ラウロイルラクチレートNaの基本情報・配合目的・安全性

公開日:2023年2月12日  最終更新日:2023年02月20日

ラウロイルラクチレートNa

化粧品表示名 ラウロイルラクチレートNa
医薬部外品表示名 ラウロイル乳酸ナトリウム
部外品表示簡略名 ラウロイルラクチレートNa
INCI名 Sodium Lauroyl Lactylate
配合目的 乳化、起泡補助
  1. 基本情報
    1. 定義
    2. 性状
  2. 化粧品としての配合目的
    1. 親水性乳化
    2. 起泡力および泡密度増強
  3. 混合原料としての配合目的
  4. 配合製品数および配合量範囲
  5. 安全性評価
    1. 皮膚刺激性
    2. 眼刺激性
    3. 皮膚感作性（アレルギー性）
  6. 参考文献

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるラウリン酸と乳酸の二量体(∗1)とのエステルのナトリウム塩であり、アシル乳酸塩（Acyl Lactate：AL）に分類される陰イオン性界面活性剤（アニオン性界面活性剤）です[1]。

∗1 二量体とは、2つの同種の分子または単量体がまとまった物質のことをいいます。

ラウロイルラクチレートNa

1.2. 性状

ラウロイルラクチレートNaの性状は、

状態 粘性液体またはソフトワックス

このように報告されています[2][3a]。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 親水性乳化
  • 起泡力および泡密度増強

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、洗顔料、コンディショナー製品、シャンプー製品、クレンジング製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 親水性乳化

親水性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。

乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴（乳化粒子）となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[4][5]。

そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴（乳化粒子）として他の液体中に分散している乳化物をエマルション（emulsion）といい[6]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、

エマルションの基本構造

水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型（Oil in Water type：水中油滴型）と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型（Water in Oil type：油中水滴型）があります[7]。

身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。

次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[8][9a]。

このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB（hydrophile-lipophile-balance：親水性-親油性バランス）が提案・提唱されており、以下の図のように、

界面活性剤のHLB値とその作用、水への分散・溶解の挙動

HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[9b]。

ラウロイルラクチレートNaの乳化の特徴は、

乳化の種類 HLB
O/W型乳化 14.4[10a]

このように報告されており[3b]、軽くなめらかな感触を付与する親水性乳化剤としてスキンケア製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、洗顔料、コンディショナー製品、シャンプー製品、クレンジング製品など様々な製品に汎用されています。

ラウロイルラクチレートNaは、主に表皮のラメラ層を形成するように調整されたセラミドのプレミックス原料として配合されていることから[11]、セラミドNP（セラミド3）、セラミドAP（セラミド6Ⅱ）およびセラミドEOP（セラミド1）と一緒に化粧品成分一覧に記載されている場合は、セラミドプレミックスによる配合であると考えられます。

2.2. 起泡力および泡密度増強

起泡力および泡密度増強に関しては、ラウロイルラクチレートNaは洗浄剤の起泡力および泡密度を増強することから[3c][10b]、主にシャンプー製品、洗顔料などに使用されています。

3. 混合原料としての配合目的

ラウロイルラクチレートNaは混合原料が開発されており、ラウロイルラクチレートNaと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 Pureact 138
構成成分 デシルグルコシド、ラウロイルラクチレートNa
特徴 非常にマイルドでリッチな泡を形成する混合界面活性剤
原料名 SK-INFLUX V MB
構成成分 セラミドNP、セラミドAP、セラミドEOP、フィトスフィンゴシン、コレステロール、ラウロイルラクチレートNa、カルボマー、キサンタンガム
特徴 ヒト皮膚同一型脂質の混合物

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。

∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品（スキンケア製品やメイクアップ製品など）を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品（シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど）を指します。

ラウロイルラクチレートNaの配合製品数と配合量の比較調査結果（2017-2019年）

5. 安全性評価

ラウロイルラクチレートNaの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 15年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性：ほとんどなし-軽度
  • 眼刺激性：ほとんどなし
  • 皮膚感作性（アレルギー性）：ほとんどなし-弱い皮膚感作を引き起こす可能性あり（ただし詳細は解説を参照のこと）

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下の中で非刺激性になるよう配合される場合において一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12a]によると、

  • [ヒト試験] 25名の被検者に2%ラウロイルラクチレートNaを含む軟膏を対象に皮膚刺激性試験を実施したところ、10名の被検者は偽陽性反応（おそらく刺激反応）を示し、残りの15名は皮膚反応を示さなかった（C.D. Jensen et al,2005）
  • [ヒト試験] 26名の被検者に5%ラウロイルラクチレートNaを含む軟膏を対象に皮膚刺激性試験を実施したところ、14名の被検者は偽陽性反応（おそらく刺激反応）を示し、1名は+の皮膚反応を示し、残りの11名は皮膚反応を示さなかった（C.D. Jensen et al,2005）

このように、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に未希釈のラウロイルラクチレートNa0.1gを適用し、眼刺激性を評価したところ、3匹に軽度の結膜炎がみられたが、この試験物質は非刺激剤に分類された（International Bio-Research Inc,1974）

このように、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

5.3. 皮膚感作性（アレルギー性）

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12c]によると、

  • [動物試験] LLNA（局所リンパ節試験）において、4匹のマウスの右耳に2.5%,5%,10%,25%および50%ラウロイルラクチレートNa溶液を1,2および3日目に塗布し、6日目に耳介リンパ節を摘出し、皮膚感作性を評価したところ、この試験物質は弱感作性物質に分類された（D.A. Basketter et al,2007）
  • [動物試験] 15匹のモルモットに0.5%ラウロイルラクチレートNaを対象にMaximization皮膚感作性試験をOECD406テストガイドラインに基づいて実施したところ、この試験物質は弱感作剤であった（D.A. Basketter et al,2007）

このように、試験データをみるかぎり弱い皮膚感作が報告されているため、一般に皮膚感作性は非感作-弱い皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。

ただし、ラウロイルラクチレートNaが皮膚感作を誘発する可能性については、製品の適用領域を含む多くの要因によって異なることから、最終的な処方後の製品自体の感作誘発性を評価する必要があるり、現在の化粧品配合量および通常使用下において安全に使用できると結論付けられています[12d]。

また、15年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないこともラウロイルラクチレートNaの現在の化粧品配合量および通常使用下における安全性を裏付けていると考えられます。

6. 参考文献

  1. ⌃日本化粧品工業連合会（2013）「ラウロイルラクチレートNa」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1059-1060.
  2. ⌃RITA Corporation（2014）「RITALAC 138C」Specifications.
  3. ⌃abcAlzo International Inc.（-）「Dermol SLLC-L」Technical Data Sheet.
  4. ⌃薬科学大辞典編集委員会（2013）「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
  5. ⌃鈴木 敏幸（2003）「乳化」化粧品事典,638-639.
  6. ⌃鈴木 敏幸（2003）「エマルション」化粧品事典,356.
  7. ⌃田村 健夫・廣田 博（2001）「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
  8. ⌃鈴木 敏幸（2003）「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
  9. ⌃ab野々村 美宗（2015）「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
  10. ⌃abCorbion N.V.（2017）「ESTERLAC Emulsifers」Product Catalog.
  11. ⌃Dr. Wim van der Wilden, 他（1999）「皮膚と同一の脂質混合物」Fragrance Journal(27)(10),71-74.
  12. ⌃abcdW. Johnson Jr（2019）「Safety Assessment of Alkanoyl Lactyl Lactate Salts as Used in Cosmetics(∗3)」, 2023年2月12日アクセス.
    ∗3 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。

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