ラウリル硫酸TEAの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ラウリル硫酸TEA |
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医薬部外品表示名 | ラウリル硫酸トリエタノールアミン |
部外品表示簡略名 | ラウリル硫酸TEA、ラウリル硫酸塩 |
INCI名 | TEA-Lauryl Sulfate |
配合目的 | 洗浄 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるラウリルアルコールの硫酸エステルとTEAの塩であり、アルキル硫酸エステル塩(Alkyl Sulfate:AS)に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です[1]。
1.2. 物性・性状
ラウリル硫酸TEAの物性・性状は、
状態 | 淡黄色の液体 |
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cmc(mmol/L) | 4.0(23℃) |
クラフト点(℃) | – |
cmcおよびクラフト点についてそれぞれ順に解説しますが、まず界面活性剤の基礎知識であるミセル形成およびcmcについて解説します。
界面活性剤は親水基と疎水基(親油基)をもち、界面活性剤の現象として親水基部分は水に溶け込むものの、疎水基部分は安定しようとする性質があるため、以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
界面活性剤のごく薄い水溶液では、1個ずつ単分散状態で溶解し、空気と水との界面にはあまり界面活性剤が集まっていないので、空気と水とはほとんど直接に接触していることになり、表面張力はあまり下がらず、水に近い状態ですが、界面活性剤の濃度が増していくにつれて水のないところ(溶液の表面や容器の壁面)に集まり、空気と水とが直接接触する面積を減少させ、それに比例して表面張力も下がっていきます[6a]。
表面があるうちは表面に集まりますが、表面には限りがあるので、さらに界面活性剤の濃度が増していくと疎水基の逃げ場がなくなり、水との反発をなるべく減らすために、界面活性剤はお互いの疎水基を互いに向け合いはじめ、親水基を水側に向けて球状のミセル(micelle:会合体)を形成し始めます[6b][7a]。
この疎水基の逃げ場がなくなってミセルが形成され始める濃度を臨界ミセル濃度(cmc:critical micelle concentration)と定義しており、また界面活性剤はミセルを形成することではじめて界面活性剤が有する様々な機能を発揮します(∗1)[7b]。
∗1 cmc以上に界面活性剤の濃度を高めていくと、ミセルの数が増加し、次に棒状や板状のミセルとなり、それ以上の高濃度では液晶が形成されます。
次に、クラフト点とは個々の界面活性剤に固有の急激に溶解し始める温度(クラフト温度)のことをいいます[8]。
界面活性剤は、クラフト温度以下の条件では水にほとんど溶けず、その濃度が臨界ミセル濃度以上であってもミセルを形成しませんが、クラフト点以上の温度以上で水への溶解性が急激に高くなり、その上で臨界ミセル濃度(cmc)以上の濃度によりミセルを形成することでその機能を発揮します[9][10]。
2. 化粧品としての配合目的
- 洗浄作用
主にこれらの目的で、ボディソープ製品、シャンプー製品、洗顔料、洗顔石鹸などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 洗浄作用
洗浄作用に関しては、前提知識として洗浄作用および洗浄のメカニズムについて解説します。
「汚れる」ということは、汚れが固体表面へ付着することであり、汚れを除去するためには汚れの付着エネルギー以上のエネルギーを外部から加える必要があることが知られています[11a]。
洗浄作用とは、この付着エネルギーを最小にして、汚れを取り除きやすくして汚れを再付着しにくくすることをいい、具体的な洗浄作用のメカニズムについては以下の洗浄のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
まず汚れおよび固体表面が洗浄液でぬれ、次に汚れおよび固体表面に界面活性剤が吸着し、そして汚れがローリングアップ(∗2)、乳化、可溶化によって分散・溶解し、最後に再付着しないようにすすぐことで除去されるといった一連の過程になります[11b][12]。
∗2 液体汚れが油滴となって固体表面から離脱する現象のことです。
アニオン界面活性剤は優れた起泡性を有しており、中でもアルキル鎖が炭素数12-14の直鎖構造をもつ界面活性剤の起泡性が優れていることが知られていますが[13]、ラウリル硫酸TEAは炭素数12(C12)の直鎖構造をもつ陰イオン性界面活性剤であり、優れた洗浄力と泡立ちを示し、洗髪後に柔らかくしっとりした感触を付与することから[2b][3b][14a]、主にボディソープ製品、シャンプー製品、洗顔料、洗顔石鹸などに使用されています。
同じアルキル硫酸エステル塩であるラウリル硫酸Naとの違いは、ラウリル硫酸TEAは脱脂力や洗浄力はラウリル硫酸Naと比較して低いものの、低いpH(酸性側)に適していることや溶解性が良好なことから、溶解性の良さや比較的穏やかな洗浄作用を利点とする製品、酸性域の製品などに使用されると考えられます[14b]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010-2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度10.5%以下においてほとんどなし-中程度(ただし詳細は解説を参照のこと)
- 眼刺激性:ほとんどなし-軽度(ただし詳細は解説を参照のこと)
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
- 皮膚吸収性:濃度2.5%以下の曝露において極めて低い
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15a]によると、
- [ヒト試験] 19名4グループ(合計76名)の被検者に0.3%ラウリル硫酸TEAを含むシャンプー水溶液を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験製剤は最小限から軽度の皮膚刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973-1974)
- [ヒト試験] 101名の被検者に0.2%ラウリル硫酸TEAを含むシャンプー水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において14名にわずかな刺激反応が、16名の中程度の刺激反応がみられたが、いずれの被検者においても皮膚感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [ヒト試験] 100名の被検者に7.5%ラウリル硫酸TEAを含むシャンプー水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973)
- [ヒト試験] 350名の被検者に10.5%ラウリル硫酸TEAを含むシャンプー水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Food and Drug Research Labs,1974)
- [ヒト試験] 48名の被検者に10.5%ラウリル硫酸TEAを含むシャンプー水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Education and Research Foundation,1974)
このように試験データをみるかぎり皮膚につけっぱなしにする製品の場合、濃度10.5%以下において非刺激-中程度の皮膚刺激が報告されていますが、一般に皮膚につけっぱなしにする製品においては濃度10.5%以下においては重大な刺激を引き起こすことなく使用できると結論付けられています。
皮膚感作性については、試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15b]によると、
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に2%ラウリル硫酸TEA溶液を点眼し、6匹は眼をすすぎ、3匹は眼をすすがず、Draize法に基づいて1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアはいずれにおいても0であり、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Emery Industries,1976)
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に5%ラウリル硫酸TEA溶液を点眼し、眼はすすがず、Draize法に基づいて1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアはいずれにおいても0であり、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Cyclo Chemical Co,1976)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に10%ラウリル硫酸TEA溶液を点眼し、6匹は眼をすすぎ、3匹は眼をすすがず、Draize法に基づいて1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1,2,3,4および7日目の眼刺激スコアは非洗眼群で7,5,3,0,0、洗眼群で4,1,0,0,0であり、この試験物質は軽度の眼刺激剤であった(Emery Industries,1976)
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に25%ラウリル硫酸TEA溶液を点眼し、眼はすすぎ、1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1,2,3,4および7日目の眼刺激スコアは20,2,0,0,0であり、この試験物質は軽度の眼刺激剤であった(Alcolac,1979)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に20%ラウリル硫酸TEA溶液を点眼し、6匹は眼をすすぎ、3匹は眼をすすがず、Draize法に基づいて1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1,2,3,4および7日目の眼刺激スコアは非洗眼群で53,39,27,0,0、洗眼群で26,19,0,0,0であり、この試験物質は眼をすすがない場合において中程度の、眼をすすぐ場合において軽度の眼刺激剤であった(J.J. Serrano et al,1977)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に40%ラウリル硫酸TEA溶液を点眼し、6匹は眼をすすぎ、3匹は眼をすすがず、Draize法に基づいて1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1,2,3,4および7日目の眼刺激スコアは非洗眼群で6,11,23,24,19、洗眼群で0,0,0,0,0であり、この試験物質は眼をすすがない場合において重度の眼刺激剤であった(Emery Industries,1975)
このように試験データをみるかぎり眼をすすがなかった場合において非刺激-重度の眼刺激が、眼をすすいだ場合において非刺激-軽度の眼刺激が報告されていますが、ラウリル硫酸TEAは主に洗い流す製品に使用されていることから、一般に眼刺激性は濃度にかかわらず非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性に留まると考えられます。
また、つけっぱなし製品(洗い流さない製品)においては、実際の配合濃度は8%以下となっていることから、洗い流さない製品においても一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性に留まると考えられます。
4.3. 光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15c]によると、
- [ヒト試験] 49名の被検者に0.42%ラウリル硫酸TEAシャンプー水溶液を対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても光感作の兆候はみられなかった(Research Testing Labs,1974)
このように、試験データをみるかぎり光感作なしと報告されているため、一般に光感作性はほとんどないと考えられます。
4.4. 皮膚吸収性
残留農薬研究所の安全性データ[16]によると、
- [動物試験] 剃毛したラットの背部に14C標識のC1225mMアルキル硫酸塩溶液0.5mLを塗布し、15分間接触させた後に湯ですすぎ、非閉塞型保護貼布環境下で24時間目までの排泄量と体内残存量を測定して、それらの値から皮膚吸収量を推定したところ、皮膚吸収量は0.26μg/c㎡と見積もられた(D. Hpwes,1975)
- [動物試験] ラット背部皮膚に14C標識の1%C12アルキル硫酸塩溶液を10分間接触させ、すすいだ後に保護貼布を行い、48時間までに排泄された尿中の排泄量から皮膚透過量を推定したところ、皮膚透過量は0.26μg/c㎡と推定された。濃度、接触時間、適用回数を変えると、濃度と適用回数に比例して透過量が増加したが、接触時間の長さと透過量の間には直接的な関連性は認められなかった(J.G. Black and D. Howes,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎりアルキル硫酸塩の皮膚からの吸収性は極めて低いと報告されているため、一般に皮膚吸収性は極めて低いと考えられます。
また、同じアルキル硫酸塩であるラウリル硫酸Naの試験データ(ヒト試験データ含む)においても同様の皮膚吸収性の傾向を示すことも、この皮膚吸収性の結果を裏付けていると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ラウリル硫酸TEA」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1029.
- ⌃ab花王株式会社(2020)「エマールシリーズ」花王の香粧品・医薬品原料,1-2.
- ⌃ab日油株式会社(2019)「アニオン性界面活性剤」化粧品用・医薬品用製品カタログ,39-40.
- ⌃G.J. Putterman, et al(1977)「The effect of detergents on swelling of stratum corneum」Journal of the Society of Cosmetic Chemists(28)(9),521-532.
- ⌃C. Cante, et al(1973)「Foamability and foam stability of aminohydroxy salts of long chain sulfates and carboxylates」Journal of Colloid and Interface Science(45)(2),242-251. DOI:10.1016/0021-9797(73)90264-6.
- ⌃ab藤本 武彦(2007)「界面活性剤の基本的な性質と作用」界面活性剤入門,14-26.
- ⌃ab鈴木 敏幸(2003)「臨界ミセル濃度」化粧品事典,846.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「クラフト点」化粧品事典,427-428.
- ⌃藤本 武彦(2007)「界面活性剤の親水基の種類と性質の関係」界面活性剤入門,147-152.
- ⌃野々村 美宗(2015)「界面活性剤の相挙動」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,30-33.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄のメカニズム」新化粧品原料ハンドブックⅡ,631-635.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「洗浄剤」化粧品事典,567.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「アニオン界面活性剤の性質」新化粧品原料ハンドブックⅠ,167-172.
- ⌃ab伊藤 知男・林 静男(1969)「シャンプー」油化学(18)(Supplement),26-35. DOI:10.5650/jos1956.18.Supplement_26.
- ⌃abcR.L. Elder(1982)「Final Report on the Safety Assessment of TEA-Lauryl Sulfate」Journal of the American College of Toxicology(1)(4),143-167. DOI:10.3109/10915818209021267.
- ⌃青山 博昭(2010)「アルキル硫酸エステル塩の安全性について」日本家政学会誌(61)(5),327-329. DOI:10.11428/jhej.61.327.