(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマーの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | (アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマー |
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INCI名 | Ammonium Acryloyldimethyltaurate/VP Copolymer |
配合目的 | 乳化、増粘、感触改良 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるアクリロイルジメチルタウリン酸のナトリウム塩とビニルピロリドン(vinylpyrrolidone:VP)の共重合体(∗1)です[1]。
∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指し、2種類以上の単量体(モノマー:monomer)がつながってできているものを共重合体(copolymer:コポリマー)とよびます。
1.2. 物性・性状
(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマーの物性・性状は、
状態 | 白色の粉末 |
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溶解性 | 水に可溶(ゲルを形成) |
このように報告されています[2]。
2. 化粧品としての配合目的
- 親水性乳化
- 親水性増粘
- ベタつき低減および軽い感触付与による感触改良
主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、ボディケア製品、マスク製品、ハンドケア製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 親水性乳化
親水性乳化に関しては、まず前提知識として一般的な界面活性剤による乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[3][4]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[5]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[6]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[7][8a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[8b]。
(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマーは、極性有機溶媒との相溶性が高いO/W型高分子乳化剤であり、低いpH範囲(3-4)においても水中でゲルを形成することによってHLBに関わらず様々な油を安定に分散(乳化)することから[9a][10a]、親水性乳化目的で主にスキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、ボディケア製品、マスク製品、ハンドケア製品などに汎用されています。
2.2. 親水性増粘
親水性増粘に関しては、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマーは極性有機溶媒との相溶性が良好であり、低いpH範囲(3-4)においてまたエタノールを含む水性アルコール中においてもゲルを形成し粘度を上げることから[9b]、増粘または粘度調整目的でスキンケア製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、マスク製品、ハンドケア製品、アウトバストリートメント製品、洗顔料などに汎用されています。
2.3. ベタつき低減および軽い感触付与による感触改良
ベタつき低減および軽い感触付与による感触改良に関しては、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマーは低いpHにおいても効果を発揮する乳化増粘剤であり、ベタつかず、かつ瑞々しく軽い感触を付与することから[9c][10b]、感触調整目的で主にスキンケア製品、ボディケア製品などに汎用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
化粧品における配合製品数および配合量に関しては、海外の2016-2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
National Industrial Chemicals Notification and Assessment Schemeの安全性データ[11a]によると、
- [動物試験] ウサギの皮膚に(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマーを適用し、OECD404テストガイドラインに基づいて適用後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった(Hoechst,1996)
- [動物試験] モルモットに(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマーを対象に皮膚感作性試験を実施し、OECD406テストガイドラインに基づいて皮膚感作性を評価したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(Hoechst,1996)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
National Industrial Chemicals Notification and Assessment Schemeの安全性データ[11b]によると、
- [動物試験] ウサギの片眼に(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマーを適用し、OECD405テストガイドラインに基づいて適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質はわずかな眼刺激剤であった(Hoechst,1996)
このように記載されており、試験データをみるかぎりわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマー」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,120.
- ⌃Clariant Produkte (Deutschland) GmbH(2022)「Aristoflex AVC」Safety Data Sheet.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃abcClariant International Ltd(2013)「Aristoflex AVC」Product Fact Sheet.
- ⌃abClariant International Ltd(2018)「Aristoflex AVC」Aristoflex Polymers Catalog.
- ⌃abNational Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme(2004)「Aristoflex AVC」PLC/411.