PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンの基本情報・配合目的・安全性

PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン

化粧品表示名 PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン
INCI名 PEG-9 Polydimethylsiloxyethyl Dimethicone
配合目的 乳化

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるシリコーン共重合体(∗1)であり、シリコーン分岐型のポリエーテル変性シリコーンに分類されるシリコーン系界面活性剤です[1]

∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指し、2種類以上の単量体(モノマー:monomer)がつながってできているものを共重合体(copolymer:コポリマー)とよびます。

PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン

1.2. 物性・性状

PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンの性状は、

状態 無色-淡黄色の液体

このように報告されています[2a]

また、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン(シリコーン分岐型ポリエーテル変性シリコーン)は、水分とのブレンドで増粘(ゲル形成)する直鎖型ポリエーテル変性シリコーンのシリコーンの一部を分岐型にすることによって増粘を抑え、増粘現象によるベタつき感を低減したものです[3]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • シリコーン油の乳化

主にこれらの目的で、メイクアップ製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、コンシーラー製品、スキンケア製品などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. シリコーン油の乳化

シリコーン油の乳化に関しては、まず前提知識としてシリコーン油(シリコーンオイル)、乳化およびエマルションについて解説します。

シリコーン油とは、ケイ素(Si)と酸素(O)が化学結合により交互に連なったシロキサン結合を主骨格として構成された合成高分子化合物の総称であり、代表的なシリコーンかつPEG-3ジメチコンの主成分でもあるジメチコンは、直鎖状に伸びた Si-O-Si(シロキサン)主鎖に、側鎖として各ケイ素原子に2つのメチル基(-CH3をもつ高分子化合物です。

シリコーン油は、炭化水素と比較して分子容積が大きく、主鎖の屈曲・回転が容易に起こり、化学反応性の低いメチル基で覆われていることから、安定性および柔軟性が高く、分子間力や表面張力が低いなどの特徴があります[4a]

このような特徴から、肌表面への拡がり、撥水性(∗2)の付与、低表面張力などに起因する滑り性およびベタつきの防止などの効果が明らかにされており、1950年代から化粧品分野で汎用されています[4b]

∗2 撥水性とは水をはじく性質のことです。

また、シリコーン油は乳化が困難なオイルであり、感触改良を目的に少量添加する場合はそれほど問題にならないものの、主成分として使用するためには安定な乳化が必要となり、安定に乳化させるためには一般的にポリエーテル変性シリコーンが用いられます[4c]

次に、乳化とは互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[5][6]

そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[7]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、

エマルションの基本構造

水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[8]

身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。

次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[9][10a]

このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、

界面活性剤のHLB値とその作用、水への分散・溶解の挙動

HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[10b]

PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンの乳化の特徴は、

乳化の種類 HLB
W/Si型乳化 4.0[2b]

このように報告されており、シリコーン油の乳化剤として主にメイクアップ製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、コンシーラー製品、スキンケア製品などに汎用されています。

3. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)

∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンの配合製品数と配合量の比較調査結果(2014年)

4. 安全性評価

PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンの現時点での安全性は、

  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11a]によると、

  • [動物試験] ウサギの無傷および擦過した皮膚に100%および20%PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンを適用し、適用後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質はわずかな皮膚刺激剤に分類された(National Industrial Chemicals Notificaton and Assessment Scheme,1997)
  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面にPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンを処理したところ、この試験物質は非刺激剤であると予測された(National Industrial Chemicals Notificaton and Assessment Scheme,2014)

このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-わずかな皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-わずかな皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11b]によると、

  • [in vitro試験] 鶏卵の漿尿膜を用いて、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンを処理したところ(HET-CAM法)、この試験物質はわずかな眼刺激剤であると予測された(National Industrial Chemicals Notificaton and Assessment Scheme,1997)

このように記載されており、試験データをみるかぎりわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11c]によると、

  • [動物試験] モルモットを用いて50%PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンを対象に皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(National Industrial Chemicals Notificaton and Assessment Scheme,2014)

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,61.
  2. abShin-Etsu Chemical Co., Ltd.(2015)「KF-6028」Technical Data Sheet.
  3. 亀井 正直(2009)「ポリエーテル変性シリコーン」界面と界面活性剤 ― 基礎から応用まで 改定第2版,63-64.
  4. abc近藤 秀俊(2012)「パーソナルケア製品におけるシリコーンの利用」化学と教育(60)(7),318-319. DOI:10.20665/kakyoshi.60.7_318.
  5. 薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
  6. 鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
  7. 鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
  8. 田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
  9. 鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
  10. ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
  11. abcL.C. Becker(2014)「Safety Assessment of Polyoxyalkylene Siloxane Copolymers, Alkyl-Polyoxyalkylene Siloxane Copolymers, and Related Ingredients as Used in Cosmetics(∗4)」, 2023年1月4日アクセス.
    ∗4 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。

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