ジステアリン酸PEG-150の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ジステアリン酸PEG-150 |
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医薬部外品表示名 | ジステアリン酸ポリエチレングリコール(1) |
部外品表示簡略名 | ジステアリン酸PEG-1 |
INCI名 | PEG-150 Distearate |
配合目的 | 乳化、増粘 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるステアリン酸2個に酸化エチレン(150モル)をエステル結合して得られるジエステル(∗1)であり、酸化エチレン縮合型のポリオキシエチレン脂肪酸エステル(∗2)に分類される非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)です[1]。
∗1 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。2基のエステル結合の場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。
∗2 分類名としては、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルとよばれることもあります。
1.2. 物性・性状
ジステアリン酸PEG-150の性状は、
状態 | 白-微黄色の固体 |
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また、一般に化粧品に使用されているジステアリン酸ポリエチレングリコールの物性としては、
種類 | 平均酸化エチレン付加モル数 | HLB(∗3) |
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ジステアリン酸PEG-150 | 150 | 親水性 |
ジステアリン酸PEG-190 | 190 | |
ジステアリン酸PEG-250 | 250 |
∗3 詳しくは後述しますが、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標であり、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなります。同じ付加モル数であっても実際のHLB値は原料会社によって異なるため、ここでは付加モル数による親油・親水性の傾向のみを記載しています。
酸化エチレンの付加モル数が多いほど親水性が高くなるため[4]、原料や製品の特性に合わせて最適なモル数のジステアリン酸ポリエチレングリコールが配合されます。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性乳化
- 増粘
主にこれらの目的で、シャンプー製品、洗顔料、クレンジング製品、スキンケア製品、ボディケア製品、ボディソープ製品、ヘアカラー製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性乳化
親水性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[6][7]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[8]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[9]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[10][11a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[11b]。
ジステアリン酸PEG-150の乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
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O/W型乳化 | 16.5[2b], 19.2[3b] |
このように報告されており、親水性乳化剤として主にクレンジング製品、スキンケア製品、ボディケア製品、ヘアカラー製品などに使用されています。
2.2. 増粘
増粘に関しては、ジステアリン酸PEG-150は独特の高い粘度調節効果を示すことから、増粘しにくい製品の粘度調整目的でシャンプー製品、ボディソープ製品などに使用されています[2c][3c][12]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1983年および1995-1996年および2014-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ジステアリン酸PEG-150」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,482.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2021)「ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(1)」製品カタログ,41-42.
- ⌃abc花王株式会社(2020)「エマノーンシリーズ」花王の香粧品・医薬品原料,15-16.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「高級アルコール酸化エチレン縮合物」香粧品科学 理論と実際 第4版,143-144.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「モノステアリン酸ポリエチレングリコール」医薬品添加物事典2021,681-682.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃Evonik Industries AG(2008)「Rewopal PEG 6000 DS A」Technical Data Sheet.