オリザノールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | オリザノール |
---|---|
医薬部外品表示名 | γ-オリザノール |
INCI名 | Oryzanol |
配合目的 | 紫外線防御補助 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるフェルラ酸とトリテルペンアルコール(∗1)のエステルの混合物です[1][2a]。
∗1 二重結合をもち炭素数5個(C5)を分子構造とするイソプレンを分子構造単位(イソプレンユニット)とし、イソプレンが複数個(C5×2個以上)連結した後に環化や酸化など種々の修飾を経て生成する化合物をテルペノイドとよびます[3]。「モノ(mono)」「ジ(di)」「トリ(tri)」はギリシャ語でそれぞれ「1」「2」「3」を意味し、またテルペノイドは炭素数10個(C5×2個)をモノテルペン、炭素数20個(C5×4個)をジテルペン、炭素数30個(C5×6個)をトリテルペンとよび[4]、テルペン構造に官能基としてヒドロキシ基(-OH)が結合した化合物をテルペンアルコールと総称することから、トリテルペンアルコールは、炭素数30個(C5×6個)のトリテルペン構造に官能基としてヒドロキシ基(-OH)が結合した化合物のことを指します。
フェルラ酸とエステル結合するアルコール部として10種の存在が報告されていますが、参考として主要成分の一種であるフェルラ酸とシクロアルテノールのエステルの化学構造式を以下に表します(∗2)。
∗2 アルコール部は、ほかに24-メチレンシクロアルテノール、フィトステロールの一種であるカンペステロールやβ-シトステロールなどがあります。
1.2. 物性・性状
オリザノールの物性・性状は、
状態 | 板状結晶 |
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溶解性 | 水に難溶 |
このように報告されています[5]。
1.3. 分布
オリザノールは、主に穀物とくにコメヌカ油、コメ胚芽油に存在しています[2b]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
オリザノールの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 酸化防止作用があることから、酸化防止目的で油脂製品や魚肉練製品などに用いられています[6]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- UVB吸収による紫外線防御補助効果
- 配合目的についての補足
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、コンシーラー製品、スキンケア製品、アウトバストリートメント製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディケア製品、ハンドケア製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. UVB吸収による紫外線防御補助効果
UVB吸収による紫外線防御補助効果に関しては、まず前提知識として紫外線(ultraviolet:UV)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
紫外線とは、以下の図表のように、
紫外線の分類 | 略称 | 波長領域(nm) |
---|---|---|
長波長紫外線 | UVA | 320-400 |
中波長紫外線 | UVB | 290-320 |
短波長紫外線 | UVC | 190-290 |
太陽による光の波長のうち可視光線よりも波長の短いものを指し、生物学的な作用によって3種類に分類されていますが、以下の図が示すように、
300nm以下の波長のものは成層圏のオゾン層に吸収されるため、地上に到達するのは波長領域300-400nm、つまりUVBの一部(300-320nm)とUVAのみであり、人体に作用するのはUVBおよびUVAであることが知られています[7a][8][9a]。
UVBおよびUVAによるヒト皮膚に対する障害は、以下の表のように、
UVB | UVA | ||
---|---|---|---|
皮膚到達度 | 表皮まで | 真皮まで | |
皮膚 外観 変化 |
単回 曝露 |
一過性の炎症(紅斑) 遅延黒化(紅斑消退後) |
一過性の即時黒化 UVBによる紅斑の増強 一過性の紅斑(大量曝露時) |
反復 曝露 |
持続型黒化の増強 | 光老化皮膚の形成 | |
皮膚 内部 変化 |
単回 曝露 |
表皮細胞の損傷 DNAの損傷 メラニン産生の促進 活性酸素(・O2–)の生成 活性酸素(NO)の促進 |
活性酸素(1O2)の生成 |
反復 曝露 |
メラノサイトの増殖 | 真皮細胞外マトリックスの変性 |
皮膚外観および皮膚内部のそれぞれで、主にこれらの変化が報告されています[7b][9b][10a][11a]。
UVBは、単回曝露時の即時的な皮膚反応としていわゆる「日焼け」とよばれる紅斑や浮腫のような炎症反応を引き起こすことが知られており、この炎症が紫外線曝露24時間をピークとして消退したあとに(紫外線曝露から3日後に)各メラノサイト活性化因子の分泌が亢進し、メラノサイトがそれらを受け取ることでメラノサイト内でメラニン産生が促進され、遅延型黒化を引き起こします(∗3)[7c][9c][11b]。
∗3 紫外線曝露による、炎症のメカニズムについては抗炎症成分カテゴリで、メラニン産生促進による黒化のメカニズムについては美白成分カテゴリでそれぞれ解説しているので併せて参照してください。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応としてメラノサイトの増殖によってメラニン量が増加することによる皮膚の持続的な黒化や部分的な色素沈着があります[9d][10b]。
一方で、UVAは単回曝露時の即時的な皮膚反応として、曝露した直後に皮膚が黒化する即時黒化を引き起こしますが、この即時黒化反応は2-3時間で消失する一時的な皮膚の外観変化であり、メラニンの生成促進によって引き起こされたものではなく、皮膚にすでに存在している淡色のメラニン(還元メラニン)の光酸化によるものであると考えられています[10c][11c]。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応として真皮に存在する細胞外マトリックスの変性による皮膚の老化(ハリや弾力の低下)が促進されることが知られています(∗4)[7d][9e]。
∗4 皮膚の老化(光老化)のメカニズムについては、抗老化成分カテゴリで解説しているので、併せて参照してください。
このような背景から、過剰なUVBおよびUVAの曝露から皮膚を保護することは、健常な皮膚の維持や光老化の予防という点で重要であると考えられています。
オリザノールは、以下の紫外線吸収スペクトル図をみてもらうとわかりやすいと思いますが(∗5)、
∗5 吸光度(absorbance:abs)とは、溶液に吸収される光の量のことを指し、Lambert-Beerの法則を用いた場合、光透過率100%の吸光度0.0、31.6%の吸光度0.5、10%の吸光度1.0、1%の吸光度2.0となり、吸光度が大きいほど光透過率は低くなります。ただし、濃度依存的に吸光度は高くなるため、吸光度はあくまでもスペクトルを示すための参考値です。
UVB領域である320nmに吸収極大を示すUVB吸収能を有しており、また紫外線吸収剤であるフェルラ酸よりも高い吸収能を示すことから[12]、UVB吸収による紫外線防御補助目的で化粧下地製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品などに汎用されています。
2.2. 配合目的についての補足
オリザノールは、皮脂腺賦活による皮脂分泌促進作用を有しており、ヒト試験において1%オリザノール配合軟膏の塗布により各種乾皮症やアトピー性皮膚炎の症状の改善が報告されています[13a][14]。
ただし、化粧品におけるスキンケア製品への配合上限が1%であり、一般に安全性への配慮から配合上限付近まで配合することは考えにくく、また濃度0.1%では有用性が認められていないため、現時点では化粧品において皮脂量の減少に起因した肌荒れ症状の改善効果については保留とし、化粧品配合濃度におけるヒト試験データがみつかりしだい追補・再編集します。
3. 混合原料としての配合目的
オリザノールは混合原料が開発されており、オリザノールと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Phytopresome OR |
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構成成分 | 水添レシチン、オリザノール |
特徴 | 皮膚に対して保湿効果・バリア機能向上効果を発揮するオリザノール含有リポソーム液 |
原料名 | Phytopresome FA-OR |
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構成成分 | 水添レシチン、フェルラ酸、オリザノール |
特徴 | 皮膚に対して保湿効果・バリア機能向上効果を発揮するフェルラ酸・オリザノール含有リポソーム液 |
原料名 | オリザガンマー クリア |
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構成成分 | 水、BG、オクチルドデセス-16、(PCA/イソステアリン酸)PEG-40水添ヒマシ油、トリエチルヘキサノイン、オリザノール、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2、クエン酸Na、クエン酸 |
特徴 | 難溶性のオリザノールを1%溶解した水溶液 |
原料名 | オリザガンマー ミルキー |
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構成成分 | グリセリン、水、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、オレイン酸ポリグリセリル-10、オリザノール、レシチン |
特徴 | 難溶性のオリザノールを5%溶解した水溶液 |
4. 配合量範囲
γ-オリザノールは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
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薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 上限なし |
育毛剤 | 1.0 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 1.0 |
薬用口唇類 | 0.50 |
薬用歯みがき類 | 0.50 |
浴用剤 | 0.50 |
γ-オリザノールは医薬品成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
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粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 上限なし |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 1.25 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 1.25 |
5. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
名古屋大学医学部皮膚科学教室および名古屋大学医学部附属病院院分院皮膚科の安全性データ[13b]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 35名の被検者の上腕屈側に1%γ-オリザノール配合軟膏および対照として軟膏基剤のみを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、除去1時間で1%γ-オリザノール軟膏適用者2名、軟膏のみ適用者1名にわずかな紅斑がみられたが、24時間では軟膏のみ適用者1名にわずかな紅斑がみられた。この試験製剤は基剤のみと比較して統計学的に有意差は認められなかった
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 皮膚炎を有する37名の患者(接触性皮膚炎9名、顔面再発性皮膚炎1名、酒皺様皮膚炎8名、顔面黒皮症4名、肝斑8名、脂漏性湿疹5名、手湿疹2名)の上腕屈側に1%γ-オリザノール配合軟膏および対照として軟膏基剤のみと白色ワセリンを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、除去1時間で1%γ-オリザノール軟膏適用者、軟膏のみ適用者および白色ワセリン適用者それぞれに、明らかな紅斑が3名,4名,0名にみられ、わずかな紅斑が5名,2名,5名にみられた。除去24時間ではいずれの適用者においても皮膚刺激反応はみられなかった。1%軟膏と、対照である基剤および白色ワセリンの間に統計学的に有意差は認められなかった
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
食品添加物の既存添加物リストおよび医薬部外品原料規格2021に収載されており、30年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
5.4. 光毒性(光刺激性)
名古屋大学医学部皮膚科学教室および名古屋大学医学部附属病院院分院皮膚科の安全性データ[13c]によると、
- [ヒト試験] 健常な皮膚を有する35名の被検者の上腕屈側に1%γ-オリザノール配合軟膏および対照として軟膏基剤のみを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1時間後に皮膚刺激性を評価した。評価後に試験部位にUVライト(UVA)を10分間照射し、パッチ除去24時間後に光刺激性を評価したところ、UV未照射であるパッチ除去後1時間時点よりも皮膚刺激指数が小さいため、この試験物質は光の影響がほとんどないものと推測された
このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「オリザノール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,266-267.
- ⌃ab岡田 忠司(1998)「γ-オリザノールの機能と応用」Fragrance Journal(26)(3),71-77.
- ⌃池田 剛(2017)「テルペノイド」エッセンシャル天然薬物化学 第2版,120-124.
- ⌃池田 剛(2017)「トリテルペン」エッセンシャル天然薬物化学 第2版,142-146.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「γ-オリザノール」有機化合物辞典,188.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「γ-オリザノール」食品添加物事典 新訂第二版,64.
- ⌃abcd正木 仁(2003)「紫外線」化粧品事典,500-502.
- ⌃磯貝 理恵子・山田 秀和(2021)「太陽光線と皮膚:マクロの変化」臨床光皮膚科学,16-22.
- ⌃abcde錦織 千佳子(2009)「紫外線と光防御」美容皮膚科学 改定2版,31-39.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「紫外線障害予防剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,586-594.
- ⌃abc富田 靖(2009)「メラニンと色素異常」美容皮膚科学 改定2版,22-30.
- ⌃X. Zhao, et al(2021)「Non-adiabatic Dynamics Mechanism in Excited State of Novel UV Protective Sunscreen in Rice: Conical Intersection Promotes Internal Conversion」Journal of Cluster Science(32),967-973. DOI:10.1007/s10876-020-01819-2.
- ⌃abc小林 敏夫・早川 律子(1979)「γ-オリザノール配合軟膏の臨床効果の検討」皮膚(21)(2),123-134. DOI:10.11340/skinresearch1959.21.123.
- ⌃IKD-504研究班(1979)「1%γ-オリザノール配合軟膏の臨床効果の検討」皮膚(21)(4),463-470. DOI:10.11340/skinresearch1959.21.463.