嚼による力が加えられるので、口の中では粘度を感じにくくなります。
粘度に関しては、DSP五協フードによると以下のグラフのように、
キサンタンガムは、粘度が高く、また他の多糖類と比較して低濃度で高粘度を示すのが特徴です[3b]。
また、キサンタンガムやローカストビーンガムはそれぞれ単独ではゲルを形成しませんが、これらを併用することで弾力のあるゲルを形成することが知られていることから[5b]、キサンタンガムとローカストビーンガムが併用されている場合はこれらによるゲル化目的で配合されている可能性が考えられます。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2011-2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9a]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの無傷および擦過した皮膚に1%キサンタンガム溶液0.5mLを対象に皮膚一次刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)は0.13であり、この試験物質は非刺激剤に分類された(J.P. Guillot et al,1982)
- [動物試験] 3匹のウサギに1%キサンタンガム溶液2mLを対象に週5回6週間にわたって閉塞パッチを適用する皮膚累積刺激性試験を実施したところ、累積刺激スコアは0であり、この試験物質は非刺激剤に分類された(J.P. Guillot et al,1982)
- [動物試験] モルモットに0.1%キサンタンガム溶液を週3回合計10回皮内注射し、10日間の休息期間の後にチャレンジを実施したところ、この試験物質は感作剤ではなかった(Inchem,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9b]によると、
- [動物試験] ウサギの片眼に1%キサンタンガム溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性をAOII(Acute Ocular Irritation Index:急性眼刺激指数)0-110のスケールで評価したところ、AOIIは2.50であり、この試験物質は非刺激剤に分類された(J.P. Guillot et al,1982)
- [動物試験] ウサギの片眼に1%キサンタンガム溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性をAOII(Acute Ocular Irritation Index:急性眼刺激指数)0-110のスケールで評価したところ、AOIIは5.83であり、この試験物質は非刺激剤に分類された(J.P. Guillot et al,1982)
- [動物試験] ウサギの片眼の結膜嚢に1%キサンタンガム溶液を5日間点眼し、眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤であった(Inchem,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「キサンタンガム」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,333-334.
- ⌃P. Jansson, et al(1975)「Structure of the extracellular polysaccharide from xanthomonas campestris」Carbohydrate Research(45)(1),275-282. DOI:10.1016/S0008-6215(00)85885-1.
- ⌃ab“多糖類.com”(-)「キサンタンガム」,2021年9月21日アクセス.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「キサンタンガム」食品添加物事典 新訂第二版,91-92.
- ⌃ab三好 恵真子・吉村 美紀(1998)「多糖類混合系ゲル」日本食品科学工学会誌(45)(1),73-82. DOI:10.3136/nskkk.45.73.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「キサンタンガム」医薬品添加物事典2021,166-167.
- ⌃宮原 令二・阿部 公司(1998)「化粧品原料としての糖質の応用の現状」Fragrance Journal(26)(7),20-25.
- ⌃南口 利一(1998)「増粘安定剤としての多糖類の香粧品への応用」Fragrance Journal(26)(7),48-56.
- ⌃abM.M. Fiume, et al(2016)「Safety Assessment of Microbial Polysaccharide Gums as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(35)(1_Suppl),5S-49S. DOI:10.1177/1091581816651606.