PEG-5フィトステロールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | PEG-5フィトステロール |
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医薬部外品表示名 | ポリオキシエチレンフィトステロール |
部外品表示簡略名 | POEフィトステロール |
INCI名 | PEG-5 Phytosterol |
配合目的 | 乳化 |
1. 基本情報
1.1. 定義
フィトステロールズに酸化エチレン(約5モル)をエーテル結合して得られるエーテルの混合物であり、酸化エチレン縮合型のポリオキシエチレンステリルエーテルに分類される非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)です[1]。
1.2. 物性・性状
PEG-5フィトステロールの性状は、
状態 | 白-淡黄色のペーストまたは固体 |
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また、一般に化粧品に使用されているポリオキシエチレンフィトステリルエーテルの物性としては、
種類 | 酸化エチレン付加モル数 | HLB(∗1) |
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PEG-5フィトステロール | 5 | 親油性 |
PEG-10フィトステロール | 10 | 親水性 |
PEG-20フィトステロール | 20 | |
PEG-30フィトステロール | 30 |
∗1 詳しくは後述しますが、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標であり、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなります。同じ付加モル数であっても実際のHLB値は原料会社によって異なるため、ここでは付加モル数による親油・親水性の傾向のみを記載しています。
これらの種類があり、酸化エチレンの付加モル数が多いほど親水性が大きくなるため[4]、原料や製品の特性に合わせて最適なモル数のポリオキシエチレンフィトステリルエーテルが使用されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親油性乳化
主にこれらの目的で、日焼け止め製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ハンドケア製品。ボディケア製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親油性乳化
親油性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[5][6]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[7]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[8]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[9][10a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[10b]。
PEG-5フィトステロールの乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
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W/O型乳化 | 7.0[3b] |
このように報告されており、親油性乳化剤として日焼け止め製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ハンドケア製品。ボディケア製品などに使用されています。
3. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です(∗2)。
∗2 ダイズステロールはフィトステロールズの一種であり、フィトステロールズとダイズステロールは組成もほぼ同様であることから、ここではPEG-5ダイズステロールの試験データをPEG-5フィトステロールに適用しています。
3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11a]によると、
- [ヒト試験] 12名の被検者に2%PEG-5ダイズステロールを含むマスカラを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激の兆候は認められなかった(Biosearch Incorporated,1992)
- [ヒト試験] 75名の被検者に2%PEG-5ダイズステロールを含むマスカラを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候は認められなかった(Biosearch Incorporated,1992)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
3.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に未希釈のPEG-5ダイズステロールを点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Henkel Corp,1995)
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に2%PEG-5ダイズステロールを含むアイライナー溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、1匹で最小限の発赤がみられたが、この反応は重要なものではなく、この試験物質は眼刺激剤ではないと結論付けられた(North American Science Associates Inc,1987)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
3.3. 光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11c]によると、
- [ヒト試験] 77名の被検者に0.75%PEG-5ダイズステロールを含むリキッドファンデーションを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じていずれの被検者においても光感作の兆候はみられなかった(Biosearch Incorporated,1991)
- [ヒト試験] 29名の被検者に2%PEG-5ダイズステロールを含むマスカラを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても光感作の兆候は認められなかった(Biosearch Incorporated,1992)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して光感作なしと報告されているため、一般に光感作性はほとんどないと考えられます。
4. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「PEG-5フィトステロール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,60.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2021)「ポリオキシアルキレンステロール」製品カタログ,35-36.
- ⌃ab日本エマルジョン株式会社(2018)「ポリオキシエチレンフィトステリルエーテル」EMALEX Amiter & Pyroter,5-6.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「酸化エチレン縮合型」香粧品科学 理論と実際 第4版,143-146.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃abcF.A. Andersen(2004)「Final Report of the Amended Safety Assessment of PEG-5, -10, -16, -25, -30, and -40 Soy Sterol」International Journal of Toxicology(23)(2_suppl),23-47. DOI:10.1080/10915810490499046.