テレフタリリデンジカンフルスルホン酸とは…成分効果と毒性を解説


・テレフタリリデンジカンフルスルホン酸
[慣用名]
・エカムシュール
化学名としてbicyclo[2.2.1]heptane-1-methanesulfonic acid,3,3′-(1,4-phenylenedimethylidyne)bis[7.7]-dimethyl-2-oxoと表示される水溶性のベンジリデンカンフル誘導体です。
テレフタリリデンジカンフルスルホン酸の物性は、
分子量 | 極大吸収波長(nm) |
---|---|
562.3 | 345 |
このように記載されています(文献1:1996;文献8:1992;文献9:1998)。
極大吸収波長とは、最も吸収する紫外線波のことであり、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸は345に極大吸収波長を有し、また345という数値はUVA波長領域(320-400nm)であることから、UVA吸収剤に分類されています。
テレフタリリデンジカンフルスルホン酸の皮膚浸透性に関しては、
この結果から、現実的な曝露条件下ではテレフタリリデンジカンフルスルホン酸の人体への曝露はごくわずかであり、人体に影響を及ぼさないことが証明された。
このように報告されており(文献2:2003)、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸はほとんど皮膚浸透性がないと考えられます。
テレフタリリデンジカンフルスルホン酸は酸であるため、pHを中和する必要があり、中和剤(アルカリ剤)として通常はTEAが併用されます。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、日焼け止め製品、メイクアップ化粧品などに使用されています。
UVA吸収による紫外線防御作用
UVA吸収による紫外線防御作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UV:Ultra Violet)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
太陽による照射は、以下の図のように、
波長により、赤外線、可視光線および紫外線に分類されており、可視光線よりも波長の短いものが紫外線です。
また紫外線は、波長の長いものから
- UVA(長波長紫外線):320-400nm
- UVB(中波長紫外線):280-320nm
- UVC(短波長紫外線):100-280nm
このように大別され、波長が短いほど有害作用が強いという性質がありますが、以下の図のように、
UVCはオゾン層を通過する際に散乱・吸収されるため地上には到達せず、UVBはオゾン層により大部分が吸収された残りが地上に到達、UVAはオゾン層による吸収をあまり受けずに地表に到達することから、ヒトに影響があるのはUVBおよびUVAになります。
UVAおよびUVBのヒト皮膚への影響の違いは、以下の表のように(∗1)、
∗1 ( )内の反応は大量の紫外線を浴びた場合に起こる反応です。
UVA | UVB | |
---|---|---|
紫外線角層透過率 | 大 | 小 |
日焼けの現象 | サンタン (皮膚色が浅黒く変化) |
サンバーン (炎症を起こし、皮膚色が赤くなりヒリヒリした状態) |
急性皮膚刺激反応 | 即時型黒化(紅斑) 遅延型黒化(紅斑) UVBの反応を増強 (表皮肥厚、落屑) |
遅延型紅斑(炎症、水疱) 遅延型黒化 表皮肥厚、落屑 (DNA損傷) |
慢性皮膚刺激反応 | 真皮マトリックスの変性 | 真皮マトリックスの変性 |
日焼け現象発症時間 | 2-3日後 | 即時的 (1時間以内に赤みを帯び始める) |
性質がまったく異なっています(文献3:2002;文献4:2002;文献5:1997)。
国内の紫外線量の目安としては、2016年に茨城県つくば局によって公開されている紫外線量観測データによると、以下の表のように、
2月-10月の期間中とくに4月-9月の期間は、UVAおよびUVBの両方増加する傾向にあるため(文献6:2016)、UVAおよびUVB両方の紫外線防御が必要であると考えられます。
2016年にジョンソン&ジョンソンによって報告されたテレフタリリデンジカンフルスルホン酸の紫外線吸収波長領域データによると、以下の表のように、
UVAへの吸収作用が明らかにされており(文献7:2016)、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸にUVA吸収による紫外線防御作用が認められています。
また、光安定性に優れており(文献10:1988)、紫外線吸収剤としての持続性が高いことから、UVA吸収剤として汎用されていたt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンの代わりに使用されます。
さらに、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸の吸収度が低いUVB領域を補完する目的で、同じ開発メーカーであるドロメトリゾールトリシロキサンが併用されます(文献11:2004)。
テレフタリリデンジカンフルスルホン酸はポジティブリストであり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 10 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 10 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 配合不可 |
テレフタリリデンジカンフルスルホン酸の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 10年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
National Industrial Chemicals Notification and Assessment Schemeの安全性データ(文献1:1996)によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの皮膚に36.7%テレフタリリデンジカンフルスルホン酸水溶液0.5mLを4時間閉塞パッチ適用し、適用1,24,48および72時間後に皮膚刺激性を評価したところ、皮膚刺激性は認められなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚一次刺激性なしと報告されているため、皮膚一次刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
National Industrial Chemicals Notification and Assessment Schemeの安全性データ(文献1:1996)によると
- [動物試験] 20匹のモルモットを用いて10.4%テレフタリリデンジカンフルスルホン酸溶液対象にAdjuvant-Strip法に基づいて皮膚感作性試験を実施したところ、いずれのモルモットにおいても皮膚感作反応は認めれられず、皮膚感作性はないと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
テレフタリリデンジカンフルスルホン酸は紫外線防御成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:紫外線防御成分
∗∗∗
文献一覧:
- National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme(1996)「Mexoryl SX Active Ingredient」Full Public Report,NA/399.
- F Benech-Kieffer, et al(2003)「Percutaneous Absorption of Mexoryl SX in Human Volunteers: Comparison with in vitro Data」Skin Pharmacology and Physiology(16)(6),343–355.
- 朝田 康夫(2002)「紫外線の種類と作用は」美容皮膚科学事典,191-192.
- 朝田 康夫(2002)「サンタン、サンバーンとは」美容皮膚科学事典,192-195.
- 須加 基昭(1997)「紫外線防御スキンケア化粧品の開発」日本化粧品技術者会誌(31)(1),3-13.
- 国立環境研究所 有害紫外線モニタリングネットワーク(2016)「茨城県つくば局における紫外線量(UV-A,UV-B)月別値」, <http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/uv/uv_sitedata/graph01.html> 2019年6月15日アクセス.
- D Susan, et al(2016)「Chemistry of Sunscreens」Principles and Practice of Photoprotection,159-178.
- A Fourtanier, et al(1992)「In vivo evaluation of photoprotection against chronic ultraviolet-A irradiation by a new sunscreen Mexoryl SX.」Photochemistry and Photobiology(55)(4),549-560.
- S Sophie, et al(1998)「Mexoryl SX: a broad absorption UVA filter protects human skin from the effects of repeated suberythemal doses of UVA」Journal of Photochemistry and Photobiology B: Biology(44)(1),69-76.
- A Deflandre, et al(1988)「Photostability assessment of sunscreens. Benzylidene camphor and dibenzoylmethane derivatives」International Journal of Cosmetic Science(10)(2),53-62.
- M Dominique(2004)「Prevention of ultraviolet‐induced skin pigmentation」Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine(20)(5),243-247.
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