ポリエチレンの基本情報・配合目的・安全性

ポリエチレン

化粧品表示名 ポリエチレン
医薬部外品表示名 ポリエチレンワックス、ポリエチレン末、高融点ポリエチレン末
INCI名 Polyethylene
配合目的 固化・増粘感触改良 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるエチレン(∗1)の重合体(∗2)かつ炭化水素(合成系炭化水素)です[1a]

∗1 エチレン(ethylene 化学式:C₂H₄)とは、いわゆる気体のエチレンガスであり、二重結合で結ばれた炭素2個を持つ不飽和炭化水素(炭化水素ガス)です。

∗2 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指します。

ポリエチレン

医薬部外品表示名については、それぞれ、

医薬部外品表示名 本質
ポリエチレンワックス エチレンを重合して得られる低融点のポリエチレン
ポリエチレン末 エチレンを重合して得られるポリエチレン
高融点ポリエチレン末 エチレンの重合体

このように分けられており、化粧品表示名としてはいずれも「ポリエチレン」と表示されます。

1.2. 物性・性状

ポリエチレンの物性・性状は(∗3)

∗3 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。

状態 融点(℃) 溶解性
粉末顆粒または 85-120 低分子のものを除き60℃以下ではすべての溶媒に不溶、高温(70-100℃以上)で炭化水素に可溶

このように報告されています[2][3][4a]

1.3. 化粧品以外の主な用途

ポリエチレンの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 基剤目的の医薬品添加剤として外用剤などに用いられています[5]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 固化 [ポリエチレンワックス]
  • 非水系増粘 [ポリエチレン末]
  • クリーミィな感触付与による感触改良 [ポリエチレン末]

主にこれらの目的で、スティック系メイクアップ製品、ペンシル系メイクアップ製品、その他のメイクアップ製品などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 固化 [ポリエチレンワックス]

固化に関しては、ポリエチレンワックスは高融点の微結晶性固体であり、液状の油性成分と加熱混合した後に冷却することによって以下の図のように、

固化のメカニズム

板状のワックス結晶同士が物理的な噛み合わせで結合したカードハウス構造(∗4)を形成し、その結果として油性成分をはじめ着色料や粉体などが各噛み合わせの内部空間に溜まり、物理的に流動性を失うことによって固形状になることから、油性成分と混合し油性固形基剤としてスティック系製品、ペンシル系製品を中心に汎用されています[6][7][8]

∗4 カードハウス構造とは、トランプのカードをタワーをつくるように組み合わせた構造のことをいい、ワックス結晶の結合は実際にはトランプタワーのような規則的な構造ではありませんが、物理的な隙間をつくる構造が類似していることから、このワックス結合の構造もカードハウス構造とよばれています。

2.2. 非水系増粘 [ポリエチレン末]

非水系増粘に関しては、ポリエチレン末はミネラルオイルに加熱して溶解し、粘度の調整あるいは製品の安定性を保つ目的で主にクリーム系やオイル系製品に使用されています[1b][9a][10]

2.3. クリーミィな感触付与による感触改良 [ポリエチレン末]

クリーミィな感触付与による感触改良に関しては、ポリエチレン末はクリーミィな感触やコク感を付与する目的で主にクリーム系製品に使用されています[9b][11]

2.4. 配合目的についての補足

洗顔料やボディソープ製品に研磨・スクラブとして配合される、ポリエチレンに代表されるマイクロビーズ(プラスチックビーズ)は、生分解性がない(∗5)ことから、直径5mm以下のマイクロビーズによる生物被害および環境汚染が問題提起されている現状があります。

∗5 生分解性とは、環境中の微生物・酵素の働きによって最終的に無害な物質まで分解される性質のことです。プラスチックは紫外線照射によって経時的に劣化・変性し、細かく壊れていき微粒子状まで小さくなりますが、このプラスチックの細片化は化学的に分解したのではなく、形が崩壊して細かくなっただけで完全に分解したわけではなく、マイクロビーズは環境中(海洋)において化学的に分解されません[12]

そういった現状の中で、環境保護の観点からEU加盟国であるオランダ、オーストラリア、ベルギーおよびスウェーデンの4ヶ国は、2014年に化粧品へのマイクロビーズの使用を禁止する共同声明を発表し、それを皮切りに2017年にはアメリカおよび韓国がマイクロビーズを含む化粧品の製造禁止を発表、2018年にはフランス、イギリス、台湾、ニュージーランドおよびカナダがマイクロビーズを含む化粧品の製造禁止を発表しています[13][14]

日本においては2019年までに国による方針発表はないものの、2016年に日本化粧品工業連合会により化粧品販売企業に向けて、洗い流しのスクラブ製品におけるマイクロビーズの自主規制を促す文書発信があり、2017年の三菱化学テクノリサーチによる調査結果では、市販150種類の洗顔料およびボディソープ(各75個)のうちポリエチレンの成分表示があったものは洗顔料に2種類のみであることから[15]、現在はスクラブ剤としてのポリエチレンの使用はほとんどないと推測されます。

3. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2002-2004年および2013-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗6)

∗6 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ポリエチレンの配合製品数と配合量の調査結果(2002-2004年および2013-2015年)

4. 安全性評価

ポリエチレンの現時点での安全性は、

  • 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
    (ポリエチレン末のみ)
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[4b]によると、

  • [ヒト試験] 201名の被検者に13%ポリエチレンを含む洗浄製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、チャレンジパッチにおいて1名の被検者に+1の感作反応が生じたが、臨床的に重要であるとは判断されず、この製品は皮膚刺激および皮膚感作を誘発する可能性が低いと結論づけられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,2004)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[4c]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの片眼にポリエチレン(平均分子量450)66mgの固体物質を適用し、まぶたを1秒間閉じ、適用1,24,48および72時間後および7日後に眼刺激性を評価したところ、適用1時間後ですべての眼において中等の結膜刺激が認められたものの、48時間後および7日後ですべて正常であり、この試験物質は軽度の眼刺激剤に分類された(Safepharm Laboratories Ltd,1997)
  • [動物試験] ウサギの片眼に13%ポリエチレンを含む製品0.1mLを対象にOECD405テストガイドラインに基づいて眼刺激性試験を実施し、眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1時間後で眼刺激スコアは8であり、48時間後で眼刺激は消失した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,2004)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

5. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「ポリエチレン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,905-906.
  2. 大木 道則, 他(1989)「ポリエチレン」化学大辞典,2242-2243.
  3. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「炭化水素」パーソナルケアハンドブックⅠ,25-31.
  4. abcF.A. Andersen(2007)「Final Report on the Safety Assessment of Polyethylene」International Journal of Toxicology(26)(1_suppl),115-127. DOI:10.1080/10915810601163962.
  5. 日本医薬品添加剤協会(2021)「ポリエチレン末」医薬品添加物事典2021,565.
  6. 柴田 雅史(2012)「硬いスティックにする成分」おもしろサイエンス リップ化粧品の科学,50-57.
  7. 柴田 雅史(2017)「ワックスゲルの物性制御と化粧品への応用」オレオサイエンス(17)(12),633-642. DOI:10.5650/oleoscience.17.633.
  8. 柴田 雅史(2019)「油性ゲルの物性制御と化粧品への応用」日本化粧品技術者会誌(53)(1),2-8. DOI:10.5107/sccj.53.2.
  9. ab宇山 侊男, 他(2020)「ポリエチレン」化粧品成分ガイド 第7版,226.
  10. 鈴木 一成(2012)「ポリエチレンワックス」化粧品成分用語事典2012,34.
  11. Micro Powders Inc.(2021)「Micropoly 220 & 220L」Technical Data Sheet.
  12. 兼廣 春之(2016)「洗顔料や歯磨きに含まれるマイクロプラスチック問題」海ごみシンポジウム.
  13. The United Nations Environment Programme(2015)「Plastics in Cosmetics: Are we polluting the environment through our personal care (Factsheet)」, 2022年2月17日アクセス.
  14. 環境省(2018)「プラスチックを取り巻く国内外の状況」, 2022年2月17日アクセス.
  15. 株式会社三菱ケミカルリサーチ(2017)「平成28年度国内外におけるマイクロビーズの流通実態等に係る調査業務報告書」, 2022年2月17日アクセス.

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