サリチル酸エチルヘキシルとは…成分効果と毒性を解説

紫外線吸収 退色防止
サリチル酸エチルヘキシル
[化粧品成分表示名称]
・サリチル酸エチルヘキシル(改正名称)
・サリチル酸オクチル(旧称)

サリチル酸にエチルヘキシルアルコールをエステル結合したサリチル酸誘導体(サリチル酸系紫外線吸収剤)です。

サリチル酸エチルヘキシルの物性は、

分子量 極大吸収波長(nm)
250.4 307

このように記載されています(文献2:2006;文献3:2014)

極大吸収波長とは、最も吸収する紫外線波のことであり、307という数値はUB波長領域(280-320nm)であることから、UVB吸収剤に分類されています。

サリチル酸エチルヘキシルの皮膚浸透性は、

3人の女性の皮膚から採取した全層皮膚に5%サリチル酸エチルヘキシルを配合したO/W型(水中油型)エマルションまたはワセリンを30分または6時間適用し、皮膚浸透性を評価したところ、いずれの期間においてもサリチル酸エチルヘキシルは真皮中に検出されなかった。

また30分および6時間での表皮中のサリチル酸エチルヘキシル量は同じであった。

サリチル酸エチルヘキシルを配合したO/W型エマルションの6時間的用後の皮膚浸透量は0.4μg/c㎡(適用量の0.2%)であり、サリチル酸エチルヘキシルを配合したワセリンの6時間的用後の皮膚浸透量は0.6μg/c㎡(適用量の0.3%)であった。

このような検証結果が報告されており(文献8:2019)、サリチル酸エチルヘキシルは配合量の約0.2%-0.3%が表皮まで浸透しますが、真皮には浸透しないと考えられます。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、日焼け止め製品、メイクアップ化粧品、リップケア製品、ネイル製品、香水、ボディ&ハンドケア製品などに汎用されています(文献1:2003;文献8:2019)

UVB吸収による紫外線防御作用

UVB吸収による紫外線防御作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UV:Ultra Violet)および紫外線の皮膚への影響について解説します。

太陽による照射は、以下の図のように、

紫外線の構造

波長により、赤外線、可視光線および紫外線に分類されており、可視光線よりも波長の短いものが紫外線です。

また紫外線は、波長の長いものから

  • UVA(長波長紫外線):320-400nm
  • UVB(中波長紫外線):280-320nm
  • UVC(短波長紫外線):100-280nm

このように大別され、波長が短いほど有害作用が強いという性質がありますが、以下の図のように、

紫外線波長領域とオゾン層の関係

UVCはオゾン層を通過する際に散乱・吸収されるため地上には到達せず、UVBはオゾン層により大部分が吸収された残りが地上に到達、UVAはオゾン層による吸収をあまり受けずに地表に到達することから、ヒトに影響があるのはUVBおよびUVAになります。

UVAおよびUVBのヒト皮膚への影響の違いは、以下の表のように(∗1)

∗1 ( )内の反応は大量の紫外線を浴びた場合に起こる反応です。

  UVA UVB
紫外線角層透過率
日焼けの現象 サンタン
(皮膚色が浅黒く変化)
サンバーン
(炎症を起こし、皮膚色が赤くなりヒリヒリした状態)
急性皮膚刺激反応 即時型黒化(紅斑)
遅延型黒化(紅斑)
UVBの反応を増強
(表皮肥厚、落屑)
遅延型紅斑(炎症、水疱)
遅延型黒化
表皮肥厚、落屑
(DNA損傷)
慢性皮膚刺激反応 真皮マトリックスの変性 真皮マトリックスの変性
日焼け現象発症時間 2-3日後 即時的
(1時間以内に赤みを帯び始める)

性質がまったく異なっています(文献4:2002;文献5:2002;文献6:1997)

国内の紫外線量の目安としては、2016年に茨城県つくば局によって公開されている紫外線量観測データによると、以下の表のように、

茨城県つくば局における紫外線量(UVA,UVB)年間値(2016年)

2月-10月の期間中とくに4月-9月の期間は、UVAおよびUVBの両方増加する傾向にあるため(文献7:2016)、UVAおよびUVB両方の紫外線防御が必要であると考えられます。

2014年にポーラ化成工業によって報告された紫外線吸収剤の吸収スペクトル資料によると、以下の表のように、

サリチル酸エチルヘキシルの紫外線吸収波長

UVBへの吸収作用が明らかにされており(文献3:2014)、サリチル酸エチルヘキシルにUVB吸収による紫外線防御作用が認められています。

ただし、UVB吸収能が低いため、紫外線防御目的で用いられることは少なく、多くの場合、製品自体の退色・変色防止に用いられます。

製品自体の退色・変色防止

製品自体の退色・変色防止に関しては、UVB吸収作用を有していることから、香料や着色剤など紫外線で劣化しやすい成分が配合されている化粧品を紫外線から防御する目的で香水またはネイル製品などに配合されます。

製品自体の退色・変色防止目的で配合されている場合は、配合量が微量であるため全成分表示欄には末尾に記載されます。

サリチル酸オクチル(サリチル酸エチルヘキシル)はポジティブリストであり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。

種類 最大配合量(g/100g)
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの 10
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの 10
粘膜に使用されることがある化粧品 5.0

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1998-2000年および2018-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

サリチル酸エチルヘキシルの配合製品数と配合量の調査結果(1998-2000年および2018-2019年)

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サリチル酸エチルヘキシルの安全性(刺激性・アレルギー)について

サリチル酸エチルヘキシルの現時点での安全性は、

  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性:ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2003)によると、

  • [ヒト試験] 4%サリチル酸エチルヘキシルを含むワセリンの48時間閉塞パッチ試験を実施したところ、サリチル酸エチルヘキシルは刺激性ではなかった(Anonymous,1976)
  • [ヒト試験] 23人の被検者を用いて4%サリチル酸エチルヘキシルを含むワセリンのmaximization皮膚感作試験を実施したところ、皮膚感作反応は観察されなかった(Anonymous,1976)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2003)によると、

  • [動物試験] ウサギを用いて50%サリチル酸エチルヘキシルを含むDEP溶液の眼刺激性をOECD405テストガイドラインに準じて評価したところ、この試験物質はウサギの眼に刺激性ではなかった(Haarmann and Reimer,1991)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。

光毒性および光感作性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献8:2019)によると、

  • [in vitro試験] サリチル酸エチルヘキシル(0.1-316μg/mL)を添加して培養した2つの3T3細胞を用いて、1つは非細胞毒性照射量を暴露し、もう一方は暗所に置き、24時間後に細胞生存率を評価する3T3 NRU光毒性試験を実施したところ、この試験物質は陰性に分類された(L R Gaspar et al,2013)
  • [ヒト試験] 38人の被検者に2%サリチル酸エチルヘキシルを含むクリームを対象に皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作を誘発しなかった(F A Andersen,2003)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、光毒性および光感作性なしと報告されているため、光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

サリチル酸エチルヘキシルは紫外線防御成分、安定化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:紫外線防御成分 安定化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2003)「Safety Assessment of Salicylic Acid, Butyloctyl Salicylate, Calcium Salicylate, C12–15 Alkyl Salicylate, Capryloyl Salicylic Acid, Hexyldodecyl Salicylate, Isocetyl Salicylate, Isodecyl Salicylate, Magnesium Salicylate, MEA-Salicylate, Ethylhexyl Salicylate, Potassium Salicylate, Methyl Salicylate, Myristyl Salicylate, Sodium Salicylate, TEA-Salicylate, and Tridecyl Salicylate」International Journal of Toxicology(22)(3),1-108.
  2. 日光ケミカルズ(2006)「紫外線防御剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,445-459.
  3. 本間 茂継(2014)「化粧品開発に用いられる紫外線防御素材」日本化粧品技術者会誌(48)(1),2-10.
  4. 朝田 康夫(2002)「紫外線の種類と作用は」美容皮膚科学事典,191-192.
  5. 朝田 康夫(2002)「サンタン、サンバーンとは」美容皮膚科学事典,192-195.
  6. 須加 基昭(1997)「紫外線防御スキンケア化粧品の開発」日本化粧品技術者会誌(31)(1),3-13.
  7. 国立環境研究所 有害紫外線モニタリングネットワーク(2016)「茨城県つくば局における紫外線量(UV-A,UV-B)月別値」, <http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/uv/uv_sitedata/graph01.html> 2019年6月14日アクセス.
  8. Cosmetic Ingredient Review(2019)「Amended Safety Assessment of Salicylic Acid and Salicylates as Used in Cosmetics」Final Amended Report.

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