ラウロイルグルタミン酸Naの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ラウロイルグルタミン酸Na |
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医薬部外品表示名 | N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム |
部外品表示簡略名 | ラウロイルグルタミン酸Na |
INCI名 | Sodium Lauroyl Glutamate |
配合目的 | 洗浄、乳化安定化 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるラウリン酸とグルタミン酸との縮合物のナトリウム塩であり、アミノ酸系界面活性剤のアシルグルタミン酸塩(Acyl Glutamate:AG)に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です[1][2a]。
1.2. 物性・性状
ラウロイルグルタミン酸Naの物性・性状は、
状態 | 白-微黄色の粉末 |
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cmc(mmol/L) | 10.6(40℃) |
クラフト点(℃) | 39 |
cmcおよびクラフト点についてそれぞれ順に解説しますが、まず界面活性剤の基礎知識であるミセル形成およびcmcについて解説します。
界面活性剤は親水基と疎水基(親油基)をもち、界面活性剤の現象として親水基部分は水に溶け込むものの、疎水基部分は安定しようとする性質があるため、以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
界面活性剤のごく薄い水溶液では、1個ずつ単分散状態で溶解し、空気と水との界面にはあまり界面活性剤が集まっていないので、空気と水とはほとんど直接に接触していることになり、表面張力はあまり下がらず、水に近い状態ですが、界面活性剤の濃度が増していくにつれて水のないところ(溶液の表面や容器の壁面)に集まり、空気と水とが直接接触する面積を減少させ、それに比例して表面張力も下がっていきます[5a]。
表面があるうちは表面に集まりますが、表面には限りがあるので、さらに界面活性剤の濃度が増していくと疎水基の逃げ場がなくなり、水との反発をなるべく減らすために、界面活性剤はお互いの疎水基を互いに向け合いはじめ、親水基を水側に向けて球状のミセル(micelle:会合体)を形成し始めます[5b][6a]。
この疎水基の逃げ場がなくなってミセルが形成され始める濃度を臨界ミセル濃度(cmc:critical micelle concentration)と定義しており、また界面活性剤はミセルを形成することではじめて界面活性剤が有する様々な機能を発揮します(∗1)[6b]。
∗1 cmc以上に界面活性剤の濃度を高めていくと、ミセルの数が増加し、次に棒状や板状のミセルとなり、それ以上の高濃度では液晶が形成されます。
次に、クラフト点とは個々の界面活性剤に固有の急激に溶解し始める温度(クラフト温度)のことをいいます[7]。
界面活性剤は、クラフト温度以下の条件では水にほとんど溶けず、その濃度が臨界ミセル濃度以上であってもミセルを形成しませんが、クラフト点以上の温度以上で水への溶解性が急激に高くなり、その上で臨界ミセル濃度(cmc)以上の濃度によりミセルを形成することでその機能を発揮します[8][9]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
ラウロイルグルタミン酸Naの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 乳化目的の医薬品添加剤として外用剤に用いられています[10]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 洗浄作用
- 乳化安定化
主にこれらの目的で、洗顔料、洗顔パウダー、洗顔石鹸、シャンプー製品、ボディソープ製品、ハンドソープ製品、クレンジング製品、スキンケア製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、ハンドケア製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 洗浄作用
洗浄作用に関しては、前提知識として洗浄作用および洗浄のメカニズムについて解説します。
「汚れる」ということは、汚れが固体表面へ付着することであり、汚れを除去するためには汚れの付着エネルギー以上のエネルギーを外部から加える必要があることが知られています[11a]。
洗浄作用とは、この付着エネルギーを最小にして、汚れを取り除きやすくして汚れを再付着しにくくすることをいい、具体的な洗浄作用のメカニズムについては以下の洗浄のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
まず汚れおよび固体表面が洗浄液でぬれ、次に汚れおよび固体表面に界面活性剤が吸着し、そして汚れがローリングアップ(∗2)、乳化、可溶化によって分散・溶解し、最後に再付着しないようにすすぐことで除去されるといった一連の過程になります[11b][12]。
∗2 液体汚れが油滴となって固体表面から離脱する現象のことです。
アニオン界面活性剤においてアシルグルタミン酸塩は、皮膚または粘膜に対する刺激が少なく、適度な起泡力および洗浄力を有することが知られており[13][14a][15]、ラウロイルグルタミン酸Naは皮膚と同じ弱酸性を示し、低刺激性で耐硬水性、適度な洗浄力および起泡力を有すること、使用後になめらかな感触を付与することから[2c]、主に洗顔料、洗顔パウダー、洗顔石鹸、シャンプー製品、ボディソープ製品、ハンドソープ製品などに使用されています。
シャンプー製品に使用した場合は、毛髪にきしみ感が残りますが、この問題はポリクオタニウム-10などのカチオン化セルロースを併用することで解決できることが知られており[14b]、一般にカチオン化セルロースなどきしみ感をなくす処方が用いられています。
1990年に資生堂によって報告された陰イオン性界面活性剤の人工皮脂に対する洗浄性比較検証によると、
– 洗浄性試験 –
各油脂を混合した人工皮脂にカーボンブラックを加えた汚垢(おこう)を用いて、陰イオン性界面活性剤であるラウリン酸Na、ラウリル硫酸Na、ラウレス硫酸Na、ラウロイルグルタミン酸NaおよびココイルメチルタウリンNaそれぞれ10mM濃度の人工皮脂に対する洗浄力を40℃および2分間の洗浄で評価したところ、以下のグラフのように、
ラウロイルグルタミン酸Naは人工皮脂に対して他の陰イオン界面活性剤と同等の優れた洗浄力をもつことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[16]、ラウロイルグルタミン酸Naは皮脂に対する洗浄力が認められています。
2.2. 乳化安定化
乳化安定化に関しては、ラウロイルグルタミン酸Naは親水性の陰イオン性界面活性剤であり、低HLBの非イオン性界面活性剤と混合することにより液晶ゲルネットワークを形成することから[17]、乳化安定化目的で乳化系スキンケア製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、ハンドケア製品などに使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
ラウロイルグルタミン酸Naは混合原料が開発されており、ラウロイルグルタミン酸Naと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | ASL |
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構成成分 | ラウロイルグルタミン酸Na、リシン、塩化Mg |
特徴 | 油剤への分散性、撥水性、肌との親和性に優れ、クリーミィでしっとりした感触を付与する顔料の表面処理剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度10%以下においてほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
- タンパク質変性:中程度
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下の中で非刺激性になるよう配合される場合において一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[18a]および資生堂の試験データ[4b]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 20名の被検者の肘屈曲部に10%活性ラウロイルグルタミン酸Naを対象に1日3回60秒間の洗浄を5日間連続で実施(Flex Wash Test)し、各洗浄の前および最後の洗浄の4時間後に皮膚刺激を7段階(0,+,1,1+,2,2+,3)で評価したところ、刺激スコアは0.5以下であり、この試験製剤は非刺激剤に分類された(Zschimmer & Schwarz Italiana Spa,2007)
- [動物試験] 4匹のウサギに5%ラウロイルグルタミン酸Na水溶液を対象に皮膚刺激性試験を実施したところ、この試験物質は軽度の皮膚刺激剤であった(Anonymous,1991)
- [動物試験] 3匹のモルモットに代表的な陰イオン界面活性剤100mMを3日間連続でそれぞれ0.3mL塗布し、1日ごとに0-4の評点で評価したところ、以下の表のように、
界面活性剤 累積刺激スコア ラウリル硫酸Na 2.1 ラウレス硫酸Na 0.8 ラウロイルグルタミン酸Na 0.3 ココイルメチルタウリンNa 0.2 ラウロイルグルタミン酸Naはほとんど累積刺激性がなかった(資生堂,1989)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 皮膚炎を有する29名の患者に代表的な各界面活性剤水溶液それぞれ50mM(0.05mol/L)および100mM(0.1mol/L)を対象に48時間閉塞パッチを適用し、パッチ除去24時間後に皮膚刺激性を0,0.5,1,2,3,4の6段階で評価したところ、以下の表のように、
界面活性剤 陽性数(29名中) 平均刺激スコア 100mM 50mM 100mM 50mM ラウリン酸Na 23 12 1.09 0.66 ラウリル硫酸Na – 28 – 1.66 ラウレス硫酸Na 16 13 0.76 0.63 ラウロイルグルタミン酸Na 11 12 0.60 0.63 ココイルメチルタウリンNa 13 12 0.64 0.62 ラウロイルグルタミン酸Naはで皮膚刺激を示したのは12名であり、刺激スコアも0.63(0-1:刺激なし-わずかな刺激)とラウリン酸セッケンとほぼ同等であった(資生堂,1989)
このように、試験データをみるかぎりリーブオン製品に配合される場合、濃度10%以下において非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
ただし、被刺激性になるように配合されている場合、現在の使用法および化粧品配合濃度において安全であると結論付けられています[18b]。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[18c]によると、
- [in vitro試験] 鶏卵の漿尿膜を用いて5%活性ラウロイルグルタミン酸Naを処理したところ(HET-CAM法)、この試験物質は非刺激剤と予測された(Zschimmer & Schwarz Italiana Spa,2007)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度5%で眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[18d]によると、
- [ヒト試験] 20名の被検者に5%活性ラウロイルグルタミン酸Naを対象に閉塞パッチ試験を実施したところ、いずれの被検者も感作反応を示さなかった(Zschimmer & Schwarz Italiana Spa,2007)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.4. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[18e]によると、
- [ヒト試験] 被検者(人数不明)に0.1-5%ラウロイルグルタミン酸Na水溶液を対象に光刺激性および光感作性試験を実施したところ(詳細不明)、いずれの被検者においても光刺激および光感作反応はみられなかった(Zschimmer & Schwarz Italiana Spa,2007)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
5.5. タンパク質変性
界面活性剤が皮膚刺激性を発現するためには、角層バリアを障害する機能として角質タンパク変性能を有する必要があると考えられています。
1989年に資生堂によって報告された代表的な陰イオン界面活性剤のタンパク変性への影響検証によると、
∗4 ケラチンパウダーとは、毛髪に類似したタンパク質配合パウダーであり、ハイドパウダーは頭皮に類似したタンパク質配合パウダーです。
∗5 収着とは固体が気体や溶液と接触しているとき、吸着質が固体表面に吸着すると同時にさらに固体の内部に拡散吸収される現象のことをいいます。
ラウロイルグルタミン酸Naは、毛髪への吸着は少ないものの、頭皮への吸着性は硫酸系と同等であることがわかった。
次に、同様の陰イオン性界面活性剤を各濃度10mMに調整しタンパク変成率を資生堂が開発した簡易で精度の高い水系GPCを用いて測定したところ、以下のグラフのように、
ラウロイルグルタミン酸Naは、ラウリル硫酸Naほどではないものの、中程度のタンパク質変性を示した。
このように報告されており[4c]、ラウロイルグルタミン酸Naは頭皮への収着性が高いものの、タンパク質変性においては中程度を示すことが認められています。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ラウロイルグルタミン酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1054.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社, 他(1991)「N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム」化粧品原料辞典,510-511.
- ⌃吉田 良之助・竹原 将博(1975)「アミノ酸および脂肪酸を原料とする新しい界面活性剤について」有機合成化学協会誌(33)(9),671-678. DOI:10.5059/yukigoseikyokaishi.33.671.
- ⌃abc宮澤 清, 他(1989)「頭皮・頭髪用洗浄剤としてのアニオン界面活性剤の研究」油化学(38)(4),297-305. DOI:10.5650/jos1956.38.297.
- ⌃ab藤本 武彦(2007)「界面活性剤の基本的な性質と作用」界面活性剤入門,14-26.
- ⌃ab鈴木 敏幸(2003)「臨界ミセル濃度」化粧品事典,846.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「クラフト点」化粧品事典,427-428.
- ⌃藤本 武彦(2007)「界面活性剤の親水基の種類と性質の関係」界面活性剤入門,147-152.
- ⌃野々村 美宗(2015)「界面活性剤の相挙動」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,30-33.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム」医薬品添加物事典2021,700.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄のメカニズム」新化粧品原料ハンドブックⅡ,631-635.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「洗浄剤」化粧品事典,567.
- ⌃吉田 良之助, 他(1977)「新界面活性剤 N-アシルグルタマートの製造技術及び応用技術の開発と工業化」油化学(26)(12),747-753. DOI:10.5650/jos1956.26.747.
- ⌃ab竹原 将博(1985)「アミノ酸系界面活性剤」油化学(34)(11),964-972. DOI:10.5650/jos1956.34.964.
- ⌃坂本 一民(1995)「アミノ酸系界面活性剤」油化学(44)(4),256-265. DOI:10.5650/jos1956.44.256.
- ⌃宮澤 清, 他(1990)「頭皮・頭髪用洗浄剤(シャンプー) としてのN-アシル-N-メチルタウリン(AMT)の開発と工業化」油化学(39)(11),925-930. DOI:10.5650/jos1956.39.11_925.
- ⌃Zschimmer & Schwarz Italiana S.p.A.(2004)「Protelan AGL 95 and Protelan AGL 95/C as Emulsifiers in O/W Emulsions」Protelan AGL 95 and Protelan AGL 95/C brochure,11.
- ⌃abcdeC.L. Burnett(2017)「Safety Assessment of Amino Acid Alkyl Amides as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(36)(1_suppl),17S-56S. DOI:10.1177/1091581816686048.