パラフィンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | パラフィン |
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医薬部外品表示名 | パラフィン |
慣用名 | パラフィンワックス |
INCI名 | Paraffin |
配合目的 | 固化、感触改良 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
石油を蒸留した残滓を十分に精製して得られる、主として炭素数16-40(C16-40)の直鎖状炭化水素を主成分とする炭化水素の混合物(石油系炭化水素)です[1][2a]。
1.2. 物性・性状
パラフィンの物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。
状態 | 融点(℃) | 溶解性 |
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結晶性固体 | 50-70 | 水、エタノールに不溶、温脂肪油に可溶 |
1.3. 化粧品以外の主な用途
パラフィンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | チューインガムに柔軟性を付与するとともに食感を改良する目的でガムベースに添加するほか、光沢性と防湿性の皮膜をつくることから菓子類や果実の表面皮膜に用いられています[4]。 |
医薬品 | 基剤、結合、光沢化、コーティング、糖衣、乳化、賦形、防湿目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、歯科外用剤および口中用剤などに用いられています[5]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 固化
- 硬度調整による感触改良
主にこれらの目的で、スティック系メイクアップ製品、ペンシル系メイクアップ製品、その他のメイクアップ製品、化粧下地製品、ボディ&ハンドケア製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、スキンケア製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 固化
固化に関しては、パラフィンは直鎖炭化水素を主成分とする融点50-70℃程度の結晶性固体であり、液状の油性成分と加熱混合した後に冷却することによって以下の図のように、
板状のワックス結晶同士が物理的な噛み合わせで結合したカードハウス構造(∗2)を形成し、その結果として油性成分をはじめ着色料や粉体などが各噛み合わせの内部空間に溜まり、物理的に流動性を失うことによって固形状になることから、油性成分と混合し油性固形基剤としてスティック系製品、ペンシル系製品を中心に汎用されています[6a][7a][8]。
∗2 カードハウス構造とは、トランプのカードをタワーをつくるように組み合わせた構造のことをいい、ワックス結晶の結合は実際にはトランプタワーのような規則的な構造ではありませんが、物理的な隙間をつくる構造が類似していることから、このワックス結合の構造もカードハウス構造とよばれています。
ただし、単独使用では十分な硬度を発現せず[6b]、また直鎖ワックスに分岐ワックスを少量配合することで特異的に硬度が上昇する現象がみられることから、一般にパラフィンはマイクロクリスタリンワックスなどの分岐ワックスを併用して用いられることが多いです[7b]。
2.2. 硬度調整による感触改良
硬度調整による感触改良に関しては、パラフィンは化学的に不活性で酸化安定性が高く、また乳化しやすい特性をもつことから、基剤や乳化物の硬さを調整する目的でメイクアップ製品、クリーム系製品などに使用されています[9][10][11]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1984年および2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-わずか
- 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12a]によると、
- [ヒト試験] 20名の被検者に100%パラフィンのサンプル2つを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、1つ目のサンプルは1名の被検者でほとんど知覚できない紅斑を生じたが、他の被検者に皮膚反応はみられなかった。2つ目のサンプルは1名の被検者に紅斑がみられたが、他の被検者に皮膚反応は観察されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1972)
- [ヒト試験] 19名の被検者に15%パラフィンを含む製剤を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、皮膚刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)
- [ヒト試験] 18名、19名および20名の被検者にそれぞれ8%パラフィンを含む製剤を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験製剤は皮膚刺激を誘発しなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [ヒト試験] 48名の被検者に15%パラフィンを含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 25名、30名および39名の被検者にそれぞれ5%パラフィンを含む製剤を48時間閉塞パッチ適用した。14日の無処置期間の後、24時間チャレンジパッチを適用し、パッチ除去24時間後に試験部位を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作は認められなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)
このように記載されており、試験データをみるかぎりまれに軽度の皮膚刺激がみられるものの、ほぼ共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどなく、皮膚刺激性は非刺激-わずかな皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に4つの50%パラフィンを含むワセリンを滴下し、眼はすすがず、3日間にわたって眼刺激性を評価したところ、1日目に1匹のウサギにおいて2つの試験物質で軽度の刺激がみられたが、他の2つの試験物質は刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1972;1980)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に5%パラフィンを含む製剤0.1mLを点眼し、3匹は点眼30秒後に脱イオン水20mLですすぎ、残りの6匹は眼をすすがず、点眼24,48および72時間後および4および7日後に眼刺激性を評価したところ、非洗眼群のうち4匹で48時間後に最小限の結膜発赤がみられ、洗眼群のうち2匹でも48時間後に最小限の結膜発赤が認められた(Biodynamics,1975)
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に8%パラフィンを含む4つのアイシャドー製品を適用し、眼はすすがず、3日間にわたって眼刺激性を評価したところ、3つの製品は1匹のウサギにおいて24時間で軽度の眼刺激がみられ、4つ目の製品は1匹のウサギにおいて48時間後に軽度の眼刺激がみられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「パラフィン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,770.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(1982)「炭化水素」化粧品製剤実用便覧,117-123.
- ⌃厚生省薬務局審査課(1982)「パラフィン」化粧品原料基準 第二版,275.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「パラフィンワックス」食品添加物事典 新訂第二版,274.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「パラフィン」医薬品添加物事典2021,473-474.
- ⌃ab柴田 雅史(2012)「硬いスティックにする成分」おもしろサイエンス リップ化粧品の科学,50-57.
- ⌃ab柴田 雅史(2017)「ワックスゲルの物性制御と化粧品への応用」オレオサイエンス(17)(12),633-642. DOI:10.5650/oleoscience.17.633.
- ⌃柴田 雅史(2019)「油性ゲルの物性制御と化粧品への応用」日本化粧品技術者会誌(53)(1),2-8. DOI:10.5107/sccj.53.2.
- ⌃広田 博(1970)「炭化水素類」化粧品のための油脂・界面活性剤,27-36.
- ⌃鈴木 一成(2012)「パラフィン」化粧品成分用語事典2012,32.
- ⌃宇山 侊男, 他(2020)「パラフィン」化粧品成分ガイド 第7版,70.
- ⌃abR.L. Elder(1984)「Final Report on the Safety Assessment of Fossil and Synthetic Waxes」Journal of the American College of Toxicology(3)(3),43-99. DOI:10.3109/10915818409010516.