結晶セルロースの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 結晶セルロース |
---|---|
医薬部外品表示名 | 結晶セルロース |
INCI名 | Microcrystalline Cellulose |
配合目的 | 感触改良、結合、乳化安定化、研磨・スクラブ など |
1. 基本情報
1.1. 定義
セルロースの結晶部分であり、以下の化学式で表されるグルコースがβ-1,4結合したβ-グルカンかつセルロース系水溶性高分子です(∗1)[1a][2][3]。
∗1 天然セルロースは、構造的に分子が比較的規則正しく並列に配列している結晶領域と分子配列が乱れている非結晶領域とから構成されており、一般に60%程度が結晶領域として存在しています[4]。結晶セルロースはセルロースの非結晶領域を除去し結晶部分のみで構成されたセルロースですが、化学的にセルロースそのものであり、化学構造もセルロースと同様です。
1.2. 物性
セルロースは、親水性であるヒドロキシ基(-OH)を多くもっており、一次構造的には水に溶けてもおかしくありませんが、ヒドロキシ基同士で強固な分子内・分子間水素結合を形成するため結晶性が発現し、セルロース分子間に水が入り込めないことから水はもちろん一般的な有機溶媒にも溶解しないことが知られています[5]。
結晶セルロースは、セルロースの非結晶領域を除去し結晶部分のみで構成されたセルロースであることから、セルロース同様に水や有機溶媒に不溶です。
1.3. 分布
結晶セルロースはセルロースの結晶部分であることから、自然界において植物の細胞壁構成成分として存在しています[6]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
結晶セルロースの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 水や油の吸着および保持性に優れているため、製造工程において粉末食品の流動性の改良や液体食品の粉末化にとして用いられています[7]。 |
医薬品 | 安定・安定化、滑沢、基剤、結合、懸濁・懸濁化、コーティング、糖衣、軟化、賦形、分散、崩壊・崩壊補助、流動化目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、歯科外用剤および口中用剤に用いられています[8]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 展延性による感触改良
- 結合
- 乳化安定化
- 研磨・スクラブ
主にこれらの目的でメイクアップ製品、化粧下地製品、ボディケア製品、ピーリング製品、洗顔料、スキンケア製品、ヘアカラー製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 展延性による感触改良
展延性による感触改良に関しては、結晶セルロースは多孔性粒子(∗2)であり、水を吸着・保持することにより粉体の流動性を高め、約10μm程度の粒径でなめらかな感触を付与することから粉体の感触を調整する目的で粉体系メイクアップ製品に使用されています[9a][10a]。
∗2 多孔性粒子とは、多数の細孔(小さなあな)の空いている粒子のことです。
2.2. 結合
結合に関しては、結晶セルロース粉体は独特の不定形な粒子形状をしているため、圧縮成形時に低打圧でも容易に粒子の絡み合いを生じ、平滑でツヤのある硬い成形物となることから、粉体原料同士を皿状容器に圧縮成型するときの結合目的で主にパウダー系メイクアップ製品などに用いられます[9b][10b]。
2.3. 乳化安定化
乳化安定化に関しては、結晶セルロースは水に溶解しませんが、棒軸状粒子が絡み合うことで粘度を発現し、さらに水・油界面に吸着することで安定な乳化状態を形成することから、製品の乳化安定化目的で様々な製品に使用されています[1c][10c]。
2.4. 研磨・スクラブ
研磨・スクラブに関しては、結晶セルロースは水や油を吸着する多孔性粒子であり、粒径200-700μmにした球状ビーズが物理的に皮膚の汚れや古い角質を吸着・除去するスクラブ剤として洗顔料、ピーリング製品、ボディケア製品などに使用されています[1d][10d][11]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2009年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
食品添加物の既存添加物リスト、日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃abcd日本化粧品工業連合会(2013)「結晶セルロース」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,388.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「セルロース」化学大辞典,1275-1276.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「セルロース」有機化合物辞典,512.
- ⌃山本 恵司(1983)「製剤における糖類の利用」ファルマシア(19)(12),1268-1273. DOI:10.14894/faruawpsj.19.12_1268.
- ⌃山根 千弘・岡島 邦彦(2003)「溶解と成型」セルロースの科学,67-80.
- ⌃磯貝 明(2001)「セルロースとはなにか」セルロースの材料科学,ⅰ-ⅵ.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「微結晶セルロース」食品添加物事典 新訂第二版,278.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「結晶セルロース」医薬品添加物事典2021,220-222.
- ⌃ab坂元 昭宏(1992)「工業用添加剤としての結晶セルロース」繊維学会誌(48)(10),561-565. DOI:10.2115/fiber.48.10_P561.
- ⌃abcd旭化成工業株式会社(2000)「結晶セルロース(アビセル,セオラス)の化粧品への応用」Fragrance Journal(28)(7),93-96.
- ⌃大東化成工業株式会社(2015)「Cellulobeads MC」Technical Data Sheet.