メトキシケイヒ酸エチルヘキシルとは…成分効果と毒性を解説



・メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(改正名称)
・メトキシケイヒ酸オクチル(旧称)
[医薬部外品表示名称]
・パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル
化学構造的にメトキシケイヒ酸にエチルヘキシルアルコールをエステル結合したケイ皮酸エステル(油溶性ケイ皮酸誘導体:ケイ皮酸系紫外線吸収剤)です。
1960年代に開発されてから世界中で広く使用されており、国内においても1984年に使用が許可されてから現在までUVBを吸収する代表的な紫外線吸収剤として汎用されています(文献2:2007)。
メトキシケイヒ酸エチルヘキシルの物性は、
分子量 | 極大吸収波長(nm)(∗1) |
---|---|
290.4 | 308 |
このように記載されています(文献8:2014)。
∗1 極大吸収波長とは、最も吸収する紫外線波のことであり、308という数値はUVB波長領域(280-320nm)であることから、UVB吸収剤に分類されています。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、日焼け止め製品、メイクアップ化粧品、ネイル製品、香水などに汎用されています。
UVB吸収による紫外線防御作用
UVB吸収による紫外線防御作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UV:Ultra Violet)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
太陽による照射は、以下の図のように、
波長により、赤外線、可視光線および紫外線に分類されており、可視光線よりも波長の短いものが紫外線です。
また紫外線は、波長の長いものから
- UVA(長波長紫外線):320-400nm
- UVB(中波長紫外線):280-320nm
- UVC(短波長紫外線):100-280nm
このように大別され、波長が短いほど有害作用が強いという性質がありますが、以下の図のように、
UVCはオゾン層を通過する際に散乱・吸収されるため地上には到達せず、UVBはオゾン層により大部分が吸収された残りが地上に到達、UVAはオゾン層による吸収をあまり受けずに地表に到達することから、ヒトに影響があるのはUVBおよびUVAになります。
UVAおよびUVBのヒト皮膚への影響の違いは、以下の表のように(∗2)、
∗2 ( )内の反応は大量の紫外線を浴びた場合に起こる反応です。
UVA | UVB | |
---|---|---|
紫外線角層透過率 | 大 | 小 |
日焼けの現象 | サンタン (皮膚色が浅黒く変化) |
サンバーン (炎症を起こし、皮膚色が赤くなりヒリヒリした状態) |
急性皮膚刺激反応 | 即時型黒化(紅斑) 遅延型黒化(紅斑) UVBの反応を増強 (表皮肥厚、落屑) |
遅延型紅斑(炎症、水疱) 遅延型黒化 表皮肥厚、落屑 (DNA損傷) |
慢性皮膚刺激反応 | 真皮マトリックスの変性 | 真皮マトリックスの変性 |
日焼け現象発症時間 | 2-3日後 | 即時的 (1時間以内に赤みを帯び始める) |
性質がまったく異なっています(文献3:2002;文献4:2002;文献5:1997)。
国内の紫外線量の目安としては、2016年に茨城県つくば局によって公開されている紫外線量観測データによると、以下の表のように、
2月-10月の期間中とくに4月-9月の期間は、UVAおよびUVBの両方増加する傾向にあるため(文献6:2016)、UVAおよびUVB両方の紫外線防御が必要であると考えられます。
2007年にDSM ニュートリション ジャパンによって報告された紫外線吸収剤の吸収スペクトル資料によると、以下の表のように、
UVBへの吸収作用が明らかにされており(文献2:2007)、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルにUVB吸収による紫外線防御作用が認められています。
UVAの短波長領域(UVAのUVBよりの波長)も吸収領域であることから、UVA吸収剤との併用によって吸収漏れのない適切な相加作用があると考えられ、多くの場合UVAを吸収する紫外線吸収剤と併用して処方されます。
メトキシケイヒ酸エチルヘキシルは現在最も汎用されているUVB吸収剤ですが、酸化安定性が低く、原料において酸化防止剤であるBHTが併用されていることが多いため、製品においてもメトキシケイヒ酸エチルヘキシルとBHTが一緒に配合されていることがあります(∗3)。
∗3 BHTが配合されていないタイプのメトキシケイヒ酸エチルヘキシルもあるため、必ずしもBHTとセットというわけではありません。
また、紫外線を吸収し続けると経時的に光により変色・劣化する性質であることから、紫外線吸収能の持続性に課題がありますが、近年メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールやビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンなど様々なメカニズムで併用する紫外線吸収剤の光安定性・持続性を向上させる紫外線吸収剤が次々に上市(∗4)されており、それらと併用して使用することも増えています。
∗4 上市(じょうし)とは、市場に投入されるまたは販売することです。
製品自体の退色・変色防止
製品自体の退色・変色防止に関しては、UVB吸収作用に優れていることから、香料や着色剤など紫外線で劣化しやすい成分が配合されている化粧品を紫外線から防御する目的で化粧品、香水またはネイル製品などに配合されます(文献7:2015)。
製品自体の退色・変色防止目的で配合されている場合は、配合量が微量であるため全成分表示欄には末尾に記載されます。
メトキシケイヒ酸エチルヘキシルはポジティブリストであり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 20 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 20 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 8.0 |
パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 | その他 |
---|---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 10 | 紫外線吸収剤の合計は10以下とする |
育毛剤 | 10 | |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 10 | |
薬用口唇類 | 7.5 | |
薬用歯みがき類 | 7.5 | |
浴用剤 | 5.0 |
メトキシケイヒ酸エチルヘキシルの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性・光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
DSM Nutritional Productsの安全性データ(文献1:2012)によると、
- [ヒト試験] 被検者(人数不明)を用いてメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを対象に皮膚刺激性試験を実施したところ、皮膚刺激は認められなかった
- [動物試験] ウサギを用いてメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを対象にDraize法に基づいた皮膚刺激性試験を実施したところ、皮膚刺激は認められなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
DSM Nutritional Productsの安全性データ(文献1:2012)によると、
- [動物試験] ウサギを用いてメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを対象にDraize法に基づいた眼刺激性試験を実施し眼刺激性を評価したところ、眼刺激は認められなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
DSM Nutritional Productsの安全性データ(文献1:2012)によると、
- [ヒト試験] 被検者にメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを対象に皮膚感作性試験を実施し、皮膚感作性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚感作性は認められなかった
- [動物試験] モルモットを用いてメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを対象にOECD406テストガイドラインに基づいてMaximization皮膚感作性試験を実施し、皮膚感作性を評価したところ、皮膚感作性は認められなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
光毒性および光感作性について
DSM Nutritional Productsの安全性データ(文献1:2012)によると、
- [動物試験] モルモットを用いてメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを対象に光毒性試験を実施し、光毒性を評価したところ、光毒性は認められなかった
- [動物試験] モルモットを用いてメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを対象に光感作性試験を実施し、光感作性を評価したところ、いずれのモルモットにおいても光感作性は認められなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、光毒性および光感作性なしと報告されているため、光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
メトキシケイヒ酸エチルヘキシルは紫外線防御成分、安定化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- DSM Nutritional Products(2012)「Parsol MCX」Safety Data Sheet.
- 藤岡 賢大(2007)「最近の化粧品用途紫外線吸収剤」オレオサイエンス(7)(9),357-362.
- 朝田 康夫(2002)「紫外線の種類と作用は」美容皮膚科学事典,191-192.
- 朝田 康夫(2002)「サンタン、サンバーンとは」美容皮膚科学事典,192-195.
- 須加 基昭(1997)「紫外線防御スキンケア化粧品の開発」日本化粧品技術者会誌(31)(1),3-13.
- 国立環境研究所 有害紫外線モニタリングネットワーク(2016)「茨城県つくば局における紫外線量(UV-A,UV-B)月別値」, <http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/uv/uv_sitedata/graph01.html> 2019年6月10日アクセス.
- 宇山 侊男, 他(2015)「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」化粧品成分ガイド 第6版,92-93.
- 本間 茂継(2014)「化粧品開発に用いられる紫外線防御素材」日本化粧品技術者会誌(48)(1),2-10.
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