ミツロウの基本情報・配合目的・安全性

ミツロウ

化粧品表示名称 ミツロウ
医薬部外品表示名称 ミツロウ、サラシミツロウ
慣用名称 ビーズワックス
化粧品国際的表示名称(INCI名) Beeswax
配合目的 感触改良物理的脱毛 など

1. 基本情報

1.1. 定義

ミツバチ科ミツバチ属動物ミツバチ(学名:Apis mellifera 英名:Honey bee)または同属動物の巣から得られるロウです[1]

医薬部外品表示名称については、それぞれ、

医薬部外品表示名称 本質
ミツロウ トウヨウミツバチ(Apis indica Radoszkowski (Apidae))、ヨーロッパミツバチ( Apis mellifera Linne)などのミツバチの巣から得たろうを精製したもの
サラシミツロウ ミツロウを漂白精製したもの

このように分けられており、化粧品表示名称としてはいずれも「ミツロウ」と表示されます。

ミツロウにはヨーロッパ系と東洋系がありますが、日本においては主にヨーロッパ系が使用されているため、ここではヨーロッパ系に限定して解説します。

1.2. 物性・性状

ミツロウの物性・性状は(∗1)(∗2)

∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。比重とは固体や液体においては密度を意味し、標準密度1より大きければ水に沈み(水より重い)、1より小さければ水に浮くことを意味します。

∗2 屈折とは光の速度が変化して進行方向が変わる現象のことで、屈折率は「空気中の光の伝播速度/物質中の光の伝播速度」で表されます。光の伝播速度は物質により異なり、また同一の物質でも波長により異なるため屈折率も異なりますが、化粧品において重要なのは空気の屈折率を1とした場合の屈折率差が高い界面ほど反射率が大きいということであり、平滑性をもつ表面であれば光沢が高く、ツヤがでます(屈折率の例としては1.33、エタノールは1.36、パラフィンは1.48)。

状態 融点(℃) 比重(d 15/15) 屈折率(n 80/D)
非結晶性の固体 62-65 0.927-0.970 1.4388-1.4527

このように報告されています[2a]

1.3. 組成

ミツロウの組成は、一例として、

成分 含有比(%)
エステル 67-72
遊離脂肪酸 13-16
遊離アルコール 1-2
炭化水素 10-14

このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3a]、脂肪酸組成およびアルコール組成は、一例として、

炭素数:二重結合数 脂肪酸(%) アルコール(%)
14:0 1.2
16:0 93.4
21:0 4.7
24:0 15.1
26:0 10.7
28:0 13.9
30:0 33.1
32:0 20.9
34:0 5.0
36:0 1.3

このような種類と比率で構成されていることが報告されています[4]

炭素数16(C16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸と炭素数24-32(C24,C26,C28,C30,C32の飽和アルコールがエステルとして67-72%を占め、ロウエステルの主成分はパルミチン酸ミリシル(C15H31COOC30H61と報告されています[5]

1.4. 分布と歴史

ミツバチの腹部には蝋腺(ろうせん)という分泌器官があり、ここから液状のロウが分泌され、これが空気に触れると固まってミツロウとなり、このミツロウを働きバチが口の中でこねて六角形の巣房に仕上げていることが知られています[2b]

ミツロウが人に利用されてきた歴史としては、紀元前4200年頃にエジプトでミイラの保存に使用されていた記録が最も古く、それ以後は紀元前100年頃にロウソクの原料として使われ始め、キリスト教の布教に伴って教会で灯すロウソクの需要が急増し、ミツロウでつくられたロウソクの光はそのまま神の光として人々に敬愛されてきたことから、現在でもキリスト教会ではミツロウのロウソクを灯す伝統が守られています[6a]

日本においては、8世紀(奈良時代)に仏教の伝来にともなって中国からミツロウ製のロウソクが伝えられましたが、平安時代後期に中国との交易が一時途絶え、室町時代には再開されたもののモクロウのロウソク製法が伝えられたことをきっかけに、国内ではモクロウを原料とした和ロウソクがつくられるようになり、それ以後ミツロウがロウソクの主な原料として用いられることはなかったという経緯があります[7]

ミツバチが家畜として合理的に飼育できるようになったのは可動巣枠が発明された19世紀半ばであり、それ以後急速に近代養蜂は発展し、現在は世界各国でミツロウの生産が行われていますが、ヨーロッパ系ミツバチのミツロウを商業生産している主な国は、エチオピア、タンザニア、中国、スペイン、チリ、ニュージーランド、ロシア、アルゼンチン、オーストラリアなどがあります[6b][8]

1.5. 化粧品以外の主な用途

ミツロウの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 チューインガムに柔軟性のある食感を付与する目的でガムベースに用いられるほか、防湿および表面に光沢を付与する目的でチョコレート、菓子類、果実、コーヒー豆などに用いられています[9]
医薬品 潤沢、基剤、結合、懸濁・懸濁化、光沢化、コーティング、糖衣、粘稠目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤などに用いられています[10]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 粘着性および可撓性による感触改良
  • 物理的脱毛

主にこれらの目的で、スティック系メイクアップ製品、ペンシル系メイクアップ製品、マスカラ製品、その他のメイクアップ製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、ヘアスタイリング製品、洗顔料などに汎用されています。

また、薬機法による製品分類上、化粧品ではなく雑貨に分類されますが、脱毛ワックスにも汎用されています。

以下は、化粧品および雑貨(脱毛ワックス)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 粘着性および可撓性による感触改良

粘着性および可撓性(∗3)による感触改良に関しては、ミツロウはオイル成分との相溶性が良く、ロウの中でもとくに粘着性があり、製品の強度を高めるとともにたわみをもたせてなめらかで柔らかい感触を付与する目的で主にスティック系製品、ペンシル系製品などに汎用されています[3b][6c][11]

∗3 可撓性(かとうせい)とは、曲げたり、たわみを持たせることができる性質のことをいいます。

また、粘着性をもつことから、製品に付着性を付与する目的でマスカラ製品、ヘアスタイリング製品などに使用されています[3c]

2.2. 物理的脱毛

物理的脱毛に関しては、ミツロウは加熱溶解して脱毛したい部分に塗布し、自然に冷却固化した後に物理的な力によって毛を剥離・脱毛する目的で、主に脱毛ワックスなどに使用されています[12][13]

3. 混合原料としての配合目的

ミツロウは、混合原料が開発されており、ミツロウと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 Dekamol Coco Wax
構成成分 ココグリセリル、ミツロウキャンデリラロウ
特徴 パーム油代替油性基剤・エモリエント剤
原料名 FLORA WAX BCC-1
構成成分 ミツロウ、キャンデリラロウ炭化水素、カルナウバロウ
特徴 発汗を抑えた3種の天然由来混合ワックス・リップスティック基剤
原料名 EMACOL NE-BEEX
構成成分 PEG-40水添ヒマシ油ミツロウ
特徴 ミツロウのO/W型エマルション
原料名 Dehymuls E HLB 4.0
構成成分 ジステアリルクエン酸ジココイルペンタエリスリチル、セスキオレイン酸ソルビタンミツロウ、ジ/トリステアリン酸Al
特徴 W/O型乳化剤
原料名 Naturebead B20
構成成分 カルナウバロウミツロウ
特徴 植物ワックスの真球状スクラブ剤
原料名 Naturebead J20
構成成分 カルナウバロウミツロウホホバエステル
特徴 植物ワックスの真球状スクラブ剤

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1984年および2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

ミツロウの配合製品数と配合量の調査結果(1984年および2002-2003年)

5. 安全性評価

ミツロウの現時点での安全性は、

  • 食品添加物の既存添加物リストに収載
  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14a]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 20名の被検者に100%ミツロウを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-4.0のスケールで皮膚刺激性を評価したところ、1名の被検者のPIIは0.03であり、ほかの19名は0.0で皮膚刺激は示されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1976)
  • [ヒト試験] 79名の被検者を各20名(4つ目は19名)4つのグループに分けて各グループに13%ミツロウを含むクレンジングクリームを単回パッチ適用し、パッチ除去後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-4.0のスケールで皮膚刺激性を評価したところ、それぞれのPIIは0.03,0.05,0.06および0.0であり、この試験物質は実質的に非刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975;1977;1981)
  • [ヒト試験] 7名の被検者に13%ミツロウを含むコールドクリームを対象に21日間皮膚累積刺激性試験(3週間にわたって週3回48時間閉塞パッチ適用)を実施したところ、この試験物質は非刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)
  • [ヒト試験] 200名の被検者に6.4%ミツロウを含むリップスティック製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験製剤は皮膚反応を誘発しなかった(Research Testing Labs,1976)
  • [ヒト試験] 1,595名の被検者に10%ミツロウを含むマスカラ製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験製剤は皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)

– 過敏な皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 50名の被検者に13%ミツロウを含むコールドクリームを対象にパッチテストを実施したところ、この試験製剤はいずれの被検者においても皮膚感作反応を示さなかった(Research Testing Labs,1975)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に50%ミツロウを含むミネラルオイル0.1mLを点眼し、点眼後7日間にわたって眼刺激性スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激性スコアは最大で2.0であり、この試験物質は非刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に50%ミツロウを含むミネラルオイル0.1mLを点眼し、点眼後7日間にわたって眼刺激性スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激性スコアは0.0であり、この試験物質は非刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1972)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼の結膜嚢に13%ミツロウを含むクレンジング製剤0.1mLを点眼し、点眼後7日間にわたって眼刺激性スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激性スコアは最大で3.0であり、この試験物質は最小限の眼刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975;1977;1978)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に6.4%ミツロウを含むリップスティック製剤0.1mLを適用し、適用後7日間にわたって眼刺激性スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激性スコアは0.0であり、この試験物質は非刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979;1981)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に0.3%ミツロウを含むコールドクリーム0.1mLを適用し、点眼後7日間にわたって眼刺激性スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激性スコアは最大で1.0であり、この試験物質は非刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

5.3. 光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14c]によると、

  • [ヒト試験] 192名の被検者に3%ミツロウを含むマスカラ製剤を対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験製剤は光感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
  • [ヒト試験] 68名の被検者に10%ミツロウを含むマスカラ製剤を対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験製剤は光感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して光感作なしと報告されているため、一般に光感作性はほとんどないと考えられます。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「ミツロウ」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,961-962.
  2. ab大石 孔(1983)「動物系ワックス」ワックスの性質と応用,32-47.
  3. abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「ロウ類」パーソナルケアハンドブックⅠ,20-24.
  4. P.J. Holloway(1969)「The composition of beeswax alkyl esters」Journal of the American Oil Chemists’ Society(46)(4),189-190. DOI:10.1007/BF02632501.
  5. 広田 博(1997)「ロウ類」化粧品用油脂の科学,37-54.
  6. abc古賀 直一(2000)「蜂ろうの性質と用途」ミツバチ科学(21)(4),145-153. hdl:11078/812.
  7. 玉川大学ミツバチ科学研究施設(1996)「蜂ろうのろうそく」ミツバチ科学(17)(1),43-45. hdl:11078/591.
  8. 株式会社セラリカNODA(1995)「ミツロウ」ミツバチ科学(16)(7),163-166. hdl:11078/575.
  9. 樋口 彰, 他(2019)「ミツロウ」食品添加物事典 新訂第二版,349.
  10. 日本医薬品添加剤協会(2021)「ミツロウ」医薬品添加物事典2021,629-630.
  11. 田村 健夫・廣田 博(2001)「ロウ類」香粧品科学 理論と実際 第4版,100-107.
  12. 田村 健夫・廣田 博(2001)「脱毛剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,509-511.
  13. 角田 依子(2003)「脱毛剤」化粧品事典,589.
  14. abcR.L. Elder(1984)「Final Report on the Safety Assessment of Candelilla Wax, Carnauba Wax, Japan Wax, and Beeswax」Journal of the American College of Toxicology(3)(3),1-41. DOI:10.3109/10915818409010515.

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