ステアレス-2の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ステアレス-2 |
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医薬部外品表示名 | ポリオキシエチレンステアリルエーテル |
部外品表示簡略名 | POEステアリルエーテル |
INCI名 | Steareth-2 |
配合目的 | 乳化 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるステアリルアルコールに酸化エチレン(約2モル)をエーテル結合して得られるエーテルであり、酸化エチレン縮合型のポリオキシエチレンアルキルエーテルに分類される非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)です[1]。
1.2. 物性・性状
ステアレス-2の性状は、
状態 | 白-微黄色の固体 |
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また、一般に化粧品に使用されているポリオキシエチレンステアリルエーテルの物性としては、
種類 | 平均酸化エチレン付加モル数 | HLB(∗1) |
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ステアレス-2 | 2 | 親油性 |
ステアレス-3 | 3 | |
ステアレス-8 | 8 | 親水性 |
ステアレス-10 | 10 | |
ステアレス-11 | 11 | |
ステアレス-15 | 15 | |
ステアレス-20 | 20 | |
ステアレス-21 | 21 |
∗1 詳しくは後述しますが、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標であり、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなります。同じ付加モル数であっても実際のHLB値は原料会社によって異なるため、ここでは付加モル数による親油・親水性の傾向のみを記載しています。
これらの種類があり、酸化エチレンの付加モル数が多いほど親水性が大きくなるため[5]、原料や製品の特性に合わせて最適なモル数のポリオキシエチレンステアリルエーテルが使用されています。
1.3. 化粧品以外の主な用途
ステアレス-2の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 安定・安定化、界面活性剤、基剤、乳化目的の医薬品添加剤として外用剤などに用いられています[6]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親油性乳化
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、ヘアスタイリング製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親油性乳化
親油性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[7][8]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[9]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[10]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[11][12a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[12b]。
ステアレス-2の乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
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W/O型乳化 | 4.0[3b], 4.9[4b][13], 8.0[2b] |
このように報告されており、親油性乳化剤として主にスキンケア製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、ヘアスタイリング製品などに使用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 1960年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14a][15]によると、
- [ヒト試験] 200名の被検者に60%ステアレス-2水溶液を単回適用し、適用後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚反応はみられず、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1974)
- [ヒト試験] 20名の被検者の健常な皮膚およびバリア機能を低下させた皮膚に5%ステアレス-2、ステアレス-10およびステアレス-21混合物を含むミネラルオイル溶液を48時間適用し、パッチ除去24時間後に試験部位の皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても健常な試験部位およびバリア機能を低下させた試験部位で皮膚刺激は認められなかった(E. Barany et al,2000)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14b]によると、
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に60%ステアレス-2水溶液を点眼し、一部の眼はすすぎ、残りの眼はすすがず、眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、非洗眼群のスコアは3.3で最小限の眼刺激を示し、洗眼群のスコアは0.02で眼刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1974)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に40%ステアレス-2水溶液を点眼し、一部の眼はすすぎ、残りの眼はすすがず、眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、非洗眼群のスコアは0.3、洗眼群のスコアは0.02でどちらも眼刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1974)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に10%ステアレス-2水溶液を点眼し、一部の眼はすすぎ、残りの眼はすすがず、眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、非洗眼群のスコアは0.3、洗眼群のスコアは0.02でどちらも眼刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1974)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
医薬品添加物規格2018および医薬部外品原料規格2021に収載されており、1960年代からの使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ステアレス-2」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,570-571.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2021)「ポリオキシエチレンアルキルエーテル(1)」製品カタログ,37-38.
- ⌃ab日本エマルジョン株式会社(2018)「ポリオキシエチレンステアリルエーテル」EMALEX Amiter & Pyroter,1-2.
- ⌃abCroda Inc(2010)「Ethoxylated Fatty Alcohols」Personal Care Product Guide,19.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「酸化エチレン縮合型」香粧品科学 理論と実際 第4版,143-146.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ポリオキシエチレンステアリルエーテル」医薬品添加物事典2021,577-578.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃日油株式会社(2019)「ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル」化粧品用・医薬品用製品カタログ,57-59.
- ⌃abR.L. Elder(1988)「Final Report on the Safety Assessment of Steareth-2, -4, -6, -7, -10, -11, -13, -15, and -20(∗3)」Journal of the American College of Toxicology(7)(6),881-910.
∗3 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。 - ⌃M.M. Fiume, et al(2012)「Safety Assessment of Alkyl PEG Ethers as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(31)(5_suppl),169S-244S. DOI:10.1177/1091581812444141.