パーム核脂肪酸Naの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | パーム核脂肪酸Na |
---|---|
INCI名 | Sodium Palm Kernelate |
配合目的 | 洗浄 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
パーム核脂肪酸のナトリウム塩であり、セッケン(Soap)(∗1)に分類される陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)です[1][2]。
∗1 セッケンには、「セッケン」「石けん」「せっけん」「石鹸」など4種の表記法があり、これらの用語には界面活性剤を意味する場合と界面活性剤を主剤とした製品を意味する場合がありますが、ここではわかりやすさを考慮して界面活性剤を「セッケン」、セッケンを主剤とした製品を「石鹸」と記載しています。
1.2. 脂肪酸組成
パーム核油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
カプリル酸 | 飽和脂肪酸 | C8:0 | 2.7 |
カプリン酸 | 飽和脂肪酸 | C10:0 | 7.0 |
ラウリン酸 | 飽和脂肪酸 | C12:0 | 46.9 |
ミリスチン酸 | 飽和脂肪酸 | C14:0 | 14.1 |
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 8.8 |
ステアリン酸 | 飽和脂肪酸 | C18:0 | 1.3 |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 18.5 |
リノール酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:2 | 0.7 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3]、ラウリン酸を主成分とし80%以上を飽和脂肪酸とした、ヤシ油と類似の構成を特徴としています[4]。
ただし、カプリル酸やカプリン酸など炭素数10以下の脂肪酸は皮膚刺激性をもつことから、化粧品に用いられる際にはあらかじめ除去されています[5]。
2. 化粧品としての配合目的
- ナトリウムセッケン合成による洗浄作用
主にこれらの目的で、ボディ石鹸、洗顔石鹸、ボディソープ製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. ナトリウムセッケン合成による洗浄作用
ナトリウムセッケン合成による洗浄作用に関しては、まず前提知識としてナトリウムセッケンの合成、洗浄作用および洗浄のメカニズムについて解説します。
セッケンは、広義においては高級脂肪酸の塩の総称、狭義においては洗浄を主目的とする水溶性のアルカリ金属塩を指し、身体の洗浄に最も古くから使用されていることが知られています[6a][7]。
セッケンを合成する代表的な工程としては、
この2種類があり[6b][8]、またケン化や中和に用いるアルカリは水酸化Naと水酸化Kでは、
- 水酸化Naを用いてケン化または中和する場合:ナトリウムセッケン(固形石鹸)
- 水酸化Kを用いてケン化または中和する場合:カリウムセッケン(液体石鹸)
このように利用目的が異なり、パーム核脂肪酸Naはパーム核油 + 水酸化Naのケン化法によって得られることから、一般に固形石鹸として用いられます[9a]。
次に洗浄作用についてですが、まず「汚れる」ということは、汚れが固体表面へ付着することであり、汚れを除去するためには汚れの付着エネルギー以上のエネルギーを外部から加える必要があることが知られています[10a]。
洗浄作用とは、この付着エネルギーを最小にして、汚れを取り除きやすくして汚れを再付着しにくくすることをいい、具体的な洗浄作用のメカニズムについては以下の洗浄のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
まず汚れおよび固体表面が洗浄液でぬれ、次に汚れおよび固体表面に界面活性剤が吸着し、そして汚れがローリングアップ(∗2)、乳化、可溶化によって分散・溶解し、最後に再付着しないようにすすぐことで除去されるといった一連の過程になります[10b][11]。
∗2 液体汚れが油滴となって固体表面から離脱する現象のことです。
脂肪酸のナトリウム塩の洗浄力および起泡力については、以下の表のように、
脂肪酸名 | 洗浄力 (温水) |
洗浄力 (冷水) |
起泡性 | 泡持続性 | |
---|---|---|---|---|---|
飽和脂肪酸 | ラウリン酸 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ |
ミリスチン酸 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | |
パルミチン酸 | ◎ | △ | △ | ◎ | |
ステアリン酸 | ◎ | ☓ | △ | ◎ | |
不飽和脂肪酸 | オレイン酸 | ◎ | ◎ | △ | △ |
このような傾向が明らかにされており[9b]、ラウリン酸を主成分とするパーム核脂肪酸Naは冷水および温水の両方で安定した洗浄力を有するとともに優れた起泡力をもつと考えられます。
また、1955年に日本油脂によって報告された飽和脂肪酸のナトリウムセッケンの起泡力検証によると、
– 泡立ち性試験 –
各飽和脂肪酸のナトリウムセッケンを水道水溶液(温度35℃)で0.25%濃度に希釈し、それぞれの起泡力をRoss&Miles法に基づいて測定したところ、以下の表のように、
飽和脂肪酸 | 炭素数 | 起泡力:泡の高さ(mm) | |
---|---|---|---|
直後 | 5分後 | ||
ラウリン酸 | C₁₂ | 217 | 208 |
ミリスチン酸 | C₁₄ | 350 | 350 |
パルミチン酸 | C₁₆ | 37 | 32 |
ステアリン酸 | C₁₈ | 25 | 21 |
起泡力に最適な脂肪酸はC₁₂-C₁₄に存在し、他の炭素数ではかなり起泡力が低下していることがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[12]、ラウリン酸を主成分とするパーム核脂肪酸Naは優れた起泡力をもつと考えられます。
ただし、実際の洗浄系製品には複数の油脂脂肪酸ナトリウム塩が配合されており、また洗浄力や起泡力を増強する成分なども配合されていることが考えられ、総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します[13]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14]によると、
- [ヒト試験] 42名の被検者に15.7%パーム核脂肪酸Naを含む石鹸を対象に28日間使用試験を実施したところ、使用における受容性は良好であった(EVIC France,2009)
このように記載されており、試験データをみるかぎり洗浄系製品における使用において皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
セッケンの皮膚刺激性に関しては、
ラウリン酸(C₁₂) ← ミリスチン酸(C₁₄) ← パルミチン酸(C₁₆) ← ステアリン酸(C₁₈)
この順に皮膚刺激が強いことが知られており、またナトリウムセッケンよりカリウムセッケンのほうが刺激性が強く[15]、セッケンの中ではラウリン酸カリウムセッケンが最もスティンギング(∗4)が強いと報告されており[16]、これらの報告は試験データと同様の結論ですが、一般に洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、セッケンが皮膚に与える影響は極めて少ないことが明らかにされています[17]。
∗4 スティンギングとは、チクチクと刺すような主観的な刺激感のことです。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「パーム核脂肪酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,754.
- ⌃藤本 武彦(2007)「アニオン界面活性剤」界面活性剤入門,75-111.
- ⌃藤井 徹也(1995)「硬い石けん、軟らかい石けん」洗う -その文化と石けん・洗剤,34-37.
- ⌃広田 博(1997)「植物脂」化粧品用油脂の科学,26-31.
- ⌃藤井 徹也(1995)「化粧石けんの種類」洗う -その文化と石けん・洗剤,37-39.
- ⌃ab井出 袈裟市, 他(1990)「セッケン」新版 脂肪酸化学 第2版,106-129.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「脂肪酸塩」新化粧品原料ハンドブックⅡ,174-176.
- ⌃藤井 徹也(1995)「石けんの科学」洗う -その文化と石けん・洗剤,31-39.
- ⌃ab田村 健夫・廣田 博(2001)「石けん」香粧品科学 理論と実際 第4版,336-348.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄のメカニズム」新化粧品原料ハンドブックⅡ,631-635.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「洗浄剤」化粧品事典,567.
- ⌃難波 義郎, 他(1955)「洗浄力に寄与する要因の研究(第1報)」油脂化学協会誌(4)(5),238-244. DOI:10.5650/jos1952.4.238.
- ⌃宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774. DOI:10.5650/jos1956.42.768.
- ⌃C.L. Burnett, et al(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.
- ⌃Leroy D. Edwards(1939)「The pharmacology of SOAPS」Journal of the American Pharmaceutical Association(28)(4),209-215. DOI:10.1002/jps.3080280404.
- ⌃奥村 秀信(1998)「皮膚刺激感(痛み)について」日皮協ジャーナル(39),78-82.
- ⌃岩本 行信(1972)「セッケン」油化学(21)(10),699-704. DOI:10.5650/jos1956.21.699.