ラウレス-4の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ラウレス-4 |
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医薬部外品表示名 | ポリオキシエチレンラウリルエーテル |
部外品表示簡略名 | POEラウリルエーテル |
INCI名 | Laureth-4 |
配合目的 | 乳化 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるラウリルアルコールに酸化エチレン(約4モル)をエーテル結合して得られるエーテルであり、酸化エチレン縮合型のポリオキシエチレンアルキルエーテルに分類される非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)です[1]。
1.2. 物性・性状
ラウレス-4の性状は、
状態 | 無色-微黄色の液体 |
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また、一般に化粧品に使用されているポリオキシエチレンラウリルエーテルの物性としては、
種類 | 平均酸化エチレン付加モル数 | HLB(∗1) |
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ラウレス-2 | 2 | 親油性 |
ラウレス-3 | 3 | 親水性 |
ラウレス-4 | 4 | |
ラウレス-7 | 7 | |
ラウレス-9 | 9 | |
ラウレス-21 | 21 | |
ラウレス-23 | 23 | |
ラウレス-25 | 25 | |
ラウレス-30 | 30 |
∗1 詳しくは後述しますが、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標であり、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなります。同じ付加モル数であっても実際のHLB値は原料会社によって異なるため、ここでは付加モル数による親油・親水性の傾向のみを記載しています。
これらの種類があり、酸化エチレンの付加モル数が多いほど親水性が大きくなるため[5]、原料や製品の特性に合わせて最適なモル数のポリオキシエチレンラウリルエーテルが使用されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性乳化
主にこれらの目的で、てシャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、メイクアップ製品、コンシーラー製品、化粧下地製品、ボディソープ製品、入浴剤などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性乳化
親水性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[6][7]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[8]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[9]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[10][11a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[11b]。
ラウレス-4の乳化の特徴は、
乳化の種類 | HLB |
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O/W型乳化 | 9.7[3a][4a][12], 11.5[2a] |
このように報告されており、親水性乳化剤としてシャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、メイクアップ製品、コンシーラー製品、化粧下地製品、ボディソープ製品、入浴剤などに汎用されています。
3. 混合原料としての配合目的
ラウレス-4は混合原料が開発されており、ラウレス-4と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Euperlan PK 3000 OK |
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構成成分 | ジステアリン酸グリコール、ラウレス-4、グリセリン、コカミドプロピルベタイン |
特徴 | グリコールジステアリン酸エステルを高濃度含有しメタル調の外観を付与するパール化剤 |
原料名 | Plantapon WW 1000 |
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構成成分 | ラウレス硫酸MIPA、ラウレス-4、コカミドDEA |
特徴 | 様々な極性の油性剤と良好な相溶性を示し、油性剤の存在下でも良好な泡立ちを付与する非水系界面活性剤ブレンド |
原料名 | Plantapon WW-CF |
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構成成分 | ラウレス硫酸MIPA、ラウレス-4、PG |
特徴 | 様々な極性の油性剤と良好な相溶性を示し、油性剤の存在下でも良好な泡立ちを付与する非水系界面活性剤ブレンド |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13a]によると、
- [ヒト試験] 50名の被検者に100%ラウレス-4を72時間閉塞パッチ適用し、1週間の休息期間を設けた後に再び72時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、いずれの被検者においても試験期間中に皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった。また別の10名に48時間で同様の試験を実施したところ、いずれの被検者においても試験期間中に皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(ICI Americas,1973)
- [ヒト試験] 10名の被検者に1.8%ラウレス-4を含むバスオイルを対象に10日間連続適用したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 25名の被検者に4%ラウレス-4を含むバスオイルを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの被検者においても遅延型皮膚感作の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの両眼に20%および10%ラウレス-4水溶液(pH4.5)を点眼し、片眼はすすぎ、残りの片眼はすすがず、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、濃度20%以下において非洗眼では最小限の眼刺激剤に、洗眼では非刺激剤にぞれぞれ分類された(ICI Americas,1973)
- [動物試験] 5匹のウサギの片眼に17%ラウレス-4を含むボディソープ製品をを点眼し、4秒後に眼をすすぎ、眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアは1および24時間後でそれぞれ33および5であり、それ以降は0であった(Food and Drug Research Laboratories,1981)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13c]によると、
- [ヒト試験] 10名の被検者に3.12%ラウレス-4を含むエタノール溶液を6時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に処置部位および未処置部位にUVAライトを12-15分間照射した。照射から0,24および48時間後に光刺激性を評価したところ、いずれの被検者も光刺激の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 10名の被検者に1.8%ラウレス-4を含むバスオイル対象に光感作性試験を伴うHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても光刺激および光感作の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ラウレス-4」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1040.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2021)「ポリオキシエチレンアルキルエーテル(1)」製品カタログ,37-38.
- ⌃abCroda Inc(2010)「Ethoxylated Fatty Alcohols」Personal Care Product Guide,18-19.
- ⌃ab花王株式会社(2020)「エマルゲンシリーズ(1)」花王の香粧品・医薬品原料,13-14.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「酸化エチレン縮合型」香粧品科学 理論と実際 第4版,143-146.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃日油株式会社(2019)「ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル」化粧品用・医薬品用製品カタログ,57-59.
- ⌃abcR.L. Elder(1983)「Final Report on the Safety Assessment of Laureths -4 and -23」Journal of the American College of Toxicology(2)(7),1-15. DOI:10.3109/10915818309141999.