ラウロイルサルコシンNaの基本情報・配合目的・安全性

ラウロイルサルコシンNa

化粧品表示名 ラウロイルサルコシンNa
医薬部外品表示名 ラウロイルサルコシンナトリウム
部外品表示簡略名 ラウロイルサルコシンNa、ラウロイルサルコシン塩
INCI名 Sodium Lauroyl Sarcosinate
配合目的 洗浄

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるラウロイルサルコシン(∗1)のナトリウム塩であり、アミノ酸系界面活性剤のアシルサルコシン塩(Acyl Sarcosinate:AS)(∗2)に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です[1]

∗1 ラウロイルサルコシンとは、ラウリン酸の塩化物と、生体内においてコリンからグリシンへの代謝中間体であるサルコシン(N-メチルグリシン)を縮合して得られる陰イオン性界面活性剤です。

∗2 界面活性剤の分類において「AS」というとラウリル硫酸Naに代表されるアルキル硫酸エステル塩(Alkyl Sulfate:AS)であり、アシルサルコシン塩は「AS」と略して用いられているわけではありませんが、ここでは「Acyl Sarcosinate」の頭文字から「AS」と略して記載しています。アミノ酸系界面活性剤の中の「AS」といった狭義的な意味合いです。

ラウロイルサルコシンNa

1.2. 物性・性状

ラウロイルサルコシンNaの物性・性状は、

状態 白-微黄色の粉末
cmc(mmol/L) 14.57(30℃)
クラフト点(℃)

このように報告されています[2a][3a][4]

cmcおよびクラフト点についてそれぞれ順に解説しますが、まず界面活性剤の基礎知識であるミセル形成およびcmcについて解説します。

界面活性剤は親水基と疎水基(親油基)をもち、界面活性剤の現象として親水基部分は水に溶け込むものの、疎水基部分は安定しようとする性質があるため、以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

陰イオン界面活性剤の構造図

界面活性剤の濃度変化と界面活性剤の挙動の関係

界面活性剤のごく薄い水溶液では、1個ずつ単分散状態で溶解し、空気と水との界面にはあまり界面活性剤が集まっていないので、空気と水とはほとんど直接に接触していることになり、表面張力はあまり下がらず、水に近い状態ですが、界面活性剤の濃度が増していくにつれて水のないところ(溶液の表面や容器の壁面)に集まり、空気と水とが直接接触する面積を減少させ、それに比例して表面張力も下がっていきます[5a]

表面があるうちは表面に集まりますが、表面には限りがあるので、さらに界面活性剤の濃度が増していくと疎水基の逃げ場がなくなり、水との反発をなるべく減らすために、界面活性剤はお互いの疎水基を互いに向け合いはじめ、親水基を水側に向けて球状のミセル(micelle:会合体)を形成し始めます[5b][6a]

この疎水基の逃げ場がなくなってミセルが形成され始める濃度を臨界ミセル濃度(cmc:critical micelle concentration)と定義しており、また界面活性剤はミセルを形成することではじめて界面活性剤が有する様々な機能を発揮します(∗3)[6b]

∗3 cmc以上に界面活性剤の濃度を高めていくと、ミセルの数が増加し、次に棒状や板状のミセルとなり、それ以上の高濃度では液晶が形成されます。

次に、クラフト点とは個々の界面活性剤に固有の急激に溶解し始める温度(クラフト温度)のことをいいます[7]

界面活性剤は、クラフト温度以下の条件では水にほとんど溶けず、その濃度が臨界ミセル濃度以上であってもミセルを形成しませんが、クラフト点以上の温度以上で水への溶解性が急激に高くなり、その上で臨界ミセル濃度(cmc)以上の濃度によりミセルを形成することでその機能を発揮します[8][9]

1.3. 化粧品以外の主な用途

ラウロイルサルコシンNaの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 界面活性剤目的の医薬品添加剤として外用剤、歯科外用および口中用剤に用いられています[10]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 洗浄作用

主にこれらの目的で、シャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料、ハンドソープ製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 洗浄作用

洗浄作用に関しては、前提知識として洗浄作用および洗浄のメカニズムについて解説します。

「汚れる」ということは、汚れが固体表面へ付着することであり、汚れを除去するためには汚れの付着エネルギー以上のエネルギーを外部から加える必要があることが知られています[11a]

洗浄作用とは、この付着エネルギーを最小にして、汚れを取り除きやすくして汚れを再付着しにくくすることをいい、具体的な洗浄作用のメカニズムについては以下の洗浄のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

洗浄のメカニズム

まず汚れおよび固体表面が洗浄液でぬれ、次に汚れおよび固体表面に界面活性剤が吸着し、そして汚れがローリングアップ(∗4)、乳化、可溶化によって分散・溶解し、最後に再付着しないようにすすぐことで除去されるといった一連の過程になります[11b][12]

∗4 液体汚れが油滴となって固体表面から離脱する現象のことです。

アニオン界面活性剤においてアシルサルコシン塩は、皮膚に対して低刺激性であり、酸性pH領域で良好な界面活性を示し、セッケンと比較して耐硬水性に優れ、セッケンに劣らない洗浄力を特徴とする界面活性剤であることが知られており[13][14]、ラウロイルサルコシンNaは、皮膚刺激性が低く、セッケンに劣らない洗浄力と弱酸性領域で優れた起泡力を有し、きめ細かい泡が得られることから[2b][3b][15]、主にシャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料、ハンドソープ製品などに使用されています。

1985年に味の素中央研究所によって報告されたN-アシルサルコシンNaの起泡力検証によると、

– 泡立ち性試験 –

各脂肪酸のN-アシルサルコシンNaの0.1%溶液の起泡力をRoss&Miles法に基づいてpH5-11の範囲で測定したところ、以下のグラフのように、

各pHによる各脂肪酸のN-アシルサルコシンNaの起泡性

N-アシルサルコシンNaは脂肪酸の違いにより泡立ちが異なり、ラウロイルサルコシンNaは比較的広いpHで泡立ちが良く、弱酸性洗浄剤としても使用が可能であることを示した。

このような検証結果が明らかにされており[16]、ラウロイルサルコシンNaは幅広いpH領域で良好な泡立ちが認められています。

3. 配合製品数および配合量範囲

ラウロイルサルコシンナトリウムは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 上限なし
育毛剤 配合不可
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 配合不可
薬用口唇類 配合不可
薬用歯みがき類 0.50
浴用剤 配合不可
染毛剤 上限なし
パーマネント・ウェーブ用剤 上限なし

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1998年および2015-2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗5)

∗5 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ラウロイルサルコシンNaの配合製品数と配合量の比較調査結果(1998年および2015-2016年)

4. 安全性評価

ラウロイルサルコシンNaの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性(リーブオン製品):濃度5%以下においてほとんどなし-最小限
  • 皮膚刺激性(リンスオフ製品):濃度15%以下において安全に使用可能
  • 眼刺激性:濃度5%以下においてほとんどなし-わずか
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 皮膚吸収性:非常に低い

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[17a][18a]によると、

  • [ヒト試験] 200名の被検者に5%ラウロイルサルコシンNa水溶液を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、皮膚刺激の兆候はみられなかった。3週間後に同じく5%溶液でチャレンジパッチを適用し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、皮膚感作の兆候はみられなかった(Technology Sciences Group Inc,1994)
  • [ヒト試験] 50名の被検者に5%ラウロイルサルコシンNa水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間においていくつかの散発的な紅斑がみられたが、チャレンジパッチにおいていずれの被検者も皮膚反応はみられなかった(Technology Sciences Group Inc,1994)

– 個別事例 –

  • [個別事例] 手、顔および首に急性の重度の湿疹反応を発症した女性に開放パッチテストを実施したところ、使用していたハンドソープで+3の水疱反応がみられたため、個々の成分をパッチテストした。その結果、ラウロイルサルコシンNa水溶液で+3の水疱反応がみられた。2名の被検者に石鹸とラウロイルサルコシンNaをパッチテストしたところ、陰性であった(A. Zemtsov,2005)
  • [個別事例] 慢性手湿疹を有する女性患者にラウロイルサルコシンNaを含むクレンジング製品を半閉塞パッチ適用したところ、陽性反応を示した。ラウロイルサルコシンNaの濃度を0.1,0.5および1.0%でフォローアップパッチテストを実施したところ、98時間での反応はそれぞれ-,+/-および+であった(J.L. Hanson,2015)

このように、試験データをみるかぎり濃度5%以下において非刺激-最小限の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-最小限の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

ただし、実際はリンスオフ製品のみに使用されており、濃度15%以下においてリンスオフ製品に使用しても安全に使用できると結論付けられていることから[17b]、リンスオフ製品においては濃度15%以下において安全に使用できると考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[17c]によると、

  • [動物試験] 10匹のウサギの片眼に5%ラウロイルサルコシンNa水溶液0.1mLを点眼し、Draize法に基づいて点眼2,4および24時間後に眼刺激性を評価したところ、2時間後でいくつかの角膜刺激がみられたが、これらは数日内にはすべて消失し、角膜への明らかな損傷はなかった(Technology Sciences Group Inc,1994)

このように、試験データをみるかぎり非刺激-わずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

4.3. 皮膚吸収性および排泄

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[17d][18b]によると、

  • [in vitro試験] ヒト表皮を介してラウロイルサルコシンNaの皮膚浸透性を検討したところ、経表皮に0.061 ± 0.013µgの非常にわずかなラウロイルサルコシンNaがみられた(YC Kim et al,2008)
  • [動物試験] ラットにラウロイルサルコシンNaを投与したところ、24時間以内に50mg/kg投与量の82-89%が尿および糞尿に排泄され、さらに24時間後に1-2%が尿中に排泄された。排泄物のほぼすべてが尿中に検出された(Geigy Chemical Corp,-)

このように、試験データをみるかぎり非常にわずかな表皮吸収性が報告されているため、一般に皮膚吸収性は非常に低いと考えられます。

また、皮膚吸収された場合においても24時間以内に約80-90%が尿中に排泄され、その後も数%が経時的に排泄されると考えられます。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「ラウロイルサルコシンNa」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1057-1058.
  2. ab日光ケミカルズ株式会社(2021)「N-アシルアミノ酸塩」製品カタログ,47-48.
  3. ab川研ファインケミカル株式会社(2014)「ソイポンシリーズの紹介」Technical Data Sheet.
  4. Sigma-Aldrich, Inc.(-)「N-Lauroylsarcosine sodium salt」Product Information.
  5. ab藤本 武彦(2007)「界面活性剤の基本的な性質と作用」界面活性剤入門,14-26.
  6. ab鈴木 敏幸(2003)「臨界ミセル濃度」化粧品事典,846.
  7. 鈴木 敏幸(2003)「クラフト点」化粧品事典,427-428.
  8. 藤本 武彦(2007)「界面活性剤の親水基の種類と性質の関係」界面活性剤入門,147-152.
  9. 野々村 美宗(2015)「界面活性剤の相挙動」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,30-33.
  10. 日本医薬品添加剤協会(2021)「ラウロイルサルコシンナトリウム」医薬品添加物事典2021,700.
  11. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄のメカニズム」新化粧品原料ハンドブックⅡ,631-635.
  12. 鈴木 敏幸(2003)「洗浄剤」化粧品事典,567.
  13. 日光ケミカルズ株式会社(2006)「N-アシルサルコシン塩」新化粧品原料ハンドブックⅡ,180-181.
  14. 橋本 悟(2009)「アニオン界面活性剤」界面と界面活性剤 改訂第2版,42-47.
  15. 伊藤 知男・林 静男(1969)「シャンプー」油化学(18)(Supplement),26-35. DOI:10.5650/jos1956.18.Supplement_26.
  16. 竹原 将博(1985)「アミノ酸系界面活性剤」油化学(34)(11),964-972. DOI:10.5650/jos1956.34.964.
  17. abcdF.A. Andersen(2001)「Final Report on the Safety Assessment of Cocoyl Sarcosine, Lauroyl Sarcosine, Myristoyl Sarcosine, Oleoyl Sarcosine, Stearoyl Sarcosine, Sodium Cocoyl Sarcosinate, Sodium Lauroyl Sarcosinate, Sodium Myristoyl Sarcosinate, Ammonium Cocoyl Sarcosinate, and Ammonium Lauroyl Sarcosinate」International Journal of Toxicology(20)(1_suppl),1-14. DOI:10.1080/10915810152902547X.
  18. abM.M. Fiume, et al(2021)「Amended Safety Assessment of Fatty Acyl Sarcosines and Sarcosinate Salts as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(40)(2_suppl),117S-133S. DOI:10.1177/10915818211023881.

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