ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルとは…成分効果と毒性を解説



・ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル
化学名として2-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステルと表示される油溶性の芳香族エステルです。
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルの物性は、
分子量 | 極大吸収波長(nm) |
---|---|
397.5 | 354 |
このように記載されています(文献1:2004;文献7:2006)。
極大吸収波長とは、最も吸収する紫外線波のことであり、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルは354に極大吸収波長を有し、また354という数値はUVA波長領域(320-400nm)であることから、UVA吸収剤に分類されています。
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルの皮膚浸透性に関しては、
その結果、試験物質の浸透は非常に遅く、適用量と非吸収量にほとんど差異は認められなかった。
このように報告されており(文献1:2004)、動物試験のみではありますが、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルはほとんど皮膚浸透性がないと考えられます。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、日焼け止め製品、メイクアップ化粧品、香水、ネイル製品などに使用されています。
UVA吸収による紫外線防御作用
UVA吸収による紫外線防御作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UV:Ultra Violet)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
太陽による照射は、以下の図のように、
波長により、赤外線、可視光線および紫外線に分類されており、可視光線よりも波長の短いものが紫外線です。
また紫外線は、波長の長いものから
- UVA(長波長紫外線):320-400nm
- UVB(中波長紫外線):280-320nm
- UVC(短波長紫外線):100-280nm
このように大別され、波長が短いほど有害作用が強いという性質がありますが、以下の図のように、
UVCはオゾン層を通過する際に散乱・吸収されるため地上には到達せず、UVBはオゾン層により大部分が吸収された残りが地上に到達、UVAはオゾン層による吸収をあまり受けずに地表に到達することから、ヒトに影響があるのはUVBおよびUVAになります。
UVAおよびUVBのヒト皮膚への影響の違いは、以下の表のように(∗1)、
∗1 ( )内の反応は大量の紫外線を浴びた場合に起こる反応です。
UVA | UVB | |
---|---|---|
紫外線角層透過率 | 大 | 小 |
日焼けの現象 | サンタン (皮膚色が浅黒く変化) |
サンバーン (炎症を起こし、皮膚色が赤くなりヒリヒリした状態) |
急性皮膚刺激反応 | 即時型黒化(紅斑) 遅延型黒化(紅斑) UVBの反応を増強 (表皮肥厚、落屑) |
遅延型紅斑(炎症、水疱) 遅延型黒化 表皮肥厚、落屑 (DNA損傷) |
慢性皮膚刺激反応 | 真皮マトリックスの変性 | 真皮マトリックスの変性 |
日焼け現象発症時間 | 2-3日後 | 即時的 (1時間以内に赤みを帯び始める) |
性質がまったく異なっています(文献2:2002;文献3:2002;文献4:1997)。
国内の紫外線量の目安としては、2016年に茨城県つくば局によって公開されている紫外線量観測データによると、以下の表のように、
2月-10月の期間中とくに4月-9月の期間は、UVAおよびUVBの両方増加する傾向にあるため(文献5:2016)、UVAおよびUVB両方の紫外線防御が必要であると考えられます。
BASFジャパンによって報告されたジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルの紫外線吸収波長領域データによると、以下の表のように、
UVAへの吸収作用が明らかにされており(文献1:2004;文献7:2006)、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルにUVA吸収による紫外線防御作用が認められています。
また、光安定性に非常に優れており、紫外線吸収剤としての持続性が高く、代表的なUVB吸収剤であるメトキシケイヒ酸エチルヘキシルとの相溶性が高いことからよく併用されます(文献6:-)。
製品自体の退色・変色防止
製品自体の退色・変色防止に関しては、UVA吸収作用に優れていることから、香料や着色剤など紫外線で劣化しやすい成分が配合されている化粧品を紫外線から防御する目的で化粧品、香水またはネイル製品などに配合されます。
製品自体の退色・変色防止目的で配合されている場合は、配合量が微量であるため全成分表示欄には末尾に記載されます。
2-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル(ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル)はポジティブリストであり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 10.0 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 10.0 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 配合不可 |
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 10年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性:ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
BASFの安全性データ(文献1:2004)によると、
- [ヒト試験] 44人の被検者に100%ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル0.01gを対象に24時間閉塞パッチを適用し、パッチ除去1および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激性は観察されなかった
- [ヒト試験] 45人の被検者に10%ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルを含む化粧品0.01gを対象に24時間閉塞パッチを適用し、パッチ除去1および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激性は観察されなかった
- [動物試験] 3匹のウサギにジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル0.5gを対象に4時間閉塞パッチによる皮膚一次刺激性試験を実施したところ、適用した日において2匹に軽度の紅斑が観察され、これらの紅斑は遅くともパッチ除去48時間以内に消失した。この結果から試験条件下においてこの試験物質は皮膚刺激性を示さないと結論付けられた
- [動物試験] 3匹のモルモット2群にそれぞれ10%および20%ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル溶液を対象に開放パッチによる14日間の皮膚累積刺激性試験を実施したところ、いずれの濃度においても軽度の紅斑が認められたが、同様の皮膚反応が陰性対照でも観察され、これらに有意差はなく強い皮膚反応でもないため、累積刺激性はとくに問題となるものではなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚一次刺激性および累積刺激性はほとんどなしと報告されているため、皮膚一次刺激性および累積刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
BASFの安全性データ(文献1:2004)によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に100%ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル40mgを適用し、適用24時間後に眼を水道水ですすぎ、適用1,24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、適用1時間ですべてのウサギに中程度の結膜の発赤が認められたが、48時間以内にすべての症状が消失した。これらの結果と観察された眼反応を考慮したところ、この試験物質は100%濃度において眼刺激性の兆候を示さないと結論付けられた
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激性の兆候を示さないと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
BASFの安全性データ(文献1:2004)によると、
- [動物試験] 20匹のモルモットに25%ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルを含むオリーブオイルを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、いずれのモルモットにおいても陽性反応は認めれられず、この試験物質は皮膚感作性を有さないと結論付けられた
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
光毒性および光感作性について
BASFの安全性データ(文献1:2004)によると、
- [in vitro試験] ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(0.78-100μg/mL)を添加して培養した2つの3T3細胞を用いて、1つは人工太陽光線にて非細胞毒性照射量を暴露し、もう一方は暗所に置き、24時間後に細胞生存率を評価する3T3 NRU光毒性試験を実施したところ、この試験物質は光毒性の可能性が認められなかった
- [動物試験] 25匹のモルモットを5,5,10および5の4群に分け、それぞれ照射対照群、試験物質処置群、試験物質処置後照射群および溶媒対照群とした。全群のモルモットに誘導期間において8日の期間内で5回の処置または照射あるいはその両方を実施し、20日間の休息期間を設けた後にチャレンジパッチ適用または照射あるいは両方を実施し、1,4,24および48時間後に光感作性を評価したところ、いずれのモルモットにおいても光感作に起因する反応は認めれられず、この試験物質は光感作性を誘発しないと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、光毒性および光感作性なしと報告されているため、光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルは紫外線防御成分、安定化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- BASFジャパン株式会社(2004)「2-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル」ポジティブリスト収載資料.
- 朝田 康夫(2002)「紫外線の種類と作用は」美容皮膚科学事典,191-192.
- 朝田 康夫(2002)「サンタン、サンバーンとは」美容皮膚科学事典,192-195.
- 須加 基昭(1997)「紫外線防御スキンケア化粧品の開発」日本化粧品技術者会誌(31)(1),3-13.
- 国立環境研究所 有害紫外線モニタリングネットワーク(2016)「茨城県つくば局における紫外線量(UV-A,UV-B)月別値」, <http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/uv/uv_sitedata/graph01.html> 2019年6月15日アクセス.
- BASFジャパン(-)「Uvinul A Plus Granular」技術資料.
- G Vielhaber, et al(2006)「Sunscreens with an absorption maximum of > or =360 nm provide optimal protection against UVA1-induced expression of matrix metalloproteinase-1, interleukin-1, and interleukin-6 in human dermal fibroblasts.」Photochemical & Photobiological Sciences(5)(3),275-282.
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