ステアリン酸ポリグリセリル-10の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ステアリン酸ポリグリセリル-10 |
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医薬部外品表示名 | モノステアリン酸ポリグリセリル |
部外品表示簡略名 | ステアリン酸ポリグリセリル |
INCI名 | Polyglyceryl-10 Stearate |
配合目的 | 乳化 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるステアリン酸のカルボキシ基(-COOH)にポリグリセリン-10(∗1)のヒドロキシ基(-OH)を脱水縮合(∗2)したモノエステル(∗3)であり、多価アルコールエステル型のポリグリセリン脂肪酸エステルに分類される非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)です[1]。
∗1 複数の分子結合がまとまって機能する複合体を多量体(重合体)といいますが、ポリグリセリン-10とは10個のグリセリンがまとまって10量体(平均重合度10)として機能する重合体です。またギリシャ語で「10」を「デカ(deca)」といい、デカグリセリンともよばれます。
∗2 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。脂肪酸とアルコールのエステルにおいては、脂肪酸(R-COOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とアルコール(R-OH)のヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。
∗3 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。2基のエステル結合の場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。
1.2. 物性・性状
ステアリン酸ポリグリセリル-10の性状は、
状態 | 微黄色-淡黄色の粒またはペースト |
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また、一般に化粧品に使用されているモノステアリン酸ポリグリセリルの物性としては、
種類 | グリセリン重合数 | HLB(∗4) |
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ステアリン酸ポリグリセリル-2 | 2 | 親油性 |
ステアリン酸ポリグリセリル-4 | 4 | |
ステアリン酸ポリグリセリル-5 | 5 | 親水性 |
ステアリン酸ポリグリセリル-6 | 6 | |
ステアリン酸ポリグリセリル-10 | 10 |
∗4 詳しくは後述しますが、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標であり、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなります。同じ付加モル数であっても実際のHLB値は原料会社によって異なるため、ここではグリセリン付加モル数による親油・親水性の傾向のみを記載しています。
これらの種類があり、親水性であるグリセリンの重合数が多いほど親水性が大きくなるため[5]、原料や製品の特性に合わせて最適なグリセリン重合数のモノステアリン酸ポリグリセリルが使用されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性乳化
主にこれらの目的で、スキンケア製品、クレンジング製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、マスク製品、洗顔料、シャンプー製品、ヘアスタイリング製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性乳化
親水性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[6][7]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[8]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[9]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[10][11a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[11b]。
ステアリン酸ポリグリセリル-10の乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
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O/W型乳化 | 12.0[2b], 14.0[4b], 17.5[3b] |
このように報告されており、親水性乳化剤としてスキンケア製品、クレンジング製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、マスク製品、洗顔料、シャンプー製品、ヘアスタイリング製品など様々な製品に汎用されています。
3. 混合原料としての配合目的
ステアリン酸ポリグリセリル-10は混合原料が開発されており、ステアリン酸ポリグリセリル-10と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | NIKKOL Decaglyn 1-50SV | HLB | 15.0 |
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構成成分 | ステアリン酸ポリグリセリル-10、ポリグリセリン-10 | ||
特徴 | 親水性乳化剤 |
原料名 | HELIOGEL |
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構成成分 | リン脂質、ヒマワリ種子油、アクリレーツコポリマーNa、水添ポリイソブテン、ステアリン酸ポリグリセリル-10 |
特徴 | べたつき感のない優れた質感のジェルクリームを調製する、ヒマワリ由来のリン脂質及びヒマワリ種子油を配合した乳化作用を併せもつゲル化剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2014-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12a]によると、
- [ヒト試験] 48名の被検者に10%ステアリン酸ポリグリセリル-10を対象に48時間閉塞パッチ試験を実施し、パッチ除去1および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者も皮膚刺激反応はみられなかった(Nikko Chemicals Co., Ltd.,2016)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12b]によると、
- [動物試験] ウサギ角膜上皮由来細胞(SIRC細胞)に最大1,000mg/Lステアリン酸ポリグリセリル-10を曝露した後、72時間培養後のSIRC細胞の細胞生存率を評価指標として、眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤であった(Nikko Chemicals Co., Ltd.,2016)
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ステアリン酸ポリグリセリル-10」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,567-568.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2021)「ポリグリセリン脂肪酸エステル」製品カタログ,27-28.
- ⌃ab太陽化学株式会社(2018)「高機能ポリグリセリン脂肪酸エステル」化粧品・トイレタリー向け原料.
- ⌃ab日清オイリオグループ株式会社(2018)「乳化剤」化粧品原料製品カタログ,4.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「ポリグリセリン脂肪酸エステル」新化粧品原料ハンドブックⅠ,235-236.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃abM.M. Fiume & B. Heldreth(2016)「Safety Assessment of Polyglyceryl Fatty Acid Esters as Used in Cosmetics(∗5)」, 2022年12月16日アクセス.
∗5 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。