ポリソルベート20の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ポリソルベート20 |
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医薬部外品表示名 | モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) |
部外品表示簡略名 | ラウリン酸POE(20)ソルビタン |
INCI名 | Polysorbate 20 |
配合目的 | 乳化、可溶化 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるソルビトールと無水ソルビトールのモノラウリン酸エステルの混合物に酸化エチレン(約20モル)を付加重合したものであり、酸化エチレン縮合型のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルに分類される非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)です[1]。
1.2. 性状
ポリソルベート20の性状は、
状態 | 微黄色-黄色の液体 |
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このように報告されています[2a][3a][4a][5a]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
ポリソルベート20の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 乳化剤として使用されています[6]。 |
医薬品 | 安定・安定化、界面活性剤、懸濁・懸濁化、乳化、分散、溶解補助、湿潤目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、静脈内注射、皮下注射、歯科外用および口中用剤などに用いられています[7]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性乳化
- 可溶化
主にこれらの目的で、スキンケア製品、マスク製品、メイクアップ製品、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディケア製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、洗顔料、ハンドケア製品、フレグランス製品、ヘアカラー製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性乳化
親水性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[8][9]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[10]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[11]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[12][13a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[13b]。
ポリソルベート20の乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
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O/W型乳化 | 16.7[3b][4b][14], 17.0[2b][5b] |
このように報告されており、親水性乳化剤としてスキンケア製品、マスク製品、メイクアップ製品、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディケア製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、洗顔料、ハンドケア製品、フレグランス製品、ヘアカラー製品など様々な製品に汎用されています。
2.2. 可溶化
可溶化に関しては、ポリソルベート20はHLB16.7-17.0の親水性乳化剤であり、可溶化作用をもつことから、一般に透明の水溶性基剤の中に香料、精油などの親油性物質を透明かつ均一に溶かし込む目的で使用されています[2c][4c][5c]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1981-1998年および2014-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗1)。
∗1 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15a]によると、
- [ヒト試験] 50名の被検者に100%ポリソルベート20を対象に72時間閉塞パッチ適用し、7日間の休息期間を設けた後に再度72時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激反応はみられなかった(L Schwartz,1970-1971)
- [ヒト試験] 10名の被検者に30%ポリソルベート20水溶液を対象に48時間閉塞パッチ適用し、7日間の休息期間を設けた後に再度48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激反応はみられなかった(Applied Research Labs,1970-1971)
- [ヒト試験] 19名の被検者に8.4%ポリソルベート20を含む製剤を対象に24時間単一閉塞パッチ試験を実施し、パッチ除去後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-4.0のスケールで皮膚刺激性を評価したところ、PIIは0.47であり、11名の被検者に軽度の皮膚刺激がみられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 18名の被検者に2%ポリソルベート20を含む製剤を対象に24時間単一閉塞パッチ試験を実施し、パッチ除去後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-4.0のスケールで評価したところ、PIIは0.08であり、2名の被検者に最小限の皮膚刺激がみられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1976)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15b]によると、
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に100%ポリソルベート20を点眼し、3匹は眼をすすぎ、6匹は眼をすすがず、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0-110のスケールで眼刺激性を7日目まで評価したところ、洗眼の有無にかかわらずPIIは0であり、この試験物質は非刺激剤に分類された(Atlas Toxicology Lab,1970-1971)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%ポリソルベート20を点眼し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0-110のスケールで眼刺激性を7日目まで評価したところ、1および2日目においてPIIは1および0であり、この試験物質は最小限の刺激剤に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に30%ポリソルベート20水溶液を点眼し、3匹は眼をすすぎ、6匹は眼をすすがず、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0-110のスケールで眼刺激性を7日目まで評価したところ、洗眼の有無にかかわらずPIIは0であり、この試験物質は非刺激剤に分類された(Atlas Toxicology Lab,1970-1971)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15c]によると、
- [ヒト試験] 197名の被検者に2.4%ポリソルベート20を含むシェービング製剤を対象に48時間開放および閉塞パッチを2週間にわたって適用(Schwartz-Peck prophetic patch test)し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1970)
- [ヒト試験] 99名の被検者に2%ポリソルベート20を含むスキンケア製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、最小限の皮膚刺激反応はみられたが、いずれの被検者においても皮膚感作の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1976)
- [ヒト試験] 98名の被検者に1%ポリソルベート20を含むシャンプー水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、最小限の皮膚刺激反応はみられたが、いずれの被検者においても皮膚感作の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 97名の被検者に0.084%ポリソルベート20を含むスキンケア製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は実質的に皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.4. 光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15d]によると、
- [ヒト試験] 101名の被検者に2.4%ポリソルベート20を含むシェービング製剤を対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても光感作の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1970)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光感作なしと報告されているため、一般に光感作性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ポリソルベート20」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,921-922.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2021)「ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル」製品カタログ,31-32.
- ⌃ab花王株式会社(2020)「レオドールTWシリーズ」花王の香粧品・医薬品原料,11-12.
- ⌃abcCroda Inc(2010)「Ethoxylated Sorbitan Esters」Personal Care Product Guide,16-17.
- ⌃abcエボニック・ジャパン株式会社(2019)「その他O/W乳化剤」Catalog of Product,18-19.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「ポリソルベート20」食品添加物事典 新訂第二版,337.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ポリソルベート20」医薬品添加物事典2021,597-598.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃日油株式会社(2019)「ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル」化粧品用・医薬品用製品カタログ,73-74.
- ⌃abcdR.L. Elder(1984)「Final Report on the Safety Assessment of Polysorbates 20, 21, 40, 60, 61, 65, 80, 81, and 85」Journal of the American College of Toxicology(3)(5),1-82. DOI:10.3109/10915818409021272.