ポリアクリルアミドの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ポリアクリルアミド |
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医薬部外品表示名 | ポリアクリル酸アミド |
部外品表示簡略名 | ポリアクリルアミド |
INCI名 | Polyacrylamide |
配合目的 | 増粘 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるアクリル酸アミドの重合体(∗1)かつアクリル酸系水溶性高分子です[1][2a]。
∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指します。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性増粘
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、アウトバストリートメント製品、ヘアカラー製品、ヘアスタイリング製品、ネイル製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性増粘
親水性増粘に関しては、ポリアクリルアミドは水溶性および保水性であり、またその水溶液は粘性を示すことから、粘度を調整し粘度あるいは製品の乳化安定性を保つ目的で様々な製品に使用されています[2b][3]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2001-2002年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[4a]によると、
- [動物試験] 5%ポリアクリルアミドを含む製剤の皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は比較的良好な耐用性を示した(J.P. Guillot et al,1982)
- [動物試験] 6匹のウサギの皮膚に0.5-2.0%ポリアクリルアミドを含む溶液を24時間塗布したところ、試験した17種類のゲル化剤、ポリマーおよび増粘剤のうち濃度2%ポリアクリルアミドは最も刺激が少なかった(J.P. Guillot et al,1983)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[4b]によると、
- [動物試験] ウサギの両眼の結膜嚢にポリアクリルアミドを含む製剤を少量適用し、30秒後に右眼を洗浄し、左眼は洗浄せず、それぞれ適用直後および2-3分以内に観察したところ、角膜または結膜刺激の兆候はなかった。1時間後に洗浄していない眼で非常にわずかな結膜反応が観察されたが、処置24時間後で両眼は正常であった(DOW,1954)
- [動物試験] ウサギの眼に5%ポリアクリルアミドを適用したところ、この試験物質は有意な損傷を引き起こさなかった(J.P. Guillot et al,1982)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
医薬部外品原料規格2021に収載されており、30年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.4. 発がん性
ポリアクリルアミドは、アクリルアミド分子が繰り返し結合し、まとまって機能する重合体です。
ポリアクリルアミドの骨格であるアクリルアミドは、大量に食べたり、吸ったり、触れたりした場合に神経障害を起こすことが確認されているほか、IARC(International Agency for Research on Cancer:国際がん研究機関)ではグループ2A(動物実験の結果からヒトにおそらく発がん性がある物質)に分類されています[5a][6a]。
また、スウェーデン食品庁とストックホルム大学が、揚げたり、焼いたりした馬鈴薯加工品(ポテトチップスやフライドポテトなど)などに、おそらく発がん性があるアクリルアミドが高濃度に含まれる可能性があることを2002年に世界で初めて発表し、これを機に欧米諸国を中心として食品に関するアクリルアミドの調査研究やアクリルアミドを低減するための取組みが進められている実態があります[5b][6b]。
こういった情報を背景に、ポリアクリルアミドにも発がん性リスクの懸念が推測されるかもしれませんが、健康への影響および発がん性が問題となるのはあくまでも単量体(分子1個)のアクリルアミドのみであり、重合体のポリアクリルアミドは、皮膚に浸透することはなく、2021年現在までで発がん性のリスク報告はありません。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ポリアクリルアミド」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,897.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「合成水溶性高分子」パーソナルケアハンドブックⅠ,121-127.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「ポリアクリルアミド」化学大辞典,2240.
- ⌃abW.O. Berndt, et al(1991)「Final Report on the Safety Assessment of Polyacrylamide」Journal of the American College of Toxicology(10)(1),193-203. DOI:10.3109/10915819109078629.
- ⌃ab農林水産省(2018)「アクリルアミドとは何か」,2021年10月16日アクセス.
- ⌃ab農林水産省(2018)「アクリルアミドの健康影響」,2021年10月16日アクセス.