PEG-10メチルエーテルジメチコンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | PEG-10メチルエーテルジメチコン |
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医薬部外品表示名 | ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 |
部外品表示簡略名 | POE・ジメチコン共重合体 |
INCI名 | PEG-10 Methyl Ether Dimethicone |
配合目的 | 乳化、ヘアコンディショニング など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるジメチコンの側鎖に存在すの一部に酸化エチレン(約10モル)を付加したジメチコン誘導体のメチルエーテルであり、シリコーン直鎖型のポリエーテル変性シリコーンに分類されるシリコーン系界面活性剤です[1]。
1.2. 性状
PEG-10メチルエーテルジメチコンの性状は、
状態 | 無色の液体 |
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このように報告されています[2]。
2. 化粧品としての配合目的
- シリコーン油の乳化
- なめらかさ向上によるヘアコンディショニング作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、洗顔石鹸、ボディケア製品、アウトバストリートメント製品、ヘアスタイリング製品、プレスタイリング製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. シリコーン油の乳化
シリコーン油の乳化に関しては、まず前提知識としてシリコーン油(シリコーンオイル)、乳化およびエマルションについて解説します。
シリコーン油とは、ケイ素(Si)と酸素(O)が化学結合により交互に連なったシロキサン結合を主骨格として構成された合成高分子化合物の総称であり、代表的なシリコーンかつPEG-3ジメチコンの主成分でもあるジメチコンは、直鎖状に伸びた Si-O-Si(シロキサン)主鎖に、側鎖として各ケイ素原子に2つのメチル基(-CH3)をもつ高分子化合物です。
シリコーン油は、炭化水素と比較して分子容積が大きく、主鎖の屈曲・回転が容易に起こり、化学反応性の低いメチル基で覆われていることから、安定性および柔軟性が高く、分子間力や表面張力が低いなどの特徴があります[3a]。
このような特徴から、肌表面への拡がり、撥水性(∗1)の付与、低表面張力などに起因する滑り性およびベタつきの防止などの効果が明らかにされており、1950年代から化粧品分野で汎用されています[3b]。
∗1 撥水性とは水をはじく性質のことです。
また、シリコーン油は乳化が困難なオイルであり、感触改良を目的に少量添加する場合はそれほど問題にならないものの、主成分として使用するためには安定な乳化が必要となり、安定に乳化させるためには一般的にポリエーテル変性シリコーンが用いられます[3c]。
次に、乳化とは互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[4][5]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[6]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[7]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[8][9a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[9b]。
PEG-10メチルエーテルジメチコンの乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
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Si/W型乳化 | 13.0[10a] |
このように報告されており、シリコーン油の乳化剤として主にスキンケア製品、洗顔石鹸、ボディケア製品、アウトバストリートメント製品、ヘアスタイリング製品、プレスタイリング製品などに使用されています。
2.2. なめらかさ向上によるヘアコンディショニング作用
なめらかさ向上によるヘアコンディショニング作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造と毛髪ダメージとその原因について解説します。
毛髪の構造については、以下の毛髪構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
キューティクル(毛小皮)とよばれる5-10層で重なり合った平らかつうろこ状の構造からなる厚い保護外膜が表面を覆い、キューティクル内部は紡錘状細胞から成り繊維体質の大部分を占めるコルテックス(毛皮質)およびメデュラ(毛髄質)とよばれる多孔質部分で構成されています[11a]。
また、細胞膜複合体(CMC:Cell Membrane Complex)がこの3つの構造を接着・結合しており、毛髪内部の水分保持や成分の浸透・拡散の主要通路としての役割を担っています[11b]。
これら毛髪構造の中でキューティクルは、摩擦、引っ張り、曲げ、紫外線への曝露などの影響による物理的かつ化学的劣化に耐性をもち、その配列が見た目の美しさや感触特性となります[12a]。
一方で、キューティクルはシャンプーや毎日の手入れなどの物理的要因、あるいはヘアアイロン、染毛・脱色、パーマなど化学的要因によるダメージに対して優れた耐性を有しているものの、以下の図をみてもらうとわかるように、
これらのダメージが重なり合い繰り返されるうちに劣化していき、最終的にキューティクルのめくれ上がりや毛髪繊維の弱化につながることが知られています[12b][13]。
このような背景から、損傷したキューティクルを平らに寝かせてなめらかにすることやツヤを向上させることは、毛髪の外観や感触の改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
PEG-10メチルエーテルジメチコンは、水溶性のシリコーングリコール共重合体であり、ポリエーテルの親水性によりしっとりとした感触を付与し、ドライ時のぱさつきを抑え、またウェット時のきしみを低減することから[10b]、ヘアコンディショニング剤として、主にアウトバストリートメント製品などに使用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
医薬部外品原料規格2021に収載されており、15年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「PEG-10メチルエーテルジメチコン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,62.
- ⌃ダウ・東レ株式会社(2021)「DOWSIL SS-2802」安全データシート.
- ⌃abc近藤 秀俊(2012)「パーソナルケア製品におけるシリコーンの利用」化学と教育(60)(7),318-319. DOI:10.20665/kakyoshi.60.7_318.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃abダウ・東レ株式会社(2020)「ポリエーテル変性シリコーン」ヘアケア用シリコーンセレクションガイド,4.
- ⌃abクラーレンス・R・ロビンス(2006)「毛形態学的構造および高次構造」毛髪の科学,1-68.
- ⌃abデール・H・ジョンソン(2011)「毛髪のコンディショニング」ヘアケアサイエンス入門,77-122.
- ⌃クラーレンス・R・ロビンス(2006)「シャンプー、髪の手入れ、ウェザリング(風化)による毛髪ダメージおよび繊維破断」毛髪の科学,293-328.