ステアロイルメチルタウリンNaの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ステアロイルメチルタウリンNa |
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医薬部外品表示名 | N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム |
部外品表示簡略名 | ステアロイルメチルタウリンNa |
INCI名 | Sodium Methyl Stearoyl Taurate |
配合目的 | 乳化、安定化(未分類) |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるステアリン酸とN-メチルタウリン(∗1)との縮合物のナトリウム塩であり、タウリン系界面活性剤のアシルメチルタウリン塩(Acyl Methyl Taurate:AMT)に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です[1]。
∗1 アミノ酸は、化学的にアミノ基とカルボキシ基の両方の官能基を持つ有機化合物の総称であり、タウリンは化学構造としてカルボキシ基を持たないことから厳密にはアミノ酸ではなく、したがってメチルタウリンと高級脂肪酸塩を骨格とする陰イオン界面活性剤は、厳密にはアミノ酸系界面活性剤ではないといえます。ただし、タウリンは体内では含硫アミノ酸であるシステイン代謝により生合成されることから、栄養学をはじめタウリンを含硫アミノ酸に分類していることも多く、そういった背景からアミノ酸系界面活性剤として説明されていることもあります。
1.2. 性状
ステアロイルメチルタウリンNaの性状は、
状態 | 白-淡黄色の粉末 |
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このように報告されています[2a]。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性乳化
- 電解質を含むO/Wエマルションにおける粘度低下防止
主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、クレンジング製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、マスク製品、カラートリートメント製品、ヘアスタイリング製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性乳化
親水性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[3][4]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[5]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[6]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[7][8a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[8b]。
ステアロイルメチルタウリンNaの乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
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O/W型乳化 | –(∗2) |
∗2 非イオン性界面活性剤のHLBは0-20の間にありますが、陰イオンおよび陽イオン性界面活性剤は、一般的に単位質量あたりの親水基が非イオン界面活性剤よりもずっと大きく、また親水基の種類によって単位質量あたりの親水性の大きさが異なるため、いまのところHLBを計算する方法がなく、20以上の数値で表されます[9]。ただし、ステアロイルメチルタウリンNaのHLBがみつからなかったため、現時点においては不明とし、見つかり次第追補します。
このように報告されており[2b][10a]、親水性乳化剤として主にスキンケア製品、メイクアップ製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、クレンジング製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、マスク製品、カラートリートメント製品など様々な製品に使用されています。
ステアロイルメチルタウリンNaは陰イオン性界面活性剤であり、電解質(∗3)との相性が良く、電解質を含む乳化物においてエマルションの表面電位を高めることによって乳化安定性を高めることから[10b][11a][12]、主にビタミンC誘導体、アミノ酸類およびPCA類(∗4)といった電解質を含む製品の乳化剤として使用されています。
∗3 電解質とは、水に溶けると電気を通す物質(イオン)のことであり、電解質をO/Wエマルション製剤に多量に配合すると、乳化粒子が凝集するため保存安定性が著しく損なわれることから、電解質を含む乳化には技術的考慮または電解質と相性の良い乳化剤が必要になります[11b]。
∗4 保湿成分であり、NMF成分であるPCA-Naが代表的なPCA類です。
2.2. 電解質を含むO/Wエマルションにおける粘度低下防止
電解質を含むO/Wエマルションにおける粘度低下防止に関しては、一般にO/Wエマルションに電解質が存在すると、界面電荷が低下するため、内油相が凝集(∗5)を起こし、粘度が低下することが知られており、ステアロイルメチルタウリンNaを乳化剤としたO/W型エマルションにおいては最適な電解質濃度の場合に粘度の低下が起こらないことが明らかにされています[10c]。
∗5 凝集とは、分散していた粒子や溶けたりしていたもの(溶質)が、集まって固まる現象のことです。
このような背景から、電解質を含むO/W型エマルションの粘度低下防止目的で主に乳化系製品に使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
ステアロイルメチルタウリンNaは混合原料が開発されており、ステアロイルメチルタウリンNaと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | NIKKOL ニコムルス LH |
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構成成分 | グリセリン、水添レシチン、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクワラン、ステアロイルメチルタウリンNa |
特徴 | ほとんどの油性成分を乳化し、チキソトロピー性を有し、耐塩性に優れた複合O/W型乳化剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗6)。
∗6 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:安全に使用可能(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下の中で非刺激性になるよう配合される場合において一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
試験データはみあたりませんが、医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらず、現在の使用法および化粧品配合濃度において安全であると結論付けられていることから[13]、現在の使用法および化粧品配合濃度において安全に使用できると考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ステアロイルメチルタウリンNa」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,577.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2021)「その他」製品カタログ,43-44.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃藤本 武彦(2007)「界面活性剤の親水性と疎水性の関係(HLB)」界面活性剤入門,141-147.
- ⌃ab矢部 信良・紺野 義一(2004)「化粧品における電解質を含むO/Wエマルションのレオロジー」流体工学部門講演会講演論文集,314. DOI:10.1299/jsmefed.2004.90.
- ⌃ab小澤 祐子, 他(2010)「電解質を配合した超低粘性O/Wエマルション製剤の開発」日本化粧品技術者会誌(44)(1),34-40. DOI:10.5107/sccj.44.34.
- ⌃鈴木 敏幸(2010)「乳化技術の基礎 (相図とエマルション)」日本化粧品技術者会誌(44)(2),103-117. DOI:10.5107/sccj.44.103.
- ⌃L.C. Becker(2016)「Safety Assessment of Alkyl Taurate Amides and Taurate Salts as Used in Cosmetics(∗7)」, 2023年2月17日アクセス.
∗7 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。