ナイロン-12の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ナイロン-12 |
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医薬部外品表示名 | ナイロン末 |
INCI名 | Nylon-12 |
配合目的 | 感触改良、ロングラッシュ効果 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるラクタムの一種である炭素数12(C12)のラウリルラクタム(∗1)を開環重合(∗2)したポリアミド(∗3)(体質顔料)です[1][2a]。
∗1 ラクタム(lactam)とは、カルボキシ基(-COOH)とアミノ基(-NH2)が脱水縮合した形をもって環を成している化合物の総称であり、ラウリルラクタム(Lauryl lactam)は、ラウロラクタムとも呼ばれ、ナイロン-12の原料として重要な化合物です。
∗2 重合とは、複数の単量体(モノマー)が結合して鎖状や網状になる反応のことをいい、単量体(モノマー)が結合して鎖状または網状になった化合物を重合体(ポリマー)といいます。開環重合とは、環状化合物の環構造を解き、環の解かれた化合物の端同士が結合することで重合体(ポリマー)とする反応のことをいいます。
∗3 ポリアミドとは、アミド結合によって多数の単量体(モノマー)が結合してできた重合体(ポリマー)であり、一般に脂肪族骨格を含むポリアミドをナイロンと総称しています。
1.2. 性状
ナイロン-12の性状は、
状態 | 白色の繊維または球状あるいは平板状の粉体 |
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粒径(μm) | 平均6-9、最大20 |
2. 化粧品としての配合目的
- 潤滑性向上による感触改良
- ロングラッシュ効果
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、ネイル製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 潤滑性向上による感触改良
潤滑性向上による感触改良に関しては、球状のナイロン-12は表面が平滑であり、優れた滑り性およびなめらなか感触を有することから、潤滑性を向上させる目的で主にメイクアップ製品、化粧下地製品、ネイル製品などに汎用されています[2b][5a][6]。
2.2. ロングラッシュ効果
ロングラッシュ効果に関しては、まず前提知識としてロングラッシュ効果について解説します。
ロングラッシュ効果とは、一般に日本人のまつ毛は欧米人よりも短くて細い上にハリがないため、天然または合成の微小な繊維をまつ毛につけることで、まつ毛を濃く長くみせる効果のことをいいます[7]。
繊維状のナイロン-12は、まつ毛に付着させることでまつ毛を濃く長く見せることが可能であることから、ロングラッシュ効果目的で主にマスカラ製品に使用されています[5b][8]。
3. 混合原料としての配合目的
ナイロン-12は混合原料が開発されており、ナイロン-12と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Orgasol Hydra + |
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構成成分 | ナイロン-12、ヒアルロン酸Na |
特徴 | 処方の感覚的および視覚的効果を改良するとともにヒアルロン酸の有効性も発揮するヒアルロン酸含有微孔性パウダー |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2011-2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[4b]によると、
- [ヒト試験] 30名の被検者に3%ナイロン-12を含むリップ製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激および皮膚感作を誘発しなかった(Dermatest,2000)
- [ヒト試験] 103名の被検者に5%ナイロン-12を含むアイシャドーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じて有害な皮膚反応は観察されず、いずれの被検者も皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Consumer Product Testing Co,2012)
- [ヒト試験] 103名の被検者に6%ナイロン-12を含むコンシーラーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じて有害な皮膚反応はみられず、いずれの被検者も皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Consumer Product Testing Co,2006)
- [ヒト試験] 107名の被検者に5.24%ナイロン-12を含む固形香料を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は臨床的に重要な皮膚刺激および皮膚感作の可能性を示さなかった(Consumer Product Testing Co,2012)
- [ヒト試験] 221名の被検者に35%ナイロン-12を含むフェイシャルパウダーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激および皮膚感作の兆候を示さなかった(Consumer Product Testing Co,2001)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[4c]によると、
- [ヒト試験] 33名の被検者(約50%はソフトまたはハードコンタクトレンズ装着者)に5%ナイロン-12を含むアイシャドーを1日1回4週間にわたって使用してもらったところ、試験期間を通じて有害事象は報告されず、眼科検査によりいずれの被検者の眼も正常範囲内であった。この製品はコンタクトおよび非コンタクトレンズ装用者、自己知覚の敏感な眼を持つ人、および正常な目を持つヒトが使用しても眼刺激を引き起こさないと結論付けられた(Consumer Product Testing Co,2012)
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ナイロン-12」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,720-721.
- ⌃ab近 亮(2003)「ナイロンパウダー」化粧品事典,626-627.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「体質粉体」パーソナルケアハンドブックⅠ,290-298.
- ⌃abcC. Burnett, et al(2014)「Safety Assessment of Nylon as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(33)(4_Suppl),47S-60S. DOI:10.1177/1091581820966953.
- ⌃ab柴田 雅史(2021)「無色の光の美しさと感触調整 – 体質顔料」美しさをつくる色材工学,180-199.
- ⌃中村 直生(1988)「プラスチックパウダーの化粧品への応用」色材協会誌(61)(8),438-446. DOI:10.4011/shikizai1937.61.438.
- ⌃南 孝司(2003)「ロングラッシュ効果」化粧品事典,857-858.
- ⌃熊谷 重則・関根 知子(2000)「新しい化粧品と高分子」高分子(49)(1),10-12. DOI:10.1295/kobunshi.49.10.