マイクロクリスタリンワックスの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | マイクロクリスタリンワックス |
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医薬部外品表示名 | マイクロクリスタリンワックス、高融点マイクロクリスタリンワックス |
INCI名 | Microcrystalline Wax |
配合目的 | 固化・増粘 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
石油から得られる、主に分子量450-1,000、炭素数31-70(C31-70)のイソパラフィン(分岐鎖炭化水素)を主成分とする固体の炭化水素の混合物(石油系炭化水素)です[1a][2a]。
医薬部外品表示名については、それぞれ、
医薬部外品表示名 | 本質 |
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マイクロクリスタリンワックス | 石油から得た固形の炭化水素類の混合物で、主としてイソパラフィンからなる |
高融点マイクロクリスタリンワックス | 石油から得た、主として炭素数40-54に分布の中心がある炭化水素類の混合物で、主としてイソパラフィンからなる |
このように分けられており、化粧品表示名としてはどちらも「マイクロクリスタリンワックス」と表示されます。
1.2. 物性・性状
マイクロクリスタリンワックスの物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。
状態 | 融点(℃) | 溶解性 |
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微結晶性固体 | 60-100 | 水、エタノールに不溶、無水エタノールに微溶、エーテル、加温した油脂または精油に可溶 |
1.3. 化粧品以外の主な用途
マイクロクリスタリンワックスの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | チューインガムに柔軟性のある食感を付与する目的でガムベースに用いられるほか、光沢や防湿性を付与する目的で菓子類や果実の表面処理に用いられています[6]。 |
医薬品 | 基剤、分散目的の医薬品添加剤として外用剤、歯科外用剤および口中用剤などに用いられています[7]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 固化
- 非水系増粘
主にこれらの目的で、スティック系メイクアップ製品、ペンシル系メイクアップ製品、パウダー系メイクアップ製品、化粧下地製品、ヘアスタイリング製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 固化
固化に関しては、一般に固化に用いられる成分は融点の高い結晶性の直鎖または直鎖を主成分とし分岐鎖が混ざった炭化水素であり、これらが液状の油性成分と加熱混合した後に冷却することによって以下の図のように、
板状のワックス結晶同士が物理的な噛み合わせで結合したカードハウス構造(∗2)を形成し、その結果として油性成分をはじめ着色料や粉体などが各噛み合わせの内部空間に溜まり、物理的に流動性を失うことによって固形状になることから、油性成分と混合し油性固形基剤としてスティック系製品、ペンシル系製品などに用いられています[8][9a][10a]。
∗2 カードハウス構造とは、トランプのカードをタワーをつくるように組み合わせた構造のことをいい、ワックス結晶の結合は実際にはトランプタワーのような規則的な構造ではありませんが、物理的な隙間をつくる構造が類似していることから、このワックス結合の構造もカードハウス構造とよばれています。
一方で、マイクロクリスタリンワックスは化学構造的にイソパラフィン(分岐鎖炭化水素)を主成分とする融点の高い(60-100程度)の微結晶性固体であり、単独で用いた場合は直鎖炭化水素を主成分とするパラフィンと比較して著しく硬度が低く、固化剤としての効果を発揮しませんが、直鎖ワックス(∗3)に少量配合すると直鎖ワックスの結晶を微細化し、直鎖ワックス単独配合よりもオイル基剤の硬度が上昇するため(∗4)、一般に直鎖ワックスと併用して固化剤として用いられています[9b][10b][11][12a]。
∗3 代表的な直鎖ワックスとしては、パラフィン、ポリエチレン、合成ワックスなどがあります。
∗4 直鎖ワックスと分岐鎖ワックスの比率は80:20で最も硬度が高くなり、分岐鎖ワックスの割合が20%を超えると硬度は低下していきます。
2.2. 非水系増粘
非水系増粘に関しては、マイクロクリスタリンワックスは強い粘性をもつことから、粘度を調整し粘度あるいは乳化物の安定性を保つ目的で主にクリーム系化粧品などに使用されています[1b][2b][12b]。
3. 混合原料としての配合目的
マイクロクリスタリンワックスは混合原料が開発されており、マイクロクリスタリンワックスと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | PMWAX82 |
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構成成分 | ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス |
特徴 | 表面光沢、乳化性、透明性、溶解性に優れる混合ワックス |
原料名 | マイクロイース1132 |
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構成成分 | 合成ワックス、マイクロクリスタリンワックス |
特徴 | 低融点の合成ワックスとマイクロクリスタリンワックスの混合ワックス |
原料名 | Dehymuls F | HLB | 4.0 |
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構成成分 | ジステアリルクエン酸ジココイルペンタエリスリチル、マイクロクリスタリンワックス、オレイン酸グリセリル、ジ/トリステアリン酸Al、PG | ||
特徴 | W/O型乳化剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1984年および2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
5. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13a]によると、
- [ヒト試験] 205名の被検者に4.35%マイクロクリスタリンワックスを含むチーク製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、3名の被検者において軽度の紅斑がみられたが、これらの反応は臨床的に重要とはみなされず、この試験製品は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 8名の被検者に15%マイクロクリスタリンワックスを含むリップスティク製剤を対象に21日間皮膚累積刺激性試験を実施したところ、この試験製剤は皮膚累積刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)
- [ヒト試験] 10名の被検者に15%マイクロクリスタリンワックスを含むリップスティク製剤を対象に21日間皮膚累積刺激性試験を実施し、皮膚累積刺激スコアを0-630のスケールで評価したところ、この試験製剤の皮膚累積刺激スコアは130であり、この試験条件下においてわずかな皮膚累積刺激の可能性を示した(Hill Top Research Lab,1979)
- [ヒト試験] 25名の被検者に15%マイクロクリスタリンワックスを含むリップスティク製剤を対象にmaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験製剤は接触皮膚感作を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎりほとんど共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
また、40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がないこともマイクロクリスタリンワックスの安全性を裏付けていると考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%マイクロクリスタリンワックス0.1gを適用し、適用24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、1匹は24時間後にわずかな結膜紅斑および浮腫を示したが、残りの5匹は眼刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1969)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に4.35%マイクロクリスタリンワックスを含むチーク製剤0.1gを適用し、適用72時間後まで眼刺激性を評価したところ、72時間後までにすべてのウサギの眼刺激は消失した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に15%マイクロクリスタリンワックスを含むスティック製剤0.1mLを適用し、3匹は眼を水ですすぎ、残りの6匹はすすがず、適用24,48,72および4日後および7日後に眼刺激性を評価したところ、洗眼の有無にかかわらず、この試験製剤は非刺激剤であった(Stillmeadow,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.3. 光毒性(光刺激性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13c]によると、
- [ヒト試験] 10名の被検者に15%マイクロクリスタリンワックスを含むリップスティク製剤を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に試験部位および未処置部位にUVAライトを12分間照射した。照射24および48時間後に両部位の光刺激性を評価したところ、この試験製剤は光刺激剤ではなかった(Test Kit Laboratories,1980)
- [ヒト試験] 26名の被検者に4.35%マイクロクリスタリンワックスを含むチーク製剤を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に試験部位および未処置部位にUVAライトを照射した。照射24および48時間後に両部位の光刺激性を評価したところ、この試験製剤は光刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して光刺激なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「マイクロクリスタリンワックス」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,940.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「炭化水素」パーソナルケアハンドブックⅠ,25-31.
- ⌃広田 博(1970)「炭化水素類」化粧品のための油脂・界面活性剤,27-36.
- ⌃厚生省薬務局審査課(1982)「マイクロクリスタリンワックス」化粧品原料基準 第二版,423-424.
- ⌃エイチ・ホルスタイン株式会社(2015)「ABWax Microcrystalline」ABWax Lineカタログ,20-21.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「マイクロクリスタリンワックス」食品添加物事典 新訂第二版,343.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「マイクロクリスタリンワックス」医薬品添加物事典2021,611.
- ⌃柴田 雅史(2012)「硬いスティックにする成分」おもしろサイエンス リップ化粧品の科学,50-57.
- ⌃ab柴田 雅史(2017)「ワックスゲルの物性制御と化粧品への応用」オレオサイエンス(17)(12),633-642. DOI:10.5650/oleoscience.17.633.
- ⌃ab柴田 雅史(2019)「油性ゲルの物性制御と化粧品への応用」日本化粧品技術者会誌(53)(1),2-8. DOI:10.5107/sccj.53.2.
- ⌃広田 博(1997)「炭化水素類」化粧品用油脂の科学,54-60.
- ⌃ab宇山 侊男, 他(2020)「マイクロクリスタリンワックス」化粧品成分ガイド 第7版,73.
- ⌃abcR.L. Elder(1984)「Final Report on the Safety Assessment of Fossil and Synthetic Waxes」Journal of the American College of Toxicology(3)(3),43-99. DOI:10.3109/10915818409010516.