(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマーの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | (HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマー |
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医薬部外品表示名 | ヘキサメチレンジイソシアネート/トリメチロールヘキシルラクトン架橋ポリマー |
INCI名 | HDI/Trimethylol Hexyllactone Crosspolymer |
配合目的 | 感触改良 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)と6-7モルのヘキシルラクトンでエステル化したトリメチロールプロパンとの反応で得られる架橋縮合重合体(∗1)(∗2)の微粒子(体質顔料)です[1]。
∗1 架橋とは、主に高分子において分子間に橋を架けたような結合をつくることで物理的、化学的性質を変化させる反応のことです。
∗2 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指し、2種類以上の単量体(モノマー:monomer)がつながってできているものを共重合体(copolymer:コポリマー)とよびます。また共重合体を微粒子化したものをクロスポリマーと呼びます。
1.2. 性状
(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマーの性状は、
状態 | 白-淡黄色の球状粉末 |
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粒径(μm) | 14-20 |
2. 化粧品としての配合目的
- 柔軟性、潤滑性および皮膚に対するフィット感向上による感触改良
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、コンシーラー製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 柔軟性、潤滑性および皮膚に対するフィット感向上による感触改良
柔軟性、潤滑性および皮膚に対するフィット感向上による感触改良に関しては、ポリウレタンは無機粉体では得られない皮膚を触ったときに近いソフトな弾力性と皮膚への親和性が高くフィットしやすいといった特徴を有しており、(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマーはポリウレタンであることから、肌へのフィット感の調整、滑り性、柔らかい感触およびなめらかな感触の付与目的で主にメイクアップ製品、化粧下地製品、コンシーラー製品などに汎用されています[3b][4b][5]。
3. 混合原料としての配合目的
(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマーは混合原料が開発されており、(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマーと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | D-400 or D-800 |
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構成成分 | (HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマー、シリカ |
特徴 | ソフトフォーカス効果や疑似モイスチャー感または疑似クリーミー感を発揮する柔軟性の高い真球状ポリウレタン粉末 |
原料名 | UP-611 or UP-812 |
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構成成分 | (HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマー、メタクリル酸メチルクロスポリマー |
特徴 | ポリウレタンとアクリルの機能性複合粉末であり、肌への高い密着性と発色性を向上する効果を付与し、多孔質のものは皮脂や汗の吸収する機能によりロングラスティング効果を発揮します |
原料名 | US-450 |
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構成成分 | (HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマー、ポリメチルシルセスキオキサン |
特徴 | ソフトフォーカス効果の付与や光の散乱効果を発揮する表面にシリコンレジンを内包したポリウレタン粉末 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2015-2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、
- [ヒト試験] 44名の被検者に100%(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマーを24時間パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、このいずれの被検者においても皮膚反応はみられなかった(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme.2008;2010;2012)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2c]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に100%(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマーを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は軽度の眼刺激剤に分類されたが、NOHSCを基準とした場合は非刺激剤に分類されると結論付けられた(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme.2008;2010;2012)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマー」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,20.
- ⌃abcL.C. Becker(2016)「Safety Assessment of Hexamethylene Diisocyanate (HDI) Polymers as Used in Cosmetics(∗4)」, 2022年10月9日アクセス.
∗4 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。 - ⌃abSunjin Beauty Science(2020)「SUNPU-170:Urethane Bead」Polymer Bead,17-21.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「体質粉体」パーソナルケアハンドブックⅠ,290-298.
- ⌃柴田 雅史(2021)「無色の光の美しさと感触調整 – 体質顔料」美しさをつくる色材工学,180-199.