ステアロイルラクチレートNaの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ステアロイルラクチレートNa |
---|---|
医薬部外品表示名 | ステアロイル乳酸ナトリウム |
部外品表示簡略名 | ステアロイルラクチレートNa |
INCI名 | Sodium Stearoyl Lactylate |
配合目的 | 乳化 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるステアリン酸と乳酸とのエステルのナトリウム塩であり、アシル乳酸塩(Acyl Lactate:AL)に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です[1]。
1.2. 性状
ステアロイルラクチレートNaの性状は、
状態 | 白-淡黄色の固体または粉末 |
---|
1.3. 化粧品以外の主な用途
ステアロイルラクチレートNaの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 乳化剤として使用されています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性乳化
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性乳化
親水性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[5][6]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[7]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[8]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[9][10a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[10b]。
ステアロイルラクチレートNaの乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
---|---|
O/W型乳化 | 9.5[2b] |
このように報告されており、親水性乳化剤として、また陰イオン性により液滴の周りにシェルを形成しエマルションを安定化する目的として[11]、主にスキンケア製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品など様々な製品に使用されています。
ステアロイルラクチレートNaは、主に表皮のラメラ層を形成するように調整されたセラミドのプレミックス原料に配合されていることから、セラミドNG(セラミド2)、セラミドNP(セラミド3)のいずれかまたはセラミドAP(セラミド6Ⅱ)を含むすべてと一緒に化粧品成分一覧に記載されている場合は、セラミドプレミックスによる配合であると考えられます。
3. 混合原料としての配合目的
ステアロイルラクチレートNaは混合原料が開発されており、ステアロイルラクチレートNaと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | NIKKOL セラリピッド2 |
---|---|
構成成分 | セラミドNG、ステアロイルラクチレートNa、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-10、ベヘニルアルコール |
特徴 | 水中でラメラ層を形成する安定なセラミド2配合物 |
原料名 | NIKKOL セラリピッド3 |
---|---|
構成成分 | セラミドNP、ステアロイルラクチレートNa、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-10、ベヘニルアルコール |
特徴 | 水中でラメラ層を形成する安定なセラミド3配合物 |
原料名 | NIKKOL セラリピッド PI236 |
---|---|
構成成分 | セラミドNG、セラミドNP、セラミドAP、イソステアリン酸フィトステリル、ベヘニルアルコール、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-10、ステアロイルラクチレートNa |
特徴 | 水中でラメラ層を形成する安定なセラミド2、3、6Ⅱ、イソステアリン酸フィトステリル配合物 |
原料名 | NIKKOL セラリピッド PS236 |
---|---|
構成成分 | セラミドNG、セラミドNP、セラミドAP、フィトスフィンゴシン、ベヘニルアルコール、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-10、ステアロイルラクチレートNa |
特徴 | 水中でラメラ層を形成する安定なセラミド2、3、6Ⅱ、フィトスフィンゴシン配合物 |
原料名 | NIKKOL ニコムルス41 |
---|---|
構成成分 | ベヘニルアルコール、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-10、ステアロイルラクチレートNa |
特徴 | 優れたウォータープルーフ効果や持続性の保湿効果を有し、ゲルネットワーク構造を形成するO/W型乳化剤 |
原料名 | Emulium Kappa MB | HLB | 11.0 |
---|---|---|---|
構成成分 | (キャンデリラ/ホホバ/コメヌカ)ポリグリセリル-3エステルズ、ステアリン酸グリセリル、セテアリルアルコール、ステアロイルラクチレートNa | ||
特徴 | 独特なクッション性とリッチでクリーミーな感触をもち、保湿効果に優れた乳化物を作るO/W型乳化剤 |
原料名 | Instathix |
---|---|
構成成分 | キサンタンガム、ステアロイルラクチレートNa、タピオカデンプン、アルギン酸Na |
特徴 | 乳化、増粘、安定化および感触向上の4つの機能を併せ持つ100%天然成分由来の混合原料 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗1)。
∗1 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12a]によると、
- [動物試験] ウサギに未希釈のステアロイルラクチレートNaを対象に皮膚刺激性試験を実施し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-4.0のスケールで皮膚刺激性を評価したところ、PIIは0.5であった(L.J. Murphy et al,1978)
- [動物試験] 6匹のウサギに未希釈のステアロイルラクチレートNaを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ適用24および72時間後に皮膚反応を評価したところ、24時間で無傷の5箇所および擦過した5箇所にわずかな紅斑がみられ、72時間で無傷の1箇所および擦過した1箇所に非常にわずかな紅斑がみられた。PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-4.0のスケールで皮膚刺激性を評価したところ、PIIは0.5であり、この試験物質は皮膚一次刺激剤および腐食剤ではなかった(International Bio-Research Inc,1974)
このように、試験データをみるかぎり未希釈で皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に未希釈のステアロイルラクチレートNaを適用し、眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(L.J. Murphy et al,1978)
>
このように、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12c]によると、
- [動物試験] 20匹のモルモットに1.5%ステアロイルラクチレートNaを含むシリコーン消泡剤水溶液0.5mLを対象に皮膚感作性試験(Buehler法)を実施したところ、試験期間においていずれのモルモットの皮膚感作反応はなく、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(Research Toxicology Centre S.p.A,1995)
– 個別事例 –
- [個別事例] 掌蹠膿疱症および手足に慢性皮膚炎を有する女性患者は、自身が使用していた化粧品を成分単位でパッチテストしたところ、5%ステアロイルラクチレートNaを含むワセリンを対象としたパッチテストにおいて陽性反応を示したため、2%ステアロイルラクチレートNaを含むワセリンで再テストしたところ、+の反応が観察された(C.D. Jensen et al,2005)
このように、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
ただし、個別事例として一例の皮膚感作事例が報告されています。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ステアロイルラクチレートNa」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,577-578.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2021)「その他」製品カタログ,43-44.
- ⌃RITA Corporation(2013)「PATIONIC SSL」Specifications.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「ステアロイル乳酸ナトリウム」食品添加物事典 新訂第二版,198.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃Dr. Straetmans GmbH(2013)「dermofeel SL」Product Information.
- ⌃abcW. Johnson Jr(2019)「Safety Assessment of Alkanoyl Lactyl Lactate Salts as Used in Cosmetics(∗2)」, 2023年2月13日アクセス.
∗2 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。