メタクリル酸メチルクロスポリマーの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | メタクリル酸メチルクロスポリマー |
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医薬部外品表示名 | ポリアクリル酸アルキル |
INCI名 | Methyl Methacrylate Crosspolymer |
配合目的 | 感触改良、増量・希釈、ソフトフォーカス など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ポリメタクリル酸メチルをジメタクリル酸エチレングリコールで架橋(∗1)した共重合体(∗2)の微粒子(体質顔料)です[1]。
∗1 架橋とは、主に高分子において分子間に橋を架けたような結合をつくることで物理的、化学的性質を変化させる反応のことです。
∗2 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指し、2種類以上の単量体(モノマー:monomer)がつながってできているものを共重合体(copolymer:コポリマー)とよびます。また共重合体を微粒子化したものをクロスポリマーと呼びます。
1.2. 性状
メタクリル酸メチルクロスポリマーの性状は、
状態 | 白色の粉末 |
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粒径(μm) | 7-10 |
2. 化粧品としての配合目的
- 潤滑性向上による感触改良
- 増量・希釈
- ソフトフォーカス効果
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、コンシーラー製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 潤滑性向上による感触改良
潤滑性向上による感触改良に関しては、メタクリル酸メチルクロスポリマーは球状粉体のものはなめらかな感触を有するプラスチックビーズであることから、潤滑性を向上させる目的で主にメイクアップ製品、化粧下地製品などに汎用されています[2b][3b]。
2.2. 増量・希釈
増量・希釈に関しては、まず前提知識としてパウダー化粧品における着色剤の役割について解説します。
パウダー化粧品において着色剤は、美肌に見せるために肌の色を好ましい色に調整し、肌のムラやくすみ、シミなどの欠点を隠す役割を担っていますが、着色顔料だけでは肌の色は好みどおりでかつ肌の欠点も隠れたとしても人工的で不自然な仕上がりになり、とても美肌とはよべない状態となり、また肌への伸びや滑り性も悪いものとなってしまうことが知られています[5a]。
そこで、着色剤の色を薄め、かつ塗りやすく均一で適切な仕上がりにするために体質顔料を混合することが、パウダー化粧品には不可欠となっています[5b]。
メタクリル酸メチルクロスポリマーは、内部に中空部分を有する多孔性プラスチックビーズであり、吸水量および吸油量に優れていることから、ドライでマットな質感の付与あるいは汗や皮脂を吸収し化粧もちを持続させる着色剤の希釈剤や増量剤としてメイクアップ製品、コンシーラー製品、化粧下地製品などに汎用されています[2c][4b]。
2.3. ソフトフォーカス効果
ソフトフォーカス効果に関しては、まず前提知識として毛穴や小じわと光の関係およびソフトフォーカス効果について解説します。
肌の表面は皮表と呼ばれ、以下の図のように、
凸部の皮丘と凹部の皮溝で構成された肌理(キメ)構造によって形成されています。
皮丘には多くの光が当たることで明るくなる一方で、皮溝、小ジワ、毛穴などくぼんだ部分には光が当たりにくく影になり、その明度差がくぼみ部分を目立たせることが知られています[6]。
このような背景から、くぼみ部分を目立ちにくくさせるには、
- 皮膚表面の凹凸間の輪郭をぼかすこと
- 皮膚表面の凹凸間の明度差を減少させること
この2点が重要であるというソフトフォーカス理論が報告され[7]、また以下のソフトフォーカス効果の仕組み図をみてもらうとわかるように、
球状という形態から球状粉体が光を乱反射し、この乱反射により肌表面の光情報が隠されて凹凸をぼかすソフトフォーカス効果を発揮することが知られています[8][9]。
メタクリル酸メチルクロスポリマーは、ソフトフォーカス効果を有することから[2d][4c]、ファンデーション製品などに汎用されています。
3. 混合原料としての配合目的
メタクリル酸メチルクロスポリマーは混合原料が開発されており、メタクリル酸メチルクロスポリマーと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Silcrusta MK03 |
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構成成分 | ポリメチルシルセスキオキサン、メタクリル酸メチルクロスポリマー |
特徴 | メタクリル酸メチルクロスポリマーにシリコーンを被覆する金平糖状粉体であり、凹凸のある表面特性により滑り性の向上およびソフトフォーカス効果を発揮します |
原料名 | プルセア OPT-50-J |
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構成成分 | メタクリル酸メチルクロスポリマー、酸化チタン、ジメチコン、水酸化Al |
特徴 | プラスチックビーズの表面に微粒子酸化チタンをコーティングすることによりソフトフォーカス効果に加えて紫外線(とくにUVB)カット効果を発揮する複合機能粉体 |
原料名 | プルセア OPZ-50 |
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構成成分 | メタクリル酸メチルクロスポリマー、酸化亜鉛、ジメチコン |
特徴 | プラスチックビーズの表面に微粒子酸化亜鉛をコーティングすることによりソフトフォーカス効果に加えて紫外線(とくにUVA)カット効果を発揮する複合機能粉体 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2008-2009年および2018年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10a]によると、
- [ヒト試験] 106名の被検者に2%メタクリル酸メチルクロスポリマーを含むマスカラ0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても試験期間中に皮膚反応は誘発されなかった(Consumer Product Testing Co,2008)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10b]によると、
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に2%メタクリル酸メチルクロスポリマーを含むマスカラを20分、1時間および4時間曝露したところ、眼刺激性スコアは0であり、この試験物質は非刺激剤に分類された(Consumer Product Testing Co,2008)
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「メタクリル酸メチルクロスポリマー」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,980-981.
- ⌃abcd大東化成工業株式会社(2014)「MAKIBEADS 80,150&250」Information Sheet.
- ⌃ab大東化成工業株式会社(-)「MAKIBEADS」Pamphlet.
- ⌃abcSensient Cosmetic Technologies(2013)「Covabead LH 85」Technical Data Sheet.
- ⌃ab柴田 雅史(2021)「無色の光の美しさと感触調整 – 体質顔料」美しさをつくる色材工学,180-199.
- ⌃栗林 さつき(2005)「毛穴対策用メイクアップ化粧料」Fragrance Journal(33)(9),33-38.
- ⌃中村 直生, 他(1987)「粉体の光学的研究とシワ隠し効果」日本化粧品技術者会誌(21)(2),119-126. DOI:10.5107/sccj.21.119.
- ⌃南 孝司(2003)「デフォーカス効果」化粧品事典,610.
- ⌃毛利 邦彦(1996)「ファンデーション用粉体の開発動向」色材協会誌(69)(8),530-538. DOI:10.4011/shikizai1937.69.530.
- ⌃abL.C. Becker, et al(2011)「Final Report of the Cosmetic Ingredient Review Expert Panel Safety Assessment of Polymethyl Methacrylate (PMMA), Methyl Methacrylate Crosspolymer, and Methyl Methacrylate/Glycol Dimethacrylate Crosspolymer」International Journal of Toxicology(30)(3_suppl),54S-65S. DOI:10.1177/1091581811407352.