ラウレス-23の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ラウレス-23 |
---|---|
医薬部外品表示名 | ポリオキシエチレンラウリルエーテル |
部外品表示簡略名 | POEラウリルエーテル |
INCI名 | Laureth-23 |
配合目的 | 乳化、可溶化 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるラウリルアルコールに酸化エチレン(約23モル)をエーテル結合して得られるエーテルであり、酸化エチレン縮合型のポリオキシエチレンアルキルエーテルに分類される非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)です[1a]。
1.2. 物性・性状
ラウレス-23の性状は、
状態 | 白-微黄色の固体 |
---|
また、一般に化粧品に使用されているポリオキシエチレンラウリルエーテルの物性としては、
種類 | 平均酸化エチレン付加モル数 | HLB(∗1) |
---|---|---|
ラウレス-2 | 2 | 親油性 |
ラウレス-3 | 3 | 親水性 |
ラウレス-4 | 4 | |
ラウレス-7 | 7 | |
ラウレス-9 | 9 | |
ラウレス-21 | 21 | |
ラウレス-23 | 23 | |
ラウレス-25 | 25 | |
ラウレス-30 | 30 |
∗1 詳しくは後述しますが、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標であり、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなります。同じ付加モル数であっても実際のHLB値は原料会社によって異なるため、ここでは付加モル数による親油・親水性の傾向のみを記載しています。
これらの種類があり、酸化エチレンの付加モル数が多いほど親水性が大きくなるため[4]、原料や製品の特性に合わせて最適なモル数のポリオキシエチレンラウリルエーテルが使用されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性乳化
- 可溶化
主にこれらの目的で、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ヘアスタイリング製品、ボディケア製品、スキンケア製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性乳化
親水性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[5][6]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[7]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[8]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[9][10a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[10b]。
ラウレス-23の乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
---|---|
O/W型乳化 | 16.9[2b][3b] |
このように報告されており、親水性乳化剤としてシャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ヘアスタイリング製品、ボディケア製品、スキンケア製品などに使用されています。
2.2. 可溶化
可溶化に関しては、ラウレス-23はHLB16.9の親水性乳化剤であり[2c][3c]、可溶化作用をもつことから、一般に透明の水溶性基剤の中に香料や油性成分を透明かつ均一に溶かし込む目的で使用されています[1b]。
3. 混合原料としての配合目的
ラウレス-23は混合原料が開発されており、ラウレス-23と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | CERASYNT 945 |
---|---|
構成成分 | ステアリン酸グリセリル、ラウレス-23 |
特徴 | O/W型エマルションになる乳化剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1981年および2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11a]によると、
- [ヒト試験] 168名の被検者に25%ラウレス-23水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Food and Drug Research Laboratories,1982)
- [ヒト試験] 103名の被検者に3%ラウレス-23水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1982)
- [ヒト試験] 24名の被検者に2.5%ラウレス-23を含むデオドラント製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、3名の被検者にわずかな紅斑がみられたが、他の21名は皮膚反応を示さず、この製品は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの両眼に4%ラウレス-23を含む洗浄剤を点眼し、片眼を4秒後にすすぎ、もう片方の眼はすすがず、眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアは洗眼した眼において1時間で2.6、それ以後は0であり、非洗眼においては1および24時間で5.6および1.2であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11c]によると、
- [ヒト試験] 29名の被検者に25%ラウレス-23溶液を対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施し、紫外線照射については20名にUVAを、残りの9名にUVAおよびUVBを照射し、照射後に光感作性を評価したところ、この試験物質は光感作剤ではないと結論付けられた(Food and Drug Research Laboratories,1982)
- [ヒト試験] 27名の被検者に0.899%ラウレス-23を含むアイメイクアップ製品を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に処置部位および未処置部位にUVライトを30秒間照射した。照射後に光刺激性を評価したところ、いずれの被検者も皮膚反応を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ラウレス-23」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1043.
- ⌃abcCroda Inc(2010)「Ethoxylated Fatty Alcohols」Personal Care Product Guide,18-19.
- ⌃abc花王株式会社(2020)「エマルゲンシリーズ(1)」花王の香粧品・医薬品原料,13-14.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「酸化エチレン縮合型」香粧品科学 理論と実際 第4版,143-146.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃abcR.L. Elder(1983)「Final Report on the Safety Assessment of Laureths -4 and -23」Journal of the American College of Toxicology(2)(7),1-15. DOI:10.3109/10915818309141999.