ラウリル硫酸Naの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ラウリル硫酸Na |
---|---|
医薬部外品表示名 | ラウリル硫酸ナトリウム |
部外品表示簡略名 | ラウリル硫酸Na、ラウリル硫酸塩 |
INCI名 | Sodium Lauryl Sulfate |
配合目的 | 洗浄 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるラウリルアルコールの硫酸エステルのナトリウム塩であり、アルキル硫酸エステル塩(Alkyl Sulfate:AS)に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です(∗1)[1]。
∗1 ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfate:SLS)は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)によるIUPAC命名法では「ドデシル硫酸ナトリウム(Sodium Dodecyl Sulfate:SDS)」とよばれます。
1.2. 物性・性状
ラウリル硫酸Naの物性・性状は、
状態 | 白-淡黄色の結晶性粉末 |
---|---|
cmc(mmol/L) | 8.0(25℃) |
クラフト点(℃) | 10 |
cmcおよびクラフト点についてそれぞれ順に解説しますが、まず界面活性剤の基礎知識であるミセル形成およびcmcについて解説します。
界面活性剤は親水基と疎水基(親油基)をもち、界面活性剤の現象として親水基部分は水に溶け込むものの、疎水基部分は安定しようとする性質があるため、以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
界面活性剤のごく薄い水溶液では、1個ずつ単分散状態で溶解し、空気と水との界面にはあまり界面活性剤が集まっていないので、空気と水とはほとんど直接に接触していることになり、表面張力はあまり下がらず、水に近い状態ですが、界面活性剤の濃度が増していくにつれて水のないところ(溶液の表面や容器の壁面)に集まり、空気と水とが直接接触する面積を減少させ、それに比例して表面張力も下がっていきます[6a]。
表面があるうちは表面に集まりますが、表面には限りがあるので、さらに界面活性剤の濃度が増していくと疎水基の逃げ場がなくなり、水との反発をなるべく減らすために、界面活性剤はお互いの疎水基を互いに向け合いはじめ、親水基を水側に向けて球状のミセル(micelle:会合体)を形成し始めます[6b][7a]。
この疎水基の逃げ場がなくなってミセルが形成され始める濃度を臨界ミセル濃度(cmc:critical micelle concentration)と定義しており、また界面活性剤はミセルを形成することではじめて界面活性剤が有する様々な機能を発揮します(∗2)[7b]。
∗2 cmc以上に界面活性剤の濃度を高めていくと、ミセルの数が増加し、次に棒状や板状のミセルとなり、それ以上の高濃度では液晶が形成されます。
次に、クラフト点とは個々の界面活性剤に固有の急激に溶解し始める温度(クラフト温度)のことをいいます[8]。
界面活性剤は、クラフト温度以下の条件では水にほとんど溶けず、その濃度が臨界ミセル濃度以上であってもミセルを形成しませんが、クラフト点以上の温度以上で水への溶解性が急激に高くなり、その上で臨界ミセル濃度(cmc)以上の濃度によりミセルを形成することでその機能を発揮します[9][10]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
ラウリル硫酸Naの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
医薬品 | 安定・安定化、界面活性剤、滑沢、可溶・可溶化、基剤、結合、光沢化、湿潤、賦形、崩壊、乳化、発泡、分散目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、歯科外用および口中用剤に用いられています[11]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 洗浄作用
- 配合目的についての補足
主にこれらの目的で、シャンプー製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、ボディソープ製品、洗顔石鹸、ボディ石鹸、クレンジング製品、洗顔料、アウトバストリートメント製品、ヘアスタイリング製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 洗浄作用
洗浄作用に関しては、前提知識として洗浄作用および洗浄のメカニズムについて解説します。
「汚れる」ということは、汚れが固体表面へ付着することであり、汚れを除去するためには汚れの付着エネルギー以上のエネルギーを外部から加える必要があることが知られています[12a]。
洗浄作用とは、この付着エネルギーを最小にして、汚れを取り除きやすくして汚れを再付着しにくくすることをいい、具体的な洗浄作用のメカニズムについては以下の洗浄のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
まず汚れおよび固体表面が洗浄液でぬれ、次に汚れおよび固体表面に界面活性剤が吸着し、そして汚れがローリングアップ(∗3)、乳化、可溶化によって分散・溶解し、最後に再付着しないようにすすぐことで除去されるといった一連の過程になります[12b][13]。
∗3 液体汚れが油滴となって固体表面から離脱する現象のことです。
アニオン界面活性剤は優れた起泡性を有しており、中でもアルキル鎖が炭素数12-14の直鎖構造をもつ界面活性剤の起泡性が優れていることが知られていますが、ラウリル硫酸Naは炭素数12(C12)の直鎖構造をもつ陰イオン性界面活性剤であり、脱脂力に優れた洗浄性や良好な起泡性を示すことから[2b][3b][4b][14]、主にシャンプー製品、ボディ石鹸、洗顔石鹸、ボディソープ製品、洗顔料、クレンジング製品などの洗浄系製品に汎用されています。
1990年に資生堂によって報告された陰イオン性界面活性剤の人工皮脂に対する洗浄性比較検証によると、
– 洗浄性試験 –
各油脂を混合した人工皮脂にカーボンブラックを加えた汚垢(おこう)を用いて、陰イオン性界面活性剤であるラウリン酸Na、ラウリル硫酸Na、ラウレス硫酸Na、ラウロイルグルタミン酸NaおよびココイルメチルタウリンNaそれぞれ10mM濃度の人工皮脂に対する洗浄力を40℃および2分間の洗浄で評価したところ、以下のグラフのように、
ラウリル硫酸Naは人工皮脂に対して他の陰イオン界面活性剤と同等の優れた洗浄力をもつことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[15a]、ラウリル硫酸Naは皮脂に対する洗浄力が認められています。
次に、1953年にスモカ歯磨本舗によって報告されたアルキル硫酸エステル塩の起泡性の検証によると、
– 泡立ち性試験 –
アルキル硫酸エステル塩類であるラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸Naおよびセチル硫酸Naの0.3%,0.15%および0.075%水溶液を調製し、30℃で2分後および5分後の泡数および泡量を測定し、泡消率を算出したところ、以下の表のように、
アルキル硫酸塩 | 濃度 (%) |
泡数 | 泡量 | 泡消率 (%) |
||
---|---|---|---|---|---|---|
2分後 | 5分後 | 2分後 | 5分後 | |||
ラウリル硫酸アンモニウム | 0.30 | 20.7 | 10.1 | 970 | 960 | 51.7 |
0.15 | 16.7 | 8.7 | 417 | 409 | 48.8 | |
0.075 | 10.8 | 6.0 | 101 | 96 | 46.8 | |
ラウリル硫酸Na | 0.30 | 6.8 | 1.6 | 907 | 901 | 76.5 |
0.24 | 7.4 | 2.2 | 857 | 852 | 70.5 | |
0.15 | 8.4 | 2.7 | 758 | 753 | 68.2 | |
0.075 | 8.0 | 2.3 | 408 | 402 | 68.7 | |
セチル硫酸Na | 0.30 | 24.8 | 16.2 | 265 | 256 | 36.7 |
0.15 | 19.8 | 13.4 | 180 | 173 | 34.7 | |
0.075 | 16.3 | 11.5 | 116 | 112 | 32.4 |
ラウリル硫酸Naは、泡量が安定して多い一方で泡数が少ないことから比較的大きい泡を起泡するが、2-5分後間の泡消率が最も大きいことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[16]、ラウリル硫酸Naの泡の性質は泡量が多い一方で比較的大きい泡を生成し2-5分間の泡消率が高いことが明らかにされています。
また、ラウリル硫酸Naと両性界面活性剤を併用することで、相互作用による複合体(ion pair)を形成し、泡立ちの相乗効果が得られることが明らかにされています[15b]。
2.2. 配合目的についての補足
アルキル硫酸エステル塩は、コレステロールや高級アルコールと組み合わせることにより強固な界面膜をつくり、優れた乳化力を発揮することが知られており[17]、ラウリル硫酸NaもO/W型エマルションの乳化剤として汎用されています。
3. 混合原料としての配合目的
ラウリル硫酸Naは混合原料が開発されており、ラウリル硫酸Naと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | CERASYNT LP |
---|---|
構成成分 | 水、ステアリン酸グリセリル、ラウレス硫酸Na、ヘキシレングリコール、ラウリル硫酸Na、グリセリン、ステアリルアルコール |
特徴 | O/W型乳化剤 |
原料名 | CERASYNT WM |
---|---|
構成成分 | ステアリン酸グリセリル、ステアリルアルコール、ラウリル硫酸Na |
特徴 | O/W型乳化剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1983年および2002年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
5. 安全性評価
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度1%未満においてほとんどなし-わずか
- 眼刺激性:ほとんどなし-中程度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 皮膚吸収性:濃度1%未満および22-24時間以下の曝露においてほとんどなし-わずか
- タンパク質変性:高い(ただし詳細は解説を参照のこと)
このような結果となっており、化粧品配合量(つけっぱなし製品においては濃度1%未満)および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[18a]および資生堂の試験データ[19a]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 28名の女性被検者3群に0.25%,0.5%および1.0%濃度のラウリル硫酸Na水溶液0.3mLを対象に7日間の間に3回の24時間閉塞パッチ試験を実施し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-4.0のスケールで皮膚刺激性を評価したところ、以下の表のように、
濃度(%) 被検者数 PII 評価 0.25 28 0.20 わずかな刺激 0.5 28 0.36 わずかな刺激 1.0 28 0.74 軽度-中程度の刺激 濃度依存的に皮膚刺激性が高まる傾向がみられた(Hill Top Research,1977)
- [ヒト試験] 16名の被検者に10%ラウリル硫酸Na溶液0.2mLを対象に一次刺激性試験を24時間閉塞パッチにて実施し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-8.0のスケールで皮膚刺激性を評価したところ、PIIは0.12であり、この試験物質は24および72時間後において皮膚刺激の兆候はみられなかった(Phillips Jr,1972)
- [ヒト試験] 濃度およびパッチの種類別にラウリル硫酸Na溶液0.2mLを対象に21日間累積刺激性試験を実施したところ、以下の表のように、
パッチ 濃度
(%)被検者数 累積刺激スコア
(最大84)評価 閉塞 0.1 2 14.5 わずか 閉塞 1.0 2 71 ほぼ最大 閉塞 2.0 2 77 ほぼ最大 閉塞 4.0 2 78 ほぼ最大 閉塞 6.0 2 – 刺激最大で継続不能 閉塞 8.0 2 – 刺激最大で継続不能 開放 1.0 2 0 刺激性なし 開放 2.0 2 0 刺激性なし 開放 4.0 1 0 刺激性なし 開放 6.0 2 0 刺激性なし 閉塞パッチでは濃度1.0%以上で累積刺激がほぼ最大以上であり、開放パッチでは濃度1.0-6.0%で刺激性なしであった(Phillips Jr,1972)
- [ヒト試験] 8名の被検者に10%ラウリル硫酸Na溶液0.2mLを対象に21日間累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施し、累積刺激スコア(最大84)を評価したところ、累積刺激スコアは34.1であり、この試験物質は中程度の累積刺激であった(Phillips Jr,1972)
- [ヒト試験] 115名の被検者に1.05%ラウリル硫酸Na水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、115名のうち2名の被検者に刺激反応がみられた。感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 57名の被検者に1.26%ラウリル硫酸Naを含む製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において57名のうち1名の被検者にわずか-重度の紅斑がみられ、この被検者はチャレンジ期間においてわずか-中程度の紅斑がみられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 54名の被検者に1.26%ラウリル硫酸Naを含む製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間においてわずか-明瞭な紅斑がみられたが、チャレンジ期間において皮膚反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 職業性接触皮膚炎、累積障害性皮膚炎および対照として健常な皮膚を有する495名の被検者に5%ラウリル硫酸Na水溶液を対象に皮膚適用したところ、皮膚炎を有する被検者の52%に紅斑をともなう刺激反応が起こり、また健常な皮膚を有する被検者の12%でも同様の反応が起こった(W. Burckhardt et al,1964)
- [ヒト試験] 皮膚炎を有する29名の患者に代表的な各界面活性剤水溶液それぞれ50mM(0.05mol/L)および100mM(0.1mol/L)を対象に48時間閉塞パッチを適用し、パッチ除去24時間後に皮膚刺激性を0,0.5,1,2,3,4の6段階で評価したところ、以下の表のように、
界面活性剤 陽性数(29名中) 平均刺激スコア 100mM 50mM 100mM 50mM ラウリル硫酸Na – 28 – 1.66 ラウレス硫酸Na 16 13 0.76 0.63 ラウロイルグルタミン酸Na 11 12 0.60 0.63 ココイルメチルタウリンNa 13 12 0.64 0.62 ラウリル硫酸Naは濃度50mMにおいて29名のうち28名が皮膚刺激を示しており、また刺激スコアも1.66(1-2:わずかな紅斑-明らかな紅斑)と他の陰イオン界面活性剤と比較すると高かった(資生堂,1989)
このように、試験データをみるかぎり健常な皮膚を有する場合かつ皮膚につけっぱなしにする製品の場合、濃度1%未満においてわずかな皮膚刺激が、それ以上の濃度においてはわずか-中程度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚につけっぱなしにする製品においては濃度1%を超えないように注意喚起されており、濃度1%未満において皮膚刺激性は非刺激-わずかな皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
皮膚炎を有する場合は濃度50mM(5質量%)においてわずか-明らかな紅斑が報告されているため、一般に皮膚刺激性はわずか-中程度の皮膚刺激を引き起こす可能性がありますが、実際に皮膚につけっぱなしの製品に配合されている濃度は1%を超えないように注意喚起されているため、濃度1%以下の試験データが必要であると考えられます(皮膚炎を有する場合の結論は保留とし、濃度1%未満の試験データがみつかりしだい追補・再編集します)。
また、洗い流し製品(洗浄系製品)については濃度1-6%の開放パッチにおいて皮膚刺激なしと報告されており、ラウリル硫酸Naは断続的で短時間の使用に続いて皮膚の表面から完全にすすぐように設計された製品では安全に使用できると考えられています[18b]。
皮膚感作性については、試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[18c]によると、
- [動物試験] 9匹のウサギの両眼に28.2%ラウリル硫酸Na溶液0.1mLを点眼し、30秒後に片眼はすすぎ、残りの片眼はすすがず、Draize法に基づいて14日目まで眼刺激性を評価したところ、両眼ともに中程度の眼刺激がみられた(Product Safety Labs,1980)
- [動物試験] 3匹のウサギの両眼に25%ラウリル硫酸Na溶液を点眼し、30秒後に片眼をすすぎ、残りの片方はすすがず、7日目まで眼刺激性を評価したところ、両眼でわずか-中程度の角膜損傷がみられた(K.J. Olson et al,1962)
- [動物試験] 5匹のウサギの片眼に20%ラウリル硫酸Na溶液0.1mLを点眼し、Draize法に基づいて7日目まで眼刺激性を評価したところ、24時間で重度の眼刺激がみられたが、7日目では軽度の眼刺激性であった(H.P. Ciuchta et al,1978)
- [動物試験] 5匹のウサギの片眼に10%ラウリル硫酸Na溶液0.1mLを点眼し、Draize法に基づいて7日目まで眼刺激性を評価したところ、1日目で1匹に中程度の眼刺激がみられたが、7日目では軽度の眼刺激性であった(H.P. Ciuchta et al,1978)
- [動物試験] 3匹のウサギの両眼に5%ラウリル硫酸Na溶液を点眼し、30秒後に片眼をすすぎ、残りの片方はすすがず、7日目まで眼刺激性を評価したところ、両眼でわずか-中程度の角膜損傷がみられた(K.J. Olson et al,1962)
- [動物試験] 5匹のウサギの片眼に2%ラウリル硫酸Na溶液0.1mLを点眼し、Draize法に基づいて7日目まで眼刺激性を評価したところ、1日目で軽度の眼刺激がみられたが、7日目では実質的に非刺激であった(H.P. Ciuchta et al,1978)
- [動物試験] 3匹のウサギの両眼に1%ラウリル硫酸Na溶液を点眼し、30秒後に片眼をすすぎ、残りの片方はすすがず、7日目まで眼刺激性を評価したところ、両眼でとてもわずかな角膜刺激が示された(K.J. Olson et al,1962)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度1%でわずかな眼刺激が、濃度2.0-28.2において濃度依存的にわずか-中程度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-中程度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.3. 皮膚吸収性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[18d]によると、
- [動物試験] モルモットの脇腹の皮膚に濃度16.3μCiのラウリル硫酸Na水溶液0.6mLを10分間擦り込み、試験部位を水で洗浄したのち24時間開放パッチで覆った。糞便、肝臓、腎臓で試験物質は検出されず、呼気CO₂および尿内に0.1%が検出された。パッチには23%が含まれ、すすぎには53.4%が含まれていた。この結果から強いアニオン性末端基が存在する界面活性剤では皮膚に浸透する性能が損なわれると結論付けられた(C. Prottley et al,1975)
- [in vitro試験] ラットから切除した背部皮膚を濃度25mMのラウリル硫酸Na溶液0.25mLに24時間浸漬し、1時間ごとに皮膚浸透性を評価し、24時間後に表皮を洗浄したところ、試験物質は洗浄のすすぎに30%が含まれ、70%が皮膚に付着したままであった。接触24時間までは測定可能なラウリル硫酸Naの皮膚浸透は起こらないことがわかった(D. Howes,1975)
- [in vitro試験] 女性の腹部皮膚を濃度25mM(2.5%)のラウリル硫酸Na溶液0.1mLに曝露し、0.5,1,2,3,4,6,7,8,24および48時間で皮膚浸透性を観察したところ、適用24時間までは測定可能な浸透は起こらず、48時間では87.2 ± 24.1μg/c㎡が吸収され、この試験物質は非常に低い皮膚浸透率であった(J.G. Black et al,1979)
- [in vitro試験] ヒト腹部表皮に1%ラウリル硫酸Na水溶液に曝露し、皮膚透過性を評価したところ、この試験製剤は透水性を高め、22時間の浸漬後にいくらかの損傷を引き起こした。ラウリル硫酸Naの濃度を5%に増やすと2-6時間後には損傷がみられ、損傷度も増した。この損傷はタンパク質変性、膜拡張、水結合能の喪失などが考えられた(R.J. Scheuplein and L. Loss,1970)
- [in vitro試験] ブリーチしたヒト毛髪およびブリーチしていないヒト毛髪を10%ラウリル硫酸Na溶液に曝露したところ、9時間でブリーチした毛髪は試験化合物の8%を吸収し、ブリーチしていない毛髪は1.2%を吸収した。またブリーチした毛髪では8時間で0.1%ラウリル硫酸Na溶液の1%が吸収され、同時に1%ラウリル硫酸Na溶液の4.5%および10%ラウリル硫酸Na溶液の6.6%が吸収された。これらの結果からヒト毛髪へのラウリル硫酸Naの浸透度は濃度依存的であり、ブリーチした毛髪のほうが浸透度が高くなることがわかった(J.A. Faucher et al,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度1%未満かつ22-24時間以下の曝露で皮膚吸収性はほとんどなし-わずかと報告されているため、一般に濃度1%未満かつ塗布22-24時間以下において皮膚吸収性は極めて低いと考えられます。
また、アルキル硫酸塩は濃度や適用回数が増えると吸収量が増えますが[20]、一般に洗い流し製品(洗浄系製品)については断続的で短時間の使用に続いて皮膚の表面から完全にすすぐように設計された製品では安全に使用できると考えられています。
5.4. タンパク質変性
界面活性剤が皮膚刺激性を発現するためには、角層バリアを障害する機能として角質タンパク変性能を有する必要があると考えられています。
1989年に資生堂によって報告された代表的な陰イオン界面活性剤のタンパク変性への影響検証によると、
∗4 ケラチンパウダーとは、毛髪に類似したタンパク質配合パウダーであり、ハイドパウダーは頭皮に類似したタンパク質配合パウダーです。
∗5 収着とは固体が気体や溶液と接触しているとき、吸着質が固体表面に吸着すると同時にさらに固体の内部に拡散吸収される現象のことをいいます。
ラウリル硫酸Naは、ケラチンパウダーおよびハイドパウダーの両方にかなり収着することがわかった。
次に、同様の陰イオン性界面活性剤を各濃度10mMに調整しタンパク変成率を資生堂が開発した簡易で精度の高い水系GPCを用いて測定したところ、以下のグラフのように(∗6)、
∗6 ラウリル硫酸Naの10mMは1質量%と同等です。
ラウリル硫酸Naは、高いタンパク質変性を示した。
このように報告されており[19b]、ラウリル硫酸Naは高いタンパク質変性を示すことが認められています。
ただし、ラウリル硫酸Naに両性界面活性剤を併用することによってタンパク質変性作用は著しく弱まることや、両性界面活性剤とアルキル硫酸塩を特定の配合比率によってアルキル硫酸塩のタンパク質への吸着量が最小となり、毛髪および頭皮への刺激が緩和されることが明らかになっていることから[21][22]、洗浄系製品においてラウリル硫酸Naに両性界面活性剤が併用されている場合は、タンパク変性作用の影響を抑えた処方が用いられている可能性が考えられます。
5.5. 安全性についての補足
1978年に花王石鹸(現 花王)によって報告された皮膚の乾燥落屑に対するラウリル硫酸Naの影響検証によると、
– in vitro試験 –
ヒト足裏の角層タンパク粉末に0%,0.05%,0.5%および5%ラウリル硫酸Na水溶液5mLを添加し培養後にタンパク質およびアミノ酸の溶出量を評価した。
20分処理では、濃度0.5%以下まではほとんど溶出量に差はなく、角質1gあたり62mg(角質乾燥重量の6.2%)が溶出したが、濃度5%では角質1gあたり77mg(角質乾燥重量の7.7%)であった。
120分処理では、濃度0.5%以下までは20分処理と同様にほとんど溶出量に差はなく、角質1gあたり77mg(角質乾燥重量の7.7%)が溶出したが、濃度5%では角質1gあたり125mg(角質乾燥重量の12.5%)と著しい変化を示した。
– ヒト試験 –
5名の被検者の両腕に0,0.5および5%ラウリル硫酸Na水溶液を1日1回10分間適用し、37℃の流水20ℓで3回洗浄した上でタオルで水を拭き取る接触処理を2日間にわたって実施し、表皮乾燥落屑性の変化および皮膚刺激性を評価した。
その結果、濃度0.5%以下では2日間において皮膚変化はみられず、濃度5%では1回目の処理では皮膚変化はみられなかったが、2日目の処理24時間後にみられたことから、濃度5%で繰り返し適用することにより乾燥落屑および皮膚刺激が増加することがわかった。
また乾燥落屑性変化を生じさせた5%ラウリル硫酸Na溶液中には、それらを生じさせなかった濃度0.5%以下より、角層の保湿成分と考えられているタンパク質およびアミノ酸が顕著に認められたことから、表皮乾燥落屑性変化の一因が、界面活性剤の乳化および洗浄作用により角層のタンパク質およびアミノ酸を乳化、洗浄することによって引き起こすものと考えられた。
このような検証結果が報告されており[23]、ラウリル硫酸Naは濃度0.5%以下では角層に有意な影響はありませんが、濃度5%以上では保湿成分と考えられているタンパク質およびアミノ酸の溶出が増し、乾燥および落屑を引き起こすことが明らかにされています。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ラウリル硫酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1028-1029.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2021)「アルキル硫酸塩」製品カタログ,51-52.
- ⌃ab花王株式会社(2020)「エマールシリーズ」花王の香粧品・医薬品原料,1-2.
- ⌃ab第一工業製薬株式会社(-)「アルキル硫酸塩」香粧品用製品総合カタログ,5-6.
- ⌃日本油化学協会(1990)「界面活性剤の基本的物性」油脂化学便覧 改訂3版,476-493.
- ⌃ab藤本 武彦(2007)「界面活性剤の基本的な性質と作用」界面活性剤入門,14-26.
- ⌃ab鈴木 敏幸(2003)「臨界ミセル濃度」化粧品事典,846.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「クラフト点」化粧品事典,427-428.
- ⌃藤本 武彦(2007)「界面活性剤の親水基の種類と性質の関係」界面活性剤入門,147-152.
- ⌃野々村 美宗(2015)「界面活性剤の相挙動」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,30-33.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ラウリル硫酸ナトリウム」医薬品添加物事典2021,697-698.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄のメカニズム」新化粧品原料ハンドブックⅡ,631-635.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「洗浄剤」化粧品事典,567.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「アニオン界面活性剤の性質」新化粧品原料ハンドブックⅠ,167-172.
- ⌃ab宮澤 清, 他(1990)「頭皮・頭髪用洗浄剤(シャンプー) としてのN-アシル-N-メチルタウリン(AMT)の開発と工業化」油化学(39)(11),925-930. DOI:10.5650/jos1956.39.11_925.
- ⌃中島 英郎(1953)「合成洗剤の起泡性について(第1~2報)(第1報)アルキル硫酸エステル塩の起泡性及びラウリル硫酸ナトリウムの起泡性に及ぼすラウリルアルコール,芒硝,保護膠質性物質の影響」工業化学雑誌(56)(8),611-613. DOI:10.1246/nikkashi1898.56.611.
- ⌃野々村 美宗(2015)「アニオン界面活性剤」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,43-48.
- ⌃abcdR.L. Elder(1983)「Final Report on the Safety Assessment of Sodium Lauryl Sulfate and Ammonium Lauryl Sulfate」Journal of the American College of Toxicology(2)(7),127-181. DOI:10.3109/10915818309142005.
- ⌃ab宮澤 清, 他(1989)「頭皮・頭髪用洗浄剤としてのアニオン界面活性剤の研究」油化学(38)(4),297-305. DOI:10.5650/jos1956.38.297.
- ⌃青山 博昭(2010)「アルキル硫酸エステル塩の安全性について」日本家政学会誌(61)(5),327-329. DOI:10.11428/jhej.61.327.
- ⌃宮澤 清, 他(1984)「界面活性剤の組合せによる物理化学的性質とタンパク質変性作用」日本化粧品技術者会誌(18)(2),96-105. DOI:10.5107/sccj.18.96.
- ⌃永井 邦夫(2005)「低刺激性シャンプー基剤」三洋化成ニュース(430),1-4.
- ⌃河合 通雄・岡本 暉公彦(1978)「皮膚に対する界面活性剤の作用」日本化粧品技術者会会誌(12)(2),36-43. DOI:10.5107/sccj1976.12.2_36.