メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールとは…成分効果と毒性を解説




・メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール
[慣用名]
・ビスオクトリゾール
化学構造的にベンゾトリアゾール骨格を有する不溶性のベンゾトリアゾール系有機化合物(有機系微粒子化紫外線吸収・散乱剤)です。
メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールの物性は、
分子量 | 極大吸収波長(nm) |
---|---|
658.86 | 305 , 359 |
このように記載されています(文献1:2015;文献3:2004)。
極大吸収波長とは、最も吸収する紫外線波のことであり、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールは305および359の2ヶ所に極大吸収波長を有し、また305という数値はUVB波長領域(280-320nm)、359という数値はUVA波長領域(320-400nm)であることから、UVB-UVAの両方を吸収するUVB-UVA吸収剤に分類されています。
メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールは主に微粒子(ナノサイズ)で使用されることから皮膚浸透性およびその影響の懸念が考えられますが、2000年に市場に投入されてから18年間にわたりベンチマークの意味合いも兼ねて使用されてきた結果、2018年7月にナノサイズ紫外線吸収剤としてEU化粧品規制に承認されており、これは皮膚浸透性に問題がないことが認められたことを意味しています(文献9:2018)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、日焼け止め製品、メイクアップ化粧品などに使用されています。
UVBおよびUVA吸収による紫外線防御作用
UVBおよびUVA吸収による紫外線防御作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UV:Ultra Violet)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
太陽による照射は、以下の図のように、
波長により、赤外線、可視光線および紫外線に分類されており、可視光線よりも波長の短いものが紫外線です。
また紫外線は、波長の長いものから
- UVA(長波長紫外線):320-400nm
- UVB(中波長紫外線):280-320nm
- UVC(短波長紫外線):100-280nm
このように大別され、波長が短いほど有害作用が強いという性質がありますが、以下の図のように、
UVCはオゾン層を通過する際に散乱・吸収されるため地上には到達せず、UVBはオゾン層により大部分が吸収された残りが地上に到達、UVAはオゾン層による吸収をあまり受けずに地表に到達することから、ヒトに影響があるのはUVBおよびUVAになります。
UVAおよびUVBのヒト皮膚への影響の違いは、以下の表のように(∗1)、
∗1 ( )内の反応は大量の紫外線を浴びた場合に起こる反応です。
UVA | UVB | |
---|---|---|
紫外線角層透過率 | 大 | 小 |
日焼けの現象 | サンタン (皮膚色が浅黒く変化) |
サンバーン (炎症を起こし、皮膚色が赤くなりヒリヒリした状態) |
急性皮膚刺激反応 | 即時型黒化(紅斑) 遅延型黒化(紅斑) UVBの反応を増強 (表皮肥厚、落屑) |
遅延型紅斑(炎症、水疱) 遅延型黒化 表皮肥厚、落屑 (DNA損傷) |
慢性皮膚刺激反応 | 真皮マトリックスの変性 | 真皮マトリックスの変性 |
日焼け現象発症時間 | 2-3日後 | 即時的 (1時間以内に赤みを帯び始める) |
性質がまったく異なっています(文献4:2002;文献5:2002;文献6:1997)。
国内の紫外線量の目安としては、2016年に茨城県つくば局によって公開されている紫外線量観測データによると、以下の表のように、
2月-10月の期間中とくに4月-9月の期間は、UVAおよびUVBの両方増加する傾向にあるため(文献7:2016)、UVAおよびUVB両方の紫外線防御が必要であると考えられます。
大日本化成によって報告されたメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールの紫外線吸収波長領域データによると、以下の表のように、
UVBおよびUVAへの吸収作用が明らかにされており(文献2:-)、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールにUVBおよびUVA吸収による紫外線防御作用が認められています。
メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールは、とくに幅広いUVA領域の吸収性に優れており、不溶性の微粒子であることから、均一に分散することで紫外線吸収効果を発揮し、また微粒子の粒径が小さいほど紫外線吸収効果が高くなることからナノサイズで使用されます(文献1:2015)。
また吸収した紫外線エネルギーは、プロトン転移・互変異性メカニズムで無害な振動エネルギーに変換し消失させ、この反応においてフリーラジカルも発生せず、紫外線吸収剤でありながら繰り返し紫外線を吸収した後でも壊れることがなく、効果がほぼ100%持続するのもメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールの主な特徴です(文献3:2004)。
さらにメトキシケイヒ酸エチルヘキシルなど他のUVB吸収剤と併用した際にUVB吸収能の相乗効果が得られることが報告されており(文献2:-;文献8:2015)、他のUVB吸収剤のブースター剤としても使用されます。
紫外線散乱による紫外線防御作用
紫外線散乱による紫外線防御作用に関しては、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールは基本的にはUVBおよびUVAを吸収する紫外線吸収剤ですが、平均粒径200nm以下の微粒子になると紫外線を散乱するため(∗2)、とくに他の油溶性UVB吸収剤と併用することで、UVB防御能の相乗効果が得られます(文献3:2004)。
∗2 メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールは、原料段階で粒径200nm以下のナノサイズで配合されており、基本的にナノサイズで使用されます。
紫外線吸収剤の光安定化
紫外線吸収剤の光安定化に関しては、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールは分子内でプロトン電子が移動する際に1ピコ秒(1兆分の1秒)の速度で電子のやりとりを行うため、基の構造が変化しないことから光安定性に非常に優れており、またメトキシケイヒ酸エチルヘキシルなどと組み合わせて処方することで、これらの光安定性および紫外線吸収効果を向上させる効果を有していることが報告されています(文献2:-;文献8:2015)。
光安定性が高まることで、紫外線防御効果の持続性が増し、その結果として紫外線防御剤の配合率を減らすことができます。
2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)(メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール)はポジティブリストであり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 10.0 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 10.0 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 配合不可 |
メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性:ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
基本的にナノサイズで使用されますが、EUではナノサイズでも皮膚浸透性に問題のない成分であると認められ、EU化粧品規制に承認されています。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ(文献1:2015)によると、
- [ヒト試験] 45人の被検者に20%メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール水溶液0.0015mLを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、1時間で1人の被検者に明瞭な紅斑、3人の被検者にわずかな紅斑が観察されたがこれらは1,2および4日後には消失した。また陰性対照においてもパッチ除去1時間で5人にわずかな紅斑、1人に明瞭な紅斑が観察された。この結果からこの試験条件下においてこの試験物質に皮膚反応性はないと結論付けられた(Kawai Institute of Dermatology,2001)
- [ヒト試験] 40人の被検者に20%メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールを含む日焼け止め製剤0.0015mLを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、1時間で1人の被検者にわずかな紅斑が観察されたが24時間以内に消失した。また陰性対照においてもパッチ除去1時間で2人にわずかな紅斑が観察された。この結果からこの試験条件下においてこの試験物質に皮膚反応性はないと結論付けられた(Kawai Institute of Dermatology,2001)
- 26人の被検者に5%および10%メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールを含む製剤200μLを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、この試験条件化において皮膚感作性は示さなかった(Hill Top Research,1998)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ(文献1:2015)によると、
- [in vitro試験] 畜牛の眼球から摘出した角膜を用いて、角膜表面にメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール750μLを処理した後、角膜の濁度ならびに透過性の変化量を定量的に測定したところ(BCOP法)、陰性対照と有意な差はなく、pH10.5およびpH11.6において重大な眼刺激性を引き起こさなかった(BASF,2010)
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に50%メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールを含む製剤0.1mLを点眼し、OECD405テストガイドラインに基づいて眼刺激性を評価したところ、わずかな眼刺激性に分類された(Seibersdorf,2010)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、非刺激性-わずかな眼刺激性と報告されているため、眼刺激性は非刺激性またはわずかな眼刺激性が起こる可能性があると考えられます。
光毒性および光感作性について
Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ(文献1:2015)によると、
- [ヒト試験] 28人の被検者に5%および10%メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールを含む製剤200μLを24時間閉塞パッチを適用し、パッチ除去にUVA(16J/c㎡)およびMED(最小紅斑線量)のUVBを照射した。照射1,24,48および72時間後に光毒性を評価したところ、試験物質を含まない陰性対照よりも皮膚反応は低く、この試験物質は非刺激性であり、光毒性を示さないと結論づけられた
- [ヒト試験] 26人の被検者に5%および10%メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールを含む製剤200μLを対象に光感作試験(UVBおよびUVA)をともなうHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、陰性対照よりも皮膚反応は低く、光感作剤ではないと結論付けられた(Hill Top Research,1998)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、光毒性および光感作性なしと報告されているため、光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールは紫外線防御成分、安定化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- Scientific Committee on Consumer Safety(2015)「2,2’-Methylene-bis-(6-(2H-benzotriazol-2-yl)-4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol)」OPINION ON.
- 大日本化成株式会社(-)「MBBT タルク M」技術資料.
- チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社(2004)「Ciba TINOSORB M」Fragrance Journal(32)(2),106.
- 朝田 康夫(2002)「紫外線の種類と作用は」美容皮膚科学事典,191-192.
- 朝田 康夫(2002)「サンタン、サンバーンとは」美容皮膚科学事典,192-195.
- 須加 基昭(1997)「紫外線防御スキンケア化粧品の開発」日本化粧品技術者会誌(31)(1),3-13.
- 国立環境研究所 有害紫外線モニタリングネットワーク(2016)「茨城県つくば局における紫外線量(UV-A,UV-B)月別値」, <http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/uv/uv_sitedata/graph01.html> 2019年6月15日アクセス.
- 岩瀬コスファ株式会社(2015)「安全性を求める日本市場に最適な「K22-M40」」C&T(4),38-39.
- BASF(2018)「BASF、化粧品に使用するナノサイズの紫外線吸収剤のEU承認を歓迎」, <https://www.basf.com/jp/documents/ja/news-and-media/news-releases/2018/2018_08_22_Tinosorb_M_JP.pdf> 2019年6月15日アクセス.
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